1. 歌詞の概要
「Almost Love」は、Sabrina Carpenterが2018年にリリースしたアルバム『Singular: Act I』のリードシングルであり、彼女の音楽スタイルがティーンポップから本格的なポップ・ディーヴァへと進化する過程を象徴する楽曲である。タイトルが示す通り、この楽曲の核心には“もう少しで愛だったのに”という、満たされない恋の未完成さがある。
歌詞は、関係が深まりかけた瞬間に終わってしまう“未遂の愛”を描いている。語り手は、相手に惹かれながらも、あと一歩届かずに終わってしまうもどかしさを、「それはもう、ほとんど愛だった（Almost love）」という言葉で締めくくる。恋に落ちる寸前の高揚感や、進みたいのに踏み出せない焦燥が、曲全体にわたって一貫して描かれている。
感情としては切なさを内包しているが、サウンドは強烈なエレクトロ・ポップ。アップテンポでダンサブルなビートと、鋭いビジュアル美学が交錯することで、Sabrinaの“強さ”と“感情の複雑さ”が同時に浮かび上がる構成になっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Almost Love」は、Jesse Shatkin（Sia「Chandelier」などで知られる）がプロデュースを担当し、Julia Michaelsとの共作によって生まれた。Michaels特有の「感情のグラデーションを巧みに描く」作詞スタイルが、この楽曲でも遺憾なく発揮されている。
この時期のSabrina Carpenterは、アルバムのコンセプトとして「Singular＝ひとりの自分」を掲げており、過去の恋や関係性に左右されることなく、自らの声で自分の感情を語ることをテーマとしていた。「Almost Love」は、その第一歩であり、“語りかけるようなポップ”から“主張するポップ”への明確なシフトを示した曲でもある。
また、MVではギリシャ神殿のような空間で、像を壊すことで感情を爆発させる象徴的な演出がなされており、“不完全な恋を自ら終わらせる強さ”を視覚的に表現している。
3. 歌詞の抜粋と和訳
We were so close to something right
But we were dumb, we were drunk, we were stuck
私たちは何か素晴らしいものに
もう少しで辿り着けた
でも私たちは馬鹿で、酔ってて、立ち止まってしまったIt was almost love
It was almost love
それはもう、ほとんど愛だった
本当に、あと少しで…So close to something real
I can almost feel the way it used to be
あと少しで“本物”になりそうだった
あのときの感覚が、まだほのかに残ってる
引用元：Genius Lyrics – Almost Love
歌詞は全体的に抽象的でありながらも、感情の残響を的確に表現している。「almost」という言葉の繰り返しによって、未練と惜しさのテンポ感が生まれ、メロディとの相互作用で情熱と切なさが絶妙に溶け合っている。
4. 歌詞の考察
「Almost Love」は、“完成しなかった恋”をテーマにしながらも、それを悔やんだり、誰かを責めたりはしない。むしろ、未完であることを受け入れ、その感情を次に進むための燃料に変えていくような、前向きさと潔さが宿っている。
興味深いのは、語り手が相手に「もっと深く関わってほしい」と願いながらも、最終的には“愛ではなかった”という結論に至るところだ。恋愛において「未完成」という状態はしばしばネガティブに捉えられるが、この曲ではそれが“だからこそ美しい”とすら感じられるように描かれている。
また、“未遂”の愛に焦点を当てることで、恋の儚さだけでなく、自分の感情がどこまで高まっていたか、自分がどれほど本気だったかを確かめる過程にもなっている。その意味で「Almost Love」は、恋における“自覚”の瞬間を描いた作品でもあるのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Into You by Ariana Grande
恋に落ちる寸前の高揚感と焦燥を、ダンスビートに乗せて描いたセクシーなラブソング。 - Green Light by Lorde
失恋からの再出発を疾走感のあるサウンドで描いた、感情の移ろいを祝福する名曲。 - Don’t Start Now by Dua Lipa
終わった関係を後悔せず、次の自分へ進むための意志を力強く表現したポップ・アンセム。 - Graveyard by Halsey
深くなりすぎる関係の危うさと、それでも求めてしまう感情の矛盾を繊細に描いた一曲。
6. “ほとんど愛”だった――未完成という美しさ
「Almost Love」は、恋愛の“未完成さ”に焦点を当てながら、それを“敗北”ではなく“美しき失敗”として肯定するポップソングである。その瞬間の熱と、その後に残る余韻の両方を抱きしめるような語り口は、Sabrina Carpenterの表現者としての幅の広さを物語っている。
私たちは時に、完成しなかった関係の中にも、本物の感情を見出すことがある。たとえそれが“Almost”であったとしても、その感情が“あった”ことに価値がある――そんなメッセージが、この楽曲の奥底には流れている。
“愛ではなかった”ではなく、“愛になりかけた”。
そのニュアンスの違いが、この曲のすべてを語っているのだ。
そしてSabrinaは、そんな曖昧な感情さえも、強く、軽やかに歌い上げる術を持っている。まさにこの曲自体が“Almost pop perfection”――もう少しで完璧なポップソング、なのかもしれない。
コメント