1960年代末から70年代にかけて、アメリカの音楽チャートを席巻したバンド、Three Dog Night。
グループ名は、“とても寒い夜に犬を三匹抱えて眠る”というオーストラリア先住民の言い回しに由来しており、その暖かくもパワフルなイメージが彼らの音楽に重なるところがある。
ポップ・ロックやソウル、R&Bの要素を取り入れながら、多彩なボーカリストが織り成すハーモニーで数々の大ヒットを打ち立てたのだ。
Three Dog Nightのサウンドを語る上で欠かせないのは、コーリー・ウェルズ、チャック・ネグロン、ダニー・ホットンといった複数のリードボーカルを擁していた点である。
楽曲に応じてリードが入れ替わりながらも、みごとなコーラスワークで統一感を生み出すスタイルは、当時のロックバンドとしては珍しく、新鮮なインパクトをもたらした。
さらに各メンバーの違う声質が合わさることで、ロックやR&B、フォークの枠を超えた幅広いジャンルを自然に取り込むことができたのも強みといえる。
彼らはオリジナル曲だけでなく、外部のソングライターや既存楽曲を取り上げ、独自にアレンジしてヒットへと導く手法で知られる。
例えばハリー・ニルソンのカバー「One」は、Three Dog Nightのバージョンがチャート上位を飾り、そのタイトル通り“唯一無二”の存在感を放った。
ほかにも、「Mama Told Me (Not to Come)」(ランディ・ニューマン作)や「An Old Fashioned Love Song」(ポール・ウィリアムズ作)など、バンドによるアレンジで大衆に浸透した楽曲は数多い。
1971年リリースの「Joy to the World」は全米1位を獲得し、彼らの名声を決定づけた一曲となった。
陽気で親しみやすいメロディが魅力で、サビのフレーズは耳に残りやすく、ライブでもクライマックスを飾る定番ナンバーとして人気を博した。
“Bullfrog”というユニークな歌い出しや、賑やかなリズムセクションが加わり、歌う楽しさにあふれたまさに“みんなで歌えるロック”の典型といえるだろう。
Three Dog Nightは1970年代前半にかけて怒涛のヒットを連発し、シングルやアルバムのセールスも好調だった。
しかし、メンバー間の意見の食い違いや、音楽性の変化、そして時代の流れもあって、次第に解散や再結成を繰り返すようになる。
とはいえ、そのキャッチーなメロディと複数ボーカルのハーモニーに惹かれるファンは多く、断続的なライブ活動を行う形で人気を持続させてきた。
特筆すべきは、彼らが“ロックだけでなくR&Bやソウル、フォークの風合い”を活かした楽曲を次々にヒットチャートに送り込み、“ポップロック”を幅広い層に定着させたという功績だ。
その親しみやすさゆえに、ラジオや映画、テレビ番組でも使用され、現在も世界中で楽曲が愛聴されている。
またバンドのスタイルは、後年のAORシーンや複数ボーカルを持つバンドたちにとっても大いに参考となった。
1970年代の輝かしい時代から半世紀近くが経った今でも、「Joy to the World」や「One」、「Mama Told Me (Not to Come)」などの名曲群はクラシックとして残り、さまざまなアーティストによってカバーされることが多い。
Three Dog Nightの“みんなで歌えるロック”というコンセプトは時代を超え、何気ない日常やパーティーの場面を鮮やかに彩る音楽として根付いているのだ。
もしThree Dog Nightに初めて触れるなら、ベストアルバムで代表曲を一通り味わうのがよいだろう。
複数のリードボーカルが織り成す豊かなハーモニーと、ポップなサウンドが織り交わる世界に身をゆだねてみると、1970年代アメリカの空気を思い描きながら、爽やかな歌の魅力を存分に感じられるはずだ。
そこには、シンプルながらも心踊るロックのエッセンスが脈々と流れているのである。
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