
1. 歌詞の概要
「Mother」は、イギリスのポストパンクバンドIDLES(アイドルズ)が2017年にリリースしたデビューアルバム『Brutalism』の収録曲であり、バンドのキャリアを代表する楽曲のひとつです。この曲は、フェミニズムや労働者階級の現実をテーマにし、母親への敬意を込めながらも、社会の不平等や男性社会の暴力性を批判する強烈なメッセージを持つ楽曲となっています。
タイトルの「Mother(母)」は、文字通りボーカルの**ジョー・タルボット(Joe Talbot)**の母親を指していますが、楽曲全体を通して「女性」に対する抑圧や暴力、そしてそれに対抗する強さを象徴する言葉としても機能しています。
歌詞では、性暴力、家庭内暴力、労働者階級の女性の苦境といったテーマが直球で描かれており、タルボットの個人的な経験と社会批判が融合した楽曲となっています。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Mother」は、ジョー・タルボットの母親へのオマージュであり、彼の人生におけるフェミニズムの目覚めを象徴する楽曲です。タルボットの母親は、障害を持ちながらも彼を育て、労働者階級の厳しい現実の中で生き抜いた女性でした。
また、この曲は女性に対する暴力への怒りをストレートに表現しており、社会に根付く男性優位の文化(パトリアーキー)を激しく批判しています。タルボットはインタビューで、「この曲は、僕の母親、そしてすべての女性のために歌った」と語っています。
特に、性暴力に関する歌詞は、イギリスの警察の統計を直接引用したものであり、リスナーに強いインパクトを与える構成になっています。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「Mother」の歌詞の一部を抜粋し、日本語訳を添えます。
原文:
My mother worked seventeen hours seven days a week
和訳:
俺の母親は 1日17時間 週7日働いていた
原文:
She was raped and died and died and died
和訳:
彼女はレイプされた そして死んだ 死んだ 死んだ
(※ ここでの「死んだ」は比喩的な表現で、暴力による精神的・肉体的な傷を表していると考えられる)
原文:
The best way to scare a Tory is to read and get rich
和訳:
トーリー党(保守派)をビビらせる最良の方法は
本を読んで 金持ちになること
原文:
SEXUAL VIOLENCE DOESN’T START AND END WITH RAPE
IT STARTS IN OUR BOOKS AND BEHIND OUR SCHOOL GATES
和訳:
性的暴力は レイプで始まり レイプで終わるわけじゃない
それは 本の中で そして 学校の門の向こうで始まるんだ
歌詞の完全版は こちら で確認できます。
4. 歌詞の考察
「Mother」の歌詞は、母親世代の女性たちが経験してきた厳しい労働環境、性的暴力、社会の抑圧を描きながら、それに対する怒りと抵抗を表現しています。
特に、「**My mother worked seventeen hours seven days a week(俺の母親は、1日17時間、週7日働いていた)」**というラインは、労働者階級の女性が過酷な労働環境の中で生きてきた現実を象徴しています。
また、「**She was raped and died and died and died(彼女はレイプされ、そして死んだ、死んだ、死んだ)」**というフレーズは、直接的でショッキングな表現を用いることで、女性への暴力の深刻さをリスナーに突きつける内容となっています。
さらに、「**The best way to scare a Tory is to read and get rich(トーリー党をビビらせる最良の方法は、本を読んで金持ちになること)」**というラインは、労働者階級が教育を受け、知識を持つことで、権力者に立ち向かうことができるというメッセージを込めた一節です。
楽曲の最後に繰り返される「**SEXUAL VIOLENCE DOESN’T START AND END WITH RAPE(性的暴力はレイプで始まり、レイプで終わるわけじゃない)」**というフレーズは、女性に対する抑圧や性差別が、日常の小さな積み重ねから始まることを指摘し、それを根本から変えなければならないというメッセージを伝えています。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Danny Nedelko” by IDLES
移民への偏見を打破するためのメッセージソング。 - “Never Fight a Man with a Perm” by IDLES
有害な男らしさ(Toxic Masculinity)を痛烈に批判した楽曲。 - “Straight White Male” by PUP
男性優位の社会構造を風刺するパンクソング。 - “Man” by Neko Case
フェミニズムと性別の問題をテーマにした力強い楽曲。
6. 「Mother」の影響と評価
「Mother」は、IDLESの中でも特に政治的・社会的なメッセージが強い楽曲であり、リリース当時から大きな話題を呼びました。
アルバム『Brutalism』は、2017年のイギリスのポストパンクシーンを代表する作品として評価され、IDLESが本格的に注目されるきっかけとなったアルバムです。その中でも「Mother」は、フェミニズムと労働者階級の視点を融合させた異色のアンセムとして、特に大きなインパクトを与えました。
ライブでは、観客が「SEXUAL VIOLENCE DOESN’T START AND END WITH RAPE」と大合唱するシーンが象徴的で、IDLESの音楽が単なるパンクではなく、社会運動としての要素を持っていることを示しています。
また、この曲は男性の視点からフェミニズムを支持する楽曲としても注目され、特に男性リスナーに対して「女性の現実を理解し、連帯することの重要性」を訴えかけるものとなっています。
まとめ
「Mother」は、フェミニズムと労働者階級の現実をテーマにした、IDLESの最も象徴的な楽曲のひとつ。母親への敬意を込めながら、女性への暴力や社会の不平等に対する怒りをストレートに表現し、ポストパンクの枠を超えた強烈な社会的メッセージを持つ楽曲として、多くのリスナーに影響を与え続けている。」
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