No One Knows by Queens of the Stone Age(2002)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「No One Knows」は、アメリカのロックバンド Queens of the Stone AgeQOTSA が2002年に発表した3枚目のスタジオ・アルバム『Songs for the Deaf』からの代表的なシングルであり、バンド最大のヒット曲のひとつです。この曲は、QOTSAのフロントマンである ジョシュ・オム(Josh Homme) が提唱する「ストーナーロック」や「デザートロック」の美学を体現したサウンドと、抽象的で謎めいた歌詞、そして執拗に繰り返されるリフの中毒性が絶妙に組み合わさった作品です。

タイトルの「No One Knows(誰にもわからない)」というフレーズが示すように、楽曲の中心にあるのは不確かさ、不可解さ、そしてコントロール不能なものに身を委ねる感覚です。歌詞は明確なストーリーを描くわけではなく、むしろ体験や感情の断片を積み重ねるような構造になっており、リスナーに多様な解釈を許します。

この曲は、単に“意味を理解する”ことを目的とするのではなく、音楽とリリックが生み出すトリップ感覚、そしてその奥に潜む人間の本質的な混乱や快楽を体感するための楽曲といえるでしょう。

2. 歌詞のバックグラウンド

「No One Knows」は、ジョシュ・オムと盟友 マーク・ラネガン(Mark Lanegan)、そして当時バンドに在籍していた デイヴ・グロール(Nirvana / Foo Fighters との強力なコラボレーションから生まれた作品です。特に、デイヴ・グロールのドラムはこの曲のグルーヴ感を支える重要な要素となっており、その“走らないのに突き進む”ようなビートが、曲全体の麻薬的なテンションを生んでいます。

Songs for the Deaf』というアルバム自体が、ラジオ局を切り替えながら砂漠をドライブするというコンセプトで制作されており、「No One Knows」はその中でも特に幻想と現実の狭間にいるような浮遊感を持った楽曲です。ジョシュ・オムはこの曲について、「自分が何を信じているのかさえ曖昧になったときの感覚を表現した」と語っており、信念と混乱、制御と解放というテーマが複雑に絡み合っています。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「No One Knows」の印象的な歌詞の一部を抜粋し、日本語訳を併記します。引用元:Genius Lyrics

“We get some rules to follow / That and this, these and those”
僕たちはいくつかのルールを与えられる/これやあれ、それやどれ

“No one knows”
でも誰にもわからないんだ

“We get these pills to swallow / How they stick in your throat”
僕らは薬を飲まされる/それが喉に詰まる感覚さえも

“Tastes like gold / Oh, what you do to me”
味は金のよう/君が僕に与えるこの感覚は何なんだ

“Heaven smiles above me / What a gift here below”
天は僕の上で微笑み/これは地上の贈り物か

“But no one knows”
けれど誰にもわからない

4. 歌詞の考察

「No One Knows」は、その断片的かつ詩的な歌詞により、決してひとつの解釈に収まらない奥深さを持っています。冒頭の「We get some rules to follow(ルールが与えられる)」というフレーズは、人間が社会や信念に従うという建前の中で、それを本当に理解しているのか?という根源的な疑問を投げかけています。

次に登場する「pills to swallow(飲み込まされる薬)」というモチーフは、快楽や麻痺、制御を暗示しており、「taste like gold(味は金のよう)」という表現が象徴するように、それは一見甘美でありながらも、実は苦しさや異物感を伴うものです。つまりこれは、依存・愛・信仰・社会的価値観など、私たちが自らの意思だと思い込んでいるものが、実は“飲み込まされたもの”かもしれない、というアイロニーを孕んでいます。

サビで繰り返される「No one knows(誰にもわからない)」という言葉は、不安や無知の嘆きではなく、むしろ“わからないままでもいい”という開き直りや陶酔の宣言とも受け取れます。それは、論理や正しさを超えて、ただ感じること/体験することの価値を信じる、ロックの本質的態度とも言えるでしょう。

この曲における“君”の存在は、聴き手によってさまざまに解釈可能です。薬物、恋人、神、あるいは自我の一部。それが何であれ、「君が僕にすること」は圧倒的な影響力を持っていて、抗えず、説明もできず、ただ飲み込むしかない感情があることを、この曲は肯定しています。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Go with the Flow” by Queens of the Stone Age
    同アルバムからのもうひとつの代表曲。推進力あるリズムと刹那的な愛。

  • Black Hole Sun” by Soundgarden
    幻想的で抽象的な歌詞と濃厚なギターサウンドが魅力の90年代ロックの金字塔。

  • “The Way You Used to Do” by QOTSA
    ダンサブルで中毒性の高いリフとポップさが共存する近年の代表作。

  • “Elephants” by Them Crooked Vultures
    ジョシュ・オムとデイヴ・グロールが再集結したスーパーグループによる爆裂サウンド。

  • “Welcome to the Machine” by Pink Floyd
    人間の意識と機械的システムに対する違和感を鋭く描いたサイケデリックロック。

6. 解釈より“体験”へ:Queens of the Stone Ageが提示する快楽の迷路

「No One Knows」は、2000年代のオルタナティヴロックを象徴する楽曲でありながら、その本質は極めてサイケデリックかつ哲学的です。それは、“意味を求める”ことを逆手に取り、むしろ**「意味がわからないことの快楽」や「不可解さの中にある真実」**を伝えるための一種の迷宮のような作品です。

Queens of the Stone Ageはこの曲を通して、聴き手に問いかけることをやめ、問いそのものを音楽に変換してしまいます。それが激しいギターリフであれ、うねるようなドラムであれ、曖昧な言葉であれ、すべては体験すべき“感覚の断片”として提示されるのです。

「No One Knows」は、すべてを把握したがる現代人に向けた美しい逆説であり、「わからないままでいることの自由」をそっと手渡す一曲です。それがこの楽曲の最大の魅力であり、だからこそ何年経っても、私たちはこの曲を聴くたびに新たな“旅”へと誘われるのです。

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