1. 歌詞の概要
「Gold on the Ceiling(ゴールド・オン・ザ・シーリング)」は、アメリカのロックデュオ、The Black Keysが2011年にリリースしたアルバム『El Camino』に収録された楽曲で、アルバムの中でもひときわ派手で、エネルギーに満ちた一曲である。タイトルの「天井の金」とは、表面的な豪華さや成功、見せかけの幸福を象徴する比喩であり、楽曲全体を通して、名声と誘惑に翻弄される男の心情が描かれている。
歌詞は一見シンプルで繰り返しが多いが、その中には、名声を得た人間が直面する光と影、取り巻く環境への不信感、そして自己のアイデンティティを見失いそうになる感覚が込められている。特に、「彼女たちは俺を落とそうとしてる」というリフレインは、成功の裏にある疑念や妬み、甘い誘惑の危うさを示唆している。
しかし、この曲は悲観的ではない。むしろサウンドは強烈で快楽的であり、ファズの効いたギターリフと分厚いコーラスが中毒的な高揚感を生み出している。つまり、表面的な「きらびやかさ=ゴールド」を皮肉りながらも、そこに身を投じる快楽も否定しないという、ロックらしい二面性を湛えた楽曲なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Gold on the Ceiling」は、The Black Keysの7作目のアルバム『El Camino』(2011)に収録されており、同アルバムからのセカンド・シングルとして2012年にリリースされた。アルバム全体はプロデューサーのデンジャー・マウス(Danger Mouse)との共同制作によるもので、ガレージロック、ブルース、ポップを大胆に融合させた音楽性が高く評価された。
この曲は、The Black Keysがアンダーグラウンドから一気にメジャーな成功を手に入れたタイミングで生まれたもので、急激な注目と商業的成功に対する皮肉や戸惑いが背景にあるとされる。歌詞にある「彼女たち(They)」が何者かは明示されていないが、メディア、ファン、業界関係者、誘惑的な人物など、さまざまな解釈が可能である。
ミュージックビデオでは、バンドメンバーが巨大な自分自身の映像の前を歩くなど、自己の拡大と誇張を可視化する演出が施されており、成功と自己喪失というテーマがさらに強調されている。また、ライヴパフォーマンスでは分厚いサウンドと合唱パートが圧倒的な臨場感を生み、ファンの間でも特に人気の高い楽曲となっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Gold on the Ceiling」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳とともに紹介する。
引用元:Genius Lyrics – Gold on the Ceiling
“Down in the waves / She screams again”
波の中で、彼女は再び叫ぶ
“Roar at the door / My mind can’t take much more”
ドアを叩くような咆哮/俺の精神はもう限界だ
“I can’t never drown”
でも、俺は決して沈まない
“They wanna get my / Gold on the ceiling”
奴らは俺の“天井の金”を奪おうとしてる
“I ain’t blind / Just a matter of time”
俺は盲目じゃない/時間の問題だ
この「Gold on the ceiling(天井にある金)」という表現は、手の届かない成功や、上にある魅力的な何かへの執着と警戒心を同時に表す。サウンドの豪快さとは裏腹に、歌詞には焦燥感や混乱が滲んでいる。
4. 歌詞の考察
「Gold on the Ceiling」の核となっているのは、成功とその代償に対するアンビバレントな感情だ。表面上は豪華で、誰もが羨むようなポジションにいる語り手だが、その内面には疲労と不信、そして自分自身が崩れていくような危機感がある。
特に印象的なのは、「I can’t never drown(俺は決して沈まない)」という一節だ。この二重否定は、英語の俗語表現として「決して〜しない」を強調する一方で、“自信過剰な防衛”のようなニュアンスも感じさせる。つまり、「沈まない」と言い聞かせているが、実際にはすでに限界に近づいているのかもしれない。
また、「They wanna get my gold on the ceiling(奴らは俺の天井の金を狙ってる)」というフレーズは、自分の栄光や成功が他者にとって“奪う対象”になっているという被害意識を表している。この「they(彼ら)」は特定されておらず、抽象的であるがゆえに、多くの不安や不信を象徴する“見えない敵”として立ち上がってくる。
サウンドはファズギターとコーラスによってグラマラスに彩られているが、歌詞には“壊れかけのスター”の孤独が潜んでおり、ロックの栄光と虚無が背中合わせであることを物語っている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Seven Nation Army” by The White Stripes
キャッチーなベースラインと反体制的な歌詞で、自己防衛のテーマが共通。 - “No One Knows” by Queens of the Stone Age
名声の影と快楽の果てを描いた、サイケデリックなロックアンセム。 - “Little Monster” by Royal Blood
成功と破壊欲、ロックの野性が炸裂する現代ガレージロック。 - “Out of the Black” by Royal Blood
攻撃的なサウンドと内面の暴力性を同時に描いた楽曲。 -
“Tighten Up” by The Black Keys
「Gold on the Ceiling」との対比として、より内省的なラブソング。
6. 見せかけの栄光とロックの本能:The Black Keysが鳴らす“欲望の断面”
「Gold on the Ceiling」は、The Black Keysがメジャーシーンに完全に浮上したタイミングで生まれた、“祝福と警鐘”が同時に鳴り響くロックソングである。見上げた先にある“金”はまぶしいが、それを見つめ続けることで足元が崩れていく——この曲はそんな現代的なアイロニーを、ビートとギターで表現している。
しかもこの曲は、説教くさい道徳や悲壮な抵抗ではなく、あくまで“踊れるロック”として描かれているのが魅力だ。リスナーはただ曲に乗っているだけで、気づけばその中に社会的なメッセージや心理的なテーマが潜んでいる。これはまさに、The Black Keysが得意とする「知的な肉体性」の表れである。
結局のところ、「Gold on the Ceiling」が語るのは、ロックが持つ“欲望と危機感”の二重性だ。高く昇れば昇るほど、落ちるリスクも増す。だが、それでもなお“昇ること”をやめないのがロックンロールの宿命であり、それを美学に変えるのが、The Black Keysというバンドなのである。
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