
- 発売日: 2013年9月17日
- ジャンル: ネオ・サイケデリア、サイケデリック・ポップ、エクスペリメンタル・ポップ、インディー・ロック、アート・ロック、エレクトロニック・ロック
概要
MGMTの3作目のスタジオ・アルバム『MGMT』は、バンドが自らの名前を冠しながら、最も奇妙で、最も内向的で、最も実験的な方向へ踏み込んだ作品である。2007年のデビュー作『Oracular Spectacular』は、「Time to Pretend」「Electric Feel」「Kids」という大ヒット曲によって、MGMTを2000年代末のインディー・ポップを象徴する存在へ押し上げた。シンセポップ、インディー・ダンス、サイケデリア、皮肉な青春感が結びついた同作は、フェスティバルやクラブ、音楽ブログを通じて広く浸透した。
しかし、2010年の2作目『Congratulations』で、MGMTはその成功をなぞることを拒否した。彼らは分かりやすいシングル路線から距離を置き、1960年代サイケデリック・ポップ、プログレッシブ・ロック、アート・ポップ、カルト的なインディー・ポップへの偏愛を前面に出した。『Congratulations』はリリース当初こそ戸惑いも生んだが、時間を経て、MGMTの作家性を示す重要作として評価されるようになった。
その次に発表されたセルフタイトル作『MGMT』は、さらに一歩先へ進んだアルバムである。『Congratulations』がまだ楽曲単位のポップな輪郭を保っていたのに対し、本作では曲の構造そのものがより溶け、歪み、曖昧になっている。メロディはあるが、しばしばノイズや電子音、サイケデリックな処理の奥に隠れる。リズムはあるが、ダンス・ポップ的な明快さには向かわない。歌は存在するが、前面に出るというより、幻覚的な音響の一部として漂う。つまり『MGMT』は、バンド名を掲げた作品でありながら、一般的な意味での自己紹介ではなく、むしろ自分たちのイメージをさらにぼかし、解体するアルバムである。
本作の特徴は、サイケデリックであることを単なるレトロ趣味として扱っていない点にある。1960年代的なカラフルなサイケデリアや、分かりやすいドラッグ・カルチャーの再現ではなく、ここでのサイケデリアは、知覚の歪み、情報過多、記憶の混濁、現実感の薄れとして表現されている。音はしばしば輪郭を失い、ヴォーカルにはエフェクトがかかり、シンセサイザーは美しく輝くというより、不安定に揺れる。アルバム全体は、ポップ・ソング集というより、夢と覚醒の間で聞こえるラジオのような感触を持つ。
『MGMT』というタイトルも重要である。通常、セルフタイトル・アルバムは、バンドが自分たちの本質を示す作品として位置づけられることが多い。しかしMGMTの場合、その「本質」とは明快なスタイルではなく、むしろ変化し続けること、期待から逃げること、ポップと実験の境界で不安定に揺れることにある。本作はその意味で、彼らにとって非常に正直なアルバムである。売れる曲を作ることでも、前作の評価をなぞることでもなく、自分たちが本当に興味を持つ奇妙な音響空間へ沈んでいく。その姿勢が、セルフタイトルという形式と逆説的に合っている。
音楽的には、電子音楽、サイケデリック・ポップ、ノイズ、アンビエント、クラウトロック、ドリーム・ポップ、アート・ロックが混ざり合う。The Flaming Lips、Sonic Boom、Syd Barrett、Suicide、Silver Apples、初期Pink Floyd、Broadcast、Animal Collectiveなどを連想させる要素もあるが、MGMTはそれらを明快な引用として整えるのではなく、あえて溶かして混濁させている。そのため、本作は聴きやすいアルバムではない。むしろ、ヒット・シングルを期待する聴き手にとっては、かなり取っつきにくい作品である。
歌詞面では、自己消失、不安、幻覚、社会との距離、孤独、現代生活の違和感、精神の疲労が繰り返し表れる。『Oracular Spectacular』では、若者の快楽やロックスター幻想が皮肉を込めて描かれていた。『Congratulations』では、成功と名声への違和感がより明確になった。『MGMT』では、その違和感がさらに内側へ向かい、外の世界よりも意識そのものの混乱が主題になる。ここでは、何かを批評するというより、すでに壊れかけた知覚の中で世界を見ているような感覚がある。
日本のリスナーにとって本作は、MGMTを「Kids」や「Electric Feel」のバンドとして捉えている場合、非常に異質に聞こえる作品である。しかし、サイケデリック・ポップや実験的なインディー・ロックに関心があるリスナーにとっては、彼らの最も深く、最も奇妙な側面を知るための重要作である。即効性のある名曲集ではなく、音の質感、幻覚的な構成、曖昧なメロディ、精神的な不安を浴びるアルバムである。
全曲レビュー
1. Alien Days
オープニング曲「Alien Days」は、『MGMT』の世界観を最もよく示す楽曲である。タイトルは「異星人の日々」と読め、日常がどこか異物化して見える感覚を表している。現実の中にいるはずなのに、まるで別の惑星にいるような違和感。これは本作全体を貫くテーマである。
音楽的には、穏やかなサイケデリック・ポップの形を取りながら、音像は不安定に揺れている。メロディは美しく、比較的聴きやすい部類に入るが、シンセサイザーやエフェクト処理によって、曲全体に夢の中のような膜がかかっている。子どもの声のような導入も、無邪気さと不気味さを同時に生む。
歌詞では、普通の日々が異星的に変質していく感覚が描かれる。これはSF的な逃避というより、現代生活の疎外感に近い。人と会い、街を歩き、音楽を作りながらも、どこか自分がこの世界に属していないように感じる。その感覚が「Alien Days」という言葉に集約されている。
「Alien Days」は、本作の中では比較的ポップな入り口でありながら、単純なキャッチーさには向かわない。美しいメロディと不安定な音響が共存し、MGMTがこのアルバムで目指す「奇妙なポップ」の方向性を明確に示している。
2. Cool Song No. 2
「Cool Song No. 2」は、タイトルからして皮肉を感じさせる楽曲である。「クールな曲その2」という投げやりな名前は、ポップ・ソングに付けられる期待や、楽曲タイトルの意味深さそのものをからかっているようにも見える。だが、音楽は非常に作り込まれており、アルバムの中でも重要な一曲である。
音楽的には、低くうねるベース、サイケデリックなシンセ、湿ったリズム、曖昧なヴォーカルが絡み合う。曲はダンサブルに聞こえる瞬間もあるが、クラブ的な明快さには届かない。むしろ、身体を動かそうとすると足元がずれるような、不安定なグルーヴがある。
歌詞では、関係の崩壊や存在の揺らぎが断片的に描かれる。MGMTの言葉はここで、はっきりした物語を語るよりも、音の中に意味の断片を散らすように機能している。相手への呼びかけのようでもあり、自分自身の意識への問いかけのようでもある。
「Cool Song No. 2」は、タイトルの軽さに反して、かなり暗く、重い曲である。MGMTはここで、ポップ・ソングの表面を保ちながら、その内側をサイケデリックに崩している。『MGMT』というアルバムの不安定な魅力をよく表した楽曲である。
3. Mystery Disease
「Mystery Disease」は、タイトル通り「謎の病」をテーマにした楽曲である。病気という言葉は、ここでは身体的なものだけでなく、精神的な不安、社会的な感染、名声による疲労、現代的な違和感の比喩としても読める。『MGMT』の中でも、特にダークで不穏な曲である。
音楽的には、電子音とリズムが複雑に絡み、曲全体に神経質な緊張がある。ヴォーカルはエフェクトに包まれ、明確な肉声というより、病んだ通信のように響く。音の輪郭はぼやけ、シンセサイザーは美しいというより、少し毒を含んでいる。
歌詞では、原因の分からない不調や、説明できない異常が描かれる。これは、成功後の精神的な疲労にも、社会全体に広がる不安にも重ねられる。何が悪いのか分からないが、確かに何かがおかしい。その感覚は、2010年代以降の情報過多な生活にもよく合っている。
「Mystery Disease」は、本作の中でサイケデリアの不快な側面を担う曲である。幻想的で美しいというより、幻覚によって現実の輪郭が崩れ、原因不明の不安に包まれるような楽曲である。
4. Introspection
「Introspection」は、1960年代のサイケデリック・バンドFaine Jadeの楽曲のカバーである。タイトルは「内省」を意味し、本作のテーマに非常によく合っている。MGMTがこの曲を選んだことは、彼らのサイケデリック・ポップへの深い関心を示すと同時に、アルバム全体の内向きな性格を補強している。
音楽的には、原曲のサイケデリックな骨格を保ちながら、MGMTらしい電子的で歪んだ処理が加えられている。ギター、シンセ、ヴォーカルが層を作り、曲は明るさと不安の間で揺れる。ポップなメロディはあるが、音像はやや濁っており、懐古的な再現ではなく、現代的に変質したサイケデリアになっている。
歌詞では、自分自身の内側を見つめることがテーマになる。だが、内省は必ずしも安心をもたらさない。内側を見れば見るほど、そこにある矛盾や不安、知らなかった自分と向き合うことになる。『MGMT』というアルバム全体が、そのような内省の迷宮として作られている。
「Introspection」は、カバー曲でありながら本作に自然に溶け込んでいる。MGMTが過去のサイケデリック・ポップを単なる資料としてではなく、自分たちの精神状態を映す鏡として扱っていることが分かる。
5. Your Life Is a Lie
「Your Life Is a Lie」は、本作の中で最も直接的で、最もシングルらしい楽曲である。タイトルは「君の人生は嘘だ」という非常に強い言葉であり、MGMTらしい皮肉と不条理が前面に出ている。短く、反復的で、奇妙にキャッチーな曲である。
音楽的には、単純なリズムと反復するフレーズが中心で、ほとんど子どもの歌のような明快さがある。しかし、その明快さは無邪気ではない。むしろ、あまりにも単純な言葉とリズムによって、現実そのものが空虚に見えてくる。曲はポップであると同時に、不気味なプロパガンダのようにも響く。
歌詞はタイトルの通り、人生の虚偽を突きつける。だが、それは真面目な哲学的説教ではなく、短いフレーズの反復によって、むしろジョークのように提示される。この軽さが重要である。MGMTは重いテーマを、重々しく語るのではなく、奇妙なポップの形に圧縮する。
「Your Life Is a Lie」は、アルバムの中で最も即効性がある曲だが、その分、MGMTのひねくれたユーモアも濃い。キャッチーであることと、不快であることが同時に成立している。彼らのポップ感覚の特殊さを示す一曲である。
6. A Good Sadness
「A Good Sadness」は、タイトルからして矛盾を含んだ楽曲である。「良い悲しみ」とは、悲しみが単なる苦痛ではなく、ある種の浄化や理解をもたらす状態を示しているように読める。『MGMT』の中でも、感情の曖昧さが強く表れた曲である。
音楽的には、電子音の反復とサイケデリックな音響が中心で、曲は明確なポップ・ソングの形から少し離れている。リズムはあるが、踊るためのものというより、内側で脈打つような感覚を作る。ヴォーカルは遠く、歌詞の意味よりも音の層として機能している。
歌詞では、悲しみを避けるのではなく、その中にある奇妙な心地よさや受容が示唆される。悲しみは必ずしも悪いものではない。時には、現実を見つめるために必要な感情でもある。この曲は、その複雑な感情を明快な言葉ではなく、音の揺らぎとして表現している。
「A Good Sadness」は、本作の中でも特に抽象的な曲である。明確なサビや劇的な展開を求めると掴みにくいが、アルバム全体の精神的な深みに大きく貢献している。悲しみが音響の中でゆっくり変質していくような楽曲である。
7. Astro-Mancy
「Astro-Mancy」は、占星術や星による予言を連想させるタイトルを持つ楽曲である。「Astro」は星や宇宙を、「mancy」は占いを意味する接尾辞であり、曲全体には宇宙的で神秘的な雰囲気がある。ただし、ここでの宇宙感は壮大でロマンティックなものではなく、冷たく、遠く、やや不気味である。
音楽的には、浮遊するシンセサイザー、曖昧なリズム、遠くから聞こえるようなヴォーカルが中心となる。曲ははっきりとした地面を持たず、宇宙空間を漂うように進む。MGMTのサイケデリアはここで、地上の心理的不安から宇宙的な不確かさへ拡張される。
歌詞では、星や運命、未来の読み取りのようなイメージが感じられる。だが、占いは答えを与えるようでいて、実際には不安を増幅することもある。未来を知りたいという欲望は、未来が分からないことへの恐れの裏返しである。この曲は、その不安を音にしている。
「Astro-Mancy」は、『MGMT』の中で最も浮遊感の強い曲のひとつである。ポップな輪郭は薄く、音の空間そのものが主役になっている。宇宙的なサイケデリアを、内面の不安と結びつけた楽曲である。
8. I Love You Too, Death
「I Love You Too, Death」は、本作の中でも特に重く、暗いタイトルを持つ楽曲である。「死よ、僕も君を愛している」と読めるこの言葉には、死への恐れ、受容、諧謔、魅惑が複雑に混ざっている。MGMTのポップ・ユーモアはここで非常に黒く、深いものになっている。
音楽的には、非常にゆっくりとしたテンポで、音は少なく、空間が大きく取られている。曲は通常のポップ・ソングのように分かりやすく展開せず、暗い部屋の中で思考が漂うように進む。ヴォーカルは奥に沈み、音の輪郭は曖昧で、夢と死の境界にいるような感覚を生む。
歌詞では、死という存在が単なる終わりではなく、対話の相手のように扱われる。死を拒絶するのでも、ロマンティックに美化するのでもなく、奇妙な親密さをもって見つめる。この曲の暗さは、ゴシック的な大げささではなく、もっと静かで、ぼんやりとした受容に近い。
「I Love You Too, Death」は、『MGMT』の中でも最も内向的で、聴き手を選ぶ楽曲である。しかし、本作の深部にある死生観や精神的な疲労を理解するうえでは重要である。ポップ・アルバムの中に置かれた、暗い瞑想のような曲である。
9. Plenty of Girls in the Sea
「Plenty of Girls in the Sea」は、英語の慣用句「There are plenty of fish in the sea」をもじったタイトルである。本来は「相手は他にもたくさんいる」という失恋の慰めの言葉だが、ここでは「fish」が「girls」に置き換えられ、どこか軽薄で皮肉なニュアンスが生まれている。
音楽的には、アルバムの中では比較的明るく、軽いサイケデリック・ポップとして響く。マリンバやトロピカルな音色を思わせる要素もあり、一見すると楽しげである。しかし、その明るさはどこか人工的で、少し気持ち悪い。MGMTらしく、陽気さの裏に違和感がある。
歌詞では、恋愛や相手探しが軽いジョークのように扱われる。だが、その軽さには空虚さもある。人がたくさんいるから大丈夫、という慰めは、個人の痛みを簡単に処理してしまう言葉でもある。この曲は、その安っぽい慰めを笑いながら、どこか虚しさも残す。
「Plenty of Girls in the Sea」は、アルバム後半に少し風通しのよいポップ感を与える曲である。しかし、完全に明るい曲ではなく、軽快な音の中に皮肉と空虚さが隠れている。MGMTの悪趣味なポップ感覚がよく出ている。
10. An Orphan of Fortune
ラスト曲「An Orphan of Fortune」は、『MGMT』を締めくくるにふさわしい、深い余韻を持つ楽曲である。タイトルは「運命の孤児」と読める。幸運や成功の中にいるはずなのに、どこにも属していない。名声や偶然によって運ばれながら、自分の居場所を失っている。そのような感覚がこのタイトルにはある。
音楽的には、ゆったりとしたサイケデリック・バラードであり、アルバムの中でも比較的感情の輪郭が見えやすい曲である。音は厚く、歪みながらも、メロディには切なさがある。終盤へ向かうにつれ、音響は広がり、曲は夢のように消えていく。
歌詞では、運命、孤独、自己認識、喪失の感覚が描かれる。MGMTは前作『Congratulations』で成功の空虚さを歌ったが、この曲ではさらにその後の状態が描かれているように聞こえる。祝福されたはずのバンドが、結局どこにも属せないまま漂っている。その感覚が「orphan」という言葉に込められている。
「An Orphan of Fortune」は、本作のラストとして非常に美しい。アルバム全体の不安、幻覚、皮肉、死の意識、ポップへの違和感が、最後に孤独なメロディとして結晶する。派手な結論ではなく、ゆっくりと消えていく終わり方が、本作の性格によく合っている。
総評
『MGMT』は、MGMTのディスコグラフィの中でも最も聴き手を選ぶアルバムである。『Oracular Spectacular』のようなヒット・シングルの即効性はほとんどなく、『Congratulations』にあったサイケデリック・ポップの構築性すら、ここではさらに溶けている。曲は歪み、メロディは奥へ沈み、音像は曖昧で、アルバム全体が夢や幻覚のように進む。そのため、最初に聴いたときには掴みどころがない作品に感じられるかもしれない。
しかし、本作は単なる難解さを狙ったアルバムではない。むしろ、MGMTが自分たちの内面と音楽的興味に非常に忠実に作った作品である。成功後の自己批評を展開した『Congratulations』のさらに先で、彼らはポップ・スターとしての役割からほとんど完全に離れ、サイケデリックな音響の中に自分たちを沈めた。セルフタイトルでありながら、自分たちを明確に提示するのではなく、自分たちの輪郭を溶かしていく。その逆説が、本作の最大の魅力である。
音楽的には、電子音とサイケデリック・ロックの混ざり方が非常に独特である。ギター・バンド的なエネルギーは控えめで、シンセサイザーや加工された音が曲の空気を支配している。しかし、EDMやシンセポップのように明快な快楽を作るのではなく、音は常に少し不安定で、湿り気があり、奇妙に歪んでいる。これは、MGMTがサイケデリアを単なるカラフルな装飾ではなく、知覚の異常として理解しているからである。
歌詞面では、現実との距離感が大きなテーマである。「Alien Days」では日常が異星的に見え、「Mystery Disease」では原因不明の不調が広がり、「Your Life Is a Lie」では人生そのものの虚偽が軽く告げられる。「I Love You Too, Death」では死との奇妙な親密さが描かれ、「An Orphan of Fortune」では成功や運命の中で孤児のように漂う存在が歌われる。これらの曲は、すべて現実の安定した感覚を疑っている。
本作が興味深いのは、ポップを完全に捨てているわけではない点である。「Alien Days」「Your Life Is a Lie」「Plenty of Girls in the Sea」には、はっきりとしたポップ性がある。しかし、そのポップ性は常にねじれている。キャッチーなメロディや明るいリズムが出てきても、それはすぐに奇妙な音響や皮肉な歌詞によって歪められる。MGMTはポップを愛しているが、そのまま信じることはできない。この距離感が、彼らの音楽を特別なものにしている。
『MGMT』は、リリース当時に大きな商業的成功を収めた作品ではない。むしろ、前作以上にリスナーを困惑させたアルバムである。しかし、MGMTというバンドの本質を考えると、本作は非常に重要である。彼らは一度巨大な成功を得た後、その成功を再生産することを拒み続けた。『MGMT』は、その拒否が最も徹底された作品である。分かりやすい期待に応えるより、自分たちの奇妙な音楽的直感に従う。その姿勢がアルバム全体に刻まれている。
日本のリスナーにとって本作は、サイケデリック・ポップや実験的なインディー・ロックを聴き慣れているかどうかで印象が大きく変わる作品である。メロディの明快さを求めると難しく感じられるが、音の質感や意識の揺れに耳を向けると、非常に豊かなアルバムであることが分かる。夜中、ヘッドフォンで聴くと、細かな電子音、声の処理、リズムの揺らぎが立ち上がり、作品の奥行きが見えてくる。
MGMTのキャリア全体で見ると、本作は『Little Dark Age』への重要な前段階でもある。2018年の『Little Dark Age』では、彼らは再び比較的明快なシンセポップの輪郭を取り戻すが、その暗さや皮肉、80年代的な音像への距離感には、『MGMT』で深められた実験性が反映されている。つまり『MGMT』は、孤立した失敗作ではなく、バンドが自分たちの限界まで内側へ潜った後、再びポップへ戻るために必要な作品だったと見ることができる。
総じて『MGMT』は、MGMTが自分たちのポップ・イメージをさらに解体し、サイケデリックな音響の迷宮へ向かったアルバムである。明快ではなく、親切でもなく、時に不気味で、時に美しい。だが、その掴みにくさこそが本作の価値である。ポップ・スターとしての成功、アーティストとしての不安、現実感の喪失、死への接近、奇妙なユーモア。それらがすべて歪んだ音の中で混ざり合っている。『MGMT』は、MGMTという名前を掲げながら、その名前の輪郭を自ら溶かしていく、挑戦的なサイケデリック・ポップ作品である。
おすすめアルバム
1. MGMT – Congratulations
2010年発表の2作目。『MGMT』の実験性へ向かう前段階として重要な作品であり、サイケデリック・ポップ、アート・ロック、カルト的な音楽趣味がより構築的な形で表れている。『MGMT』の混濁した音像を理解するためにも、まず比較対象として聴く価値が高い。
2. MGMT – Little Dark Age
2018年発表の4作目。『MGMT』の実験的な暗さを経た後、より明快なシンセポップへ回帰した作品である。ただし、そのポップ性には強い皮肉と不安があり、『MGMT』で深めた内向性が形を変えて残っている。
3. The Flaming Lips – Embryonic
2009年発表のアルバム。サイケデリック・ロック、ノイズ、実験的な構成が濃く表れた作品であり、『MGMT』の暗く混濁したサイケデリアと強く響き合う。明快なポップよりも、音響の混乱や精神的な不安を重視する点で関連性が高い。
4. Broadcast – Tender Buttons
2005年発表のアルバム。ミニマルな電子音、サイケデリック・ポップ、冷たいヴォーカル、レトロで不穏な音像が特徴である。『MGMT』の電子的で曖昧なサイケデリアに惹かれるリスナーにとって、非常に相性のよい作品である。
5. Animal Collective – Merriweather Post Pavilion
2009年発表のアルバム。電子音、サイケデリック・ポップ、反復するリズム、声の加工によって、2000年代末の実験的インディー・ポップを代表する作品となった。『MGMT』よりも開放的で祝祭的だが、ポップとサイケデリアの境界を溶かす姿勢において共通点がある。

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