
1. 歌詞の概要
「People-Vultures」は、オーストラリアのサイケデリック・ロック・バンド、King Gizzard & the Lizard Wizardが2016年に発表したアルバム『Nonagon Infinity』に収録された楽曲です。同アルバムには「Robot Stop」や「Gamma Knife」「Road Train」など、インパクトのあるトラックが揃っていますが、特にこの「People-Vultures」は、バンド特有の暴走するリフと奇妙なリリックが相まって強烈な印象を残すナンバーとして、ライブでも定番の盛り上がりを見せる一曲です。
アルバム『Nonagon Infinity』は全9曲が無限ループする構成を持ち、どの曲も次の曲へシームレスに繋がる仕組みが施されています。「People-Vultures」はアルバムの中盤を担当し、前曲「Gamma Knife」から切れ目なくスタートするため、曲自体を単体で聴いても十分なインパクトがあるものの、アルバムを頭から通して聴くとさらに没入感が高まるように作り込まれています。
曲名である“People-Vultures”とは直訳すると「人間ハゲワシ」ですが、これには「人々を貪るハゲワシ」「ハゲワシのように人を襲う存在」といった、人間の持つ強欲さや破壊衝動を暗示するニュアンスが含まれていると考えられます。King Gizzard & the Lizard Wizardは環境問題やオカルト的モチーフ、神秘主義などさまざまなテーマを扱っており、この曲でも“生物学的に異様な存在”を通じて、人間社会や自然界の不穏なバランスを浮かび上がらせようとしているかのようです。
音楽的にはガレージ・ロックやサイケデリック・ロック、クラウトロックなどのエッセンスが融合され、特にギターリフのリピートと強靭なリズムセクションが、曲を通じて延々と突き進む原動力となっています。ヴォーカルやコーラスは、時に祭典のような喧騒を想起させながら、リスナーをサイケデリックなトリップへと導いていきます。
2. 歌詞のバックグラウンド
King Gizzard & the Lizard Wizardは、Stu Mackenzieを中心とした7人編成(時期によってメンバー数や役割に多少変動)のバンドで、2010年代のロック・シーンにおいて飛び抜けた多作ぶりと多様性で注目を集めてきました。初期にはガレージ・サイケ的なサウンドを基盤としながら、フォーク、ジャズ、ヘヴィメタル、R&Bなど幅広いジャンルを取り入れ、アルバムごとに大胆なコンセプトを打ち出すのが特徴です。
2016年の『Nonagon Infinity』では、“循環するアルバム”というアイデアに挑戦し、1曲目の「Robot Stop」からラストの「Road Train」まで息つく暇なく繋がり続け、最後のアウトロが再び1曲目に繋がるループ構造が仕込まれました。この実験的かつパワフルなアルバムにおいて、「People-Vultures」は5曲目(CDや配信環境によっては4曲目、5曲目のカウントが異なる場合もあり)に位置しており、アルバム中でも特に印象的なリフとコーラスによって聴き手をさらなる高揚へと誘います。
タイトルや歌詞からは“猛禽類に変身する人間”あるいは“ハゲワシの群れが人間界を襲う”かのようなイメージが浮かびますが、King Gizzardは必ずしもストーリー性を明解に描くわけではなく、あくまで抽象的・断片的なフレーズや宗教的・生物学的モチーフを融合させる方法をとります。そのため、アルバム全体がもつ“無限にループする世界観”の中で、“人間や生き物が入り乱れる混沌”が描かれているとも取れますし、“異形の生物が地球を席巻していく黙示録的景色”を歌っているとも解釈できるでしょう。
3. 歌詞の抜粋と和訳
著作権保護の観点から「People-Vultures」の歌詞全体を引用することは避け、一部に限定して紹介します。以下は抜粋であり、原詩はリンク先をご覧ください。
King Gizzard & the Lizard Wizard – People-Vultures Lyrics
People-vultures
人間ハゲワシ
God approaches
神が近づいてくる
Final hearing
最後の審判
The annihilating
全てを滅ぼす力Shed your disguise
仮面を脱ぎ捨てろ
Vultures in the sky
空を飛ぶハゲワシたち
Eating the decay
腐敗を喰らう
Feast on the human way
人間の在り方を貪り尽くす
これらのフレーズからは、ハゲワシが“人間の腐敗”や“社会の病巣”を食い荒らすかのようなイメージが伝わります。また“God approaches” “Final hearing” “annihilating”など、宗教的あるいは黙示録的な言葉遣いが混ざっており、この曲が単なる“猛禽類ネタ”にとどまらず、人類の終末や神の裁きといったスケールの大きなテーマに触れているようにも感じられます。あくまで想像力をかき立てる抽象的な歌詞のため、一つの解釈に限定できないのがKing Gizzard流ではありますが、暗示される世界観は深く不穏な魅力を放っていることは間違いありません。
4. 歌詞の考察
「People-Vultures」というタイトルから受ける第一印象は、“ハゲワシと人間が混ざり合った怪物”もしくは“ハゲワシのように人間を喰らう勢力”を暗示するもので、“捕食”や“腐食”といった破壊的なイメージが浮かびます。King Gizzardの作品に登場する生物モチーフは、しばしば自然界の残酷さや不可思議さを示唆しつつ、人間社会の矛盾を象徴する役割を担うことが多いため、この曲でも“猛禽類の目線から見た人間”あるいは“人間の形をしたハゲワシ”という逆転構造が暗喩として使われているように思われます。
アルバム全体がループする中で「People-Vultures」は中核的なパートを担っており、“ロック的な疾走感”“クラウトロック的な反復”“サイケデリックなリフのうねり”が短い時間のうちに凝縮されているのも特徴的です。歌詞における黙示録的な語彙が、“バンドが鳴らす熱狂的なサウンド”によってさらに増幅され、リスナーをまるで“儀式”の場に連れ込むかのような力を持っている。その儀式のテーマが、人類の醜悪さや破滅の気配を示唆する“ハゲワシ”であるところに、King Gizzardのブラックユーモアやシニカルな視点がうかがえます。
また、サウンド面では頻繁に拍子やリフが切り替わる展開を見せ、まさに“カオスを制御する”ようなエネルギー感が随所で炸裂します。Stu MackenzieやJoey Walkerによるギターリフはマイクロトーナル要素などこそ含まれていないものの、独特のニュアンスを持ち、トランス状態を促す強烈なリフレインを構成。そこに複数のメンバーが絡み合うコーラスやシャウトを重ねることで、聴き手の感情を引きずり回すような暴力的なカタルシスを生み出します。「People-Vultures」のリフやメロディは、初聴でも耳に残る強度がありながら、何度聴いてもそのたびに新たな発見があるほど多層的で、King Gizzard特有の“飽きさせなさ”が存分に表現されていると言えるでしょう。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Gamma Knife” by King Gizzard & the Lizard Wizard
同アルバム『Nonagon Infinity』収録の名曲。疾走感とサイケデリックなリフが特徴で、歌詞には放射線ビームを思わせるSF的/オカルト的イメージが盛り込まれている。勢いと中毒性は「People-Vultures」に通じるものがある。 - “Robot Stop” by King Gizzard & the Lizard Wizard
アルバムの冒頭を飾る一曲。開始直後から凄まじいロック・サウンドが展開され、最後までノンストップで繋がっていくコンセプトを象徴する楽曲。「People-Vultures」へ至る流れを体験するなら、まずこの曲から聴き始めるのがおすすめ。 - “Rattlesnake” by King Gizzard & the Lizard Wizard
翌年2017年リリースのアルバム『Flying Microtonal Banana』収録曲。ひたすら“Rattlesnake”を連呼する呪文的な歌詞とマイクロトーナルなギターリフが合わさり、King Gizzard流の反復サイケ・ロックを存分に味わえる。 - “Crumbling Castle” by King Gizzard & the Lizard Wizard
2017年のアルバム『Polygondwanaland』収録。10分を超える大作で、プログレッシブな曲展開とサイケデリックなリフを融合させた、バンドの実験精神が色濃く反映された一曲。長尺かつエネルギッシュなサウンドを好む人に最適。 - “Dead Alive” by Thee Oh Sees(現Osees)
同じくガレージ・サイケの流れを汲むバンドで、King Gizzardと並び現行ロックシーンで評価の高いアーティスト。ハードに駆け抜けるロック・サウンドと混沌とした雰囲気が、好きな人に刺さりやすい。
6. 特筆すべき事項:アルバム循環構造の一端としての「People-Vultures」
「People-Vultures」は単体でも十分なインパクトを持つ楽曲ですが、アルバム『Nonagon Infinity』においては“連続再生”と“楽曲同士の繋がり”が非常に重要な要素になっています。前曲「Gamma Knife」からシームレスに繋がる出だし、そして次の曲「Mr. Beat」への移行もほとんど途切れることなく行われるため、アルバムを通して聴くと「People-Vultures」が一つの曲というより“作品の流れの中のある地点”として認識されるのが興味深いところです。
King Gizzard & the Lizard Wizardは、ただ曲単体での完成度を追い求めるのではなく、アルバム全体の構成や演奏順、さらにはライブでの演奏フローを大きく重視するバンドとして知られています。こうしたアプローチは、クラウトロックやプログレッシブ・ロックなどの伝統を受け継ぎつつ、ガレージ・ロック的な荒々しさも取り入れるという独自のバランスから生まれているもので、「People-Vultures」もまた、カオスと疾走感の中で“儀式的な高揚”を演出する重要なピースです。
タイトルが示唆するように、“ハゲワシ”は腐肉を喰らう猛禽類ですが、“人間ハゲワシ(People-Vultures)”という発想には、環境破壊や資本主義的な貪欲さを批判するメタファーが潜んでいる可能性もあります。King Gizzardは明確な政治的メッセージを掲げることもある(例:2017年作『Murder of the Universe』などで描かれる黙示録)ため、この曲でも自然界のシンボルを人間社会の暗部と重ね合わせ、世界が滅びへ向かう黙示録的な光景を暗示しているのかもしれません。
実際、ミュージックビデオ(MV)ではバンドメンバーが巨大なモンスターのようなものを操縦する設定が描かれており、シュールかつ不気味なビジュアルが曲のイメージをさらに盛り上げています。VHSを思わせるチープなエフェクトや、実写とアニメ的演出を入り混じらせることで、独特の世界観を作り上げているのもKing Gizzardらしい遊び心の表れです。
最終的に、「People-Vultures」はKing Gizzard & the Lizard Wizardの音楽性が高い次元で発揮された楽曲であり、『Nonagon Infinity』の代名詞とも言える疾走感・反復・連結性を象徴するキートラックの一つと言えます。ライブでも非常に盛り上がる一方、アルバムの文脈上でも欠かせない役割を果たすため、一度聴いただけで終わらずアルバム全曲を連続再生してみると、その真価がより明確に感じられるでしょう。
もしこの曲をきっかけにKing Gizzardの音楽に興味を持ったなら、同アルバムの他の曲や、前後の作品(例えば『Paper Mâché Dream Balloon』のフォーク寄りサウンド、『Flying Microtonal Banana』のマイクロトーナル実験、『Murder of the Universe』の黙示録ストーリーなど)にも手を伸ばしてみるのがおすすめです。異なるコンセプトながら、“反復の快楽”と“宇宙的スケールの世界観”は一貫して通底しており、いずれもKing Gizzard & the Lizard Wizardならではのサイケデリックな冒険を体感させてくれるはずです。
こうして“ハゲワシ”の群れが人間界を喰らい尽くすようなイメージを一曲に凝縮した「People-Vultures」は、その刺々しさと中毒性ゆえに、現行ロック・シーンでも際立った存在感を放っています。危険なほど魅力的なリフ、コーラスによる奇妙な昂揚感、そして黙示録とカルト的祭典を思わせる怪しげな歌詞――これらが渾然一体となり、聴く者の意識をスパークさせる力を持っています。まさにKing Gizzard & the Lizard Wizardの真骨頂とも言える一曲であり、彼らの音楽が持つカオスと美学の一端を、わずか数分で目撃できる瞬間でしょう。曲の終焉を迎えても、アルバムは次のトラックへシームレスに移行し、結局は最初から最後まで永遠にループする運命――それこそが『Nonagon Infinity』最大の仕掛けであり、「People-Vultures」はその渦中で自己を確立する鮮烈な存在として、リスナーを巻き込み続けるのです。
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