Elephants by The Snuts(2020)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Elephants」は、スコットランド出身のインディーロック・バンド The Snuts(ザ・スナッツ)が2020年にリリースしたシングルで、彼らの初期の勢いと衝動が詰まった攻撃的かつ挑発的なロックナンバーである。
タイトルの「Elephants(象)」は直接的なモチーフというよりも、重々しさ、存在感、破壊力、あるいは“部屋の中の象(=誰も触れようとしない問題)”のような比喩的存在として機能している。

歌詞のテーマは明示されていないが、全体を通じて抑圧への怒り、自由への希求、そして無関心に対する批判的スタンスがにじむ。短く鋭い言葉の選び方や、即興的に吐き捨てられるようなリリックの構成からは、感情の爆発と、若者特有の焦燥とフラストレーションが伝わってくる。

加えて、語り手が“戦っているもの”の正体が明示されないことで、この曲はより普遍的で解釈の幅が広いものになっており、社会的・個人的なあらゆる“重圧”を象徴するプロテスト・ソングとしても機能している。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Elephants」は、The Snutsのデビュー・アルバム『W.L.』(2021)以前に発表された楽曲の中でも、特にライブでの人気が高く、エネルギーを爆発させるような疾走感とギターサウンドが印象的なナンバーである。
2020年というパンデミック初期のリリースという背景もあり、当時多くの人々が感じていた社会的な鬱屈や不安定な感情がこの曲に投影されたとも考えられている。

バンド自身はこの曲について、「思っていることを包み隠さず吐き出したものだ」と語っており、抑圧された感情を音とリズムに変換するという、ロックの原点的姿勢がはっきりと表れている。
また、歌詞の中で繰り返される抽象的なフレーズや断定的な語気は、現代社会における“ノイズ”と“沈黙”の間で葛藤する若者たちの心情を象徴している。

3. 歌詞の抜粋と和訳

The elephants in the room
部屋の中の象がいる

この一節は、**“誰も触れたがらない問題”“見て見ぬふりされている圧力”**を指す英語の慣用句である。“象”はここで、存在するのに無視されている巨大な問題を象徴する。

I don’t care what they say
やつらが何を言おうと、関係ない

語り手の怒りや独立した姿勢、他者の声に影響されない反抗的スタンスが表れている。

There’s fire in the lungs
肺の中に火がある

これは非常に象徴的なラインであり、内に燃える怒り、情熱、あるいは抗議の声を抑え込めないという衝動を描いている。感情が内側から爆発寸前であることを示唆している。

Can you hear the sound?
この音が聞こえるか?

これは挑発であると同時に、同調を求める叫びでもある。“この怒りを感じているのは自分だけではないだろう?”という問いかけが込められている。

※引用元:Genius – Elephants

4. 歌詞の考察

「Elephants」は、その短く鋭い歌詞とノイジーなサウンドを通じて、“言葉にならない怒り”の存在を肯定する一曲である。語り手は、自分の中に渦巻く火や、社会に蔓延する“象”のような抑圧に気づきながらも、それをすぐに論理化せず、感情のままに爆発させることを選んでいる

この態度こそが、ロックの本質的な自由であり、「Elephants」はまさにその自由を音の衝動として体現した楽曲である。
また、象というメタファーは、個人的な問題にも社会的な構造にも当てはめることができるため、聴き手によって解釈が変わる柔軟性を持っている点でも特筆に値する。

特定のメッセージを押し付けず、むしろ“感じろ”という姿勢を貫いている点において、「Elephants」は怒りのマニフェストであると同時に、聴き手自身の心にある象を炙り出す鏡にもなっている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Helicopter by Bloc Party
    都市の抑圧と若者の怒りを高密度なサウンドで爆発させる00年代UKロックの代表作。

  • The View From The Afternoon by Arctic Monkeys
    感情の発火点を描くような、疾走感と反骨精神に満ちた一曲。
  • Doorman by slowthai & Mura Masa
    現代の階級社会とアイデンティティを攻撃的に切り裂くUKヒップホップ×パンクの融合。

  • Blindness by The Fall
    意味が明確でないままに、不安と不快を投げつけるポストパンクの異端。

  • Animal Nitrate by Suede
    破壊的欲望と社会不信が混ざり合う、90年代ブリットポップの毒。

6. 怒りは説明しなくていい――“Elephants”が描く音と言葉の爆発

The Snutsの「Elephants」は、怒りと違和感を“意味”ではなく“音”と“語気”で伝えるという、非常に本能的なアプローチを採用した一曲である。
社会や個人が抱える巨大な問題――それは精神の病か、政治的抑圧か、言語化されない暴力か――を“象”に見立てて、それに目を向けろ、と強烈に訴えかけてくる。

この歌に説明は不要だ。怒りを感じること、それ自体がメッセージになる。
The Snutsはこの曲で、何かがおかしいと感じる感性そのものが“生きている証”であることを、全力で肯定している。

そしてその“象”が見えたとき、初めて私たちは、何を壊すべきか、何を守るべきかに気づくのかもしれない。
「Elephants」は、そんな**“気づきの一歩手前”にある、未整理の感情の咆哮**なのである。

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