発売日: 1980年9月29日
ジャンル: ソウル、ファンク、R&B、レゲエ
Stevie Wonderの80年代への架け橋——ポップでありながらも深みのあるメッセージ性
1980年にリリースされた Stevie Wonder の19枚目のスタジオアルバム Hotter than July は、70年代の音楽的革新を経て、よりキャッチーでリズミカルなサウンドを強調した作品 であり、彼の音楽の新たなフェーズを象徴するアルバムだ。
前作 Journey Through the Secret Life of Plants（1979年）が実験的でサウンドトラック的な作品だったのに対し、本作ではファンク、R&B、ポップ、レゲエといった要素を融合しつつ、より洗練されたプロダクションを取り入れた。また、「Master Blaster (Jammin’)」のようにボブ・マーリーからの影響を感じさせる楽曲も含まれ、Wonder の音楽的探求心が引き続き発揮されている。
さらに、「Happy Birthday」では公民権運動のリーダー マーティン・ルーサー・キング・Jr. の誕生日を祝う内容を歌い、後にキング牧師の誕生日がアメリカの祝日として制定されるきっかけのひとつとなった。音楽的にもメッセージ的にも、ポップなだけではなく、社会的意識の高いアルバム である。
全曲レビュー
1. Did I Hear You Say You Love Me
エネルギッシュなファンク・ナンバーで、シンセサイザーとブラスの掛け合いが印象的。Wonder の力強いボーカルがアルバムの幕開けにふさわしい。
2. All I Do
ジャズとR&Bの要素を兼ね備えた美しいラブバラード。柔らかいメロディと流れるようなコーラスワークが心地よく、グルーヴィーなベースラインが曲を支えている。
3. Rocket Love
ピアノとストリングスを主体としたバラードで、切ないメロディが特徴。Wonder のエモーショナルなボーカルが際立つ楽曲で、恋愛の幻想と現実のギャップをテーマにしている。
4. I Ain’t Gonna Stand for It
カントリーとソウルを融合させたユニークな楽曲。リズムギターの使い方が特徴的で、Wonder の多彩な音楽性が光る。
5. As If You Read My Mind
ディスコ調のリズムとシンセサウンドが際立つナンバー。ダンサブルでありながら、ソウルフルなボーカルとメロディが心に残る。
6. Master Blaster (Jammin’)
アルバムのリードシングルであり、ボブ・マーリーへのオマージュが込められたレゲエ風の楽曲。ファンクとレゲエの融合が見事で、当時のボブ・マーリーとの親交 も感じさせる。社会的なメッセージも込められており、楽しく踊れるだけでなく、内容にも深みがある。
7. Do Like You
親が子どもに対する愛情を歌った、軽快で親しみやすい楽曲。Wonder の温かい人間性が感じられる一曲。
8. Cash in Your Face
差別問題をテーマにした社会派楽曲。都会での人種差別を描き、ポップなメロディの中に強いメッセージを込めている。
9. Lately
本作の中で最もエモーショナルなピアノバラード。Wonder の楽曲の中でも特に切なく、美しいバラードのひとつであり、多くのアーティストにカバーされている。
10. Happy Birthday
キング牧師の誕生日を祝う楽曲であり、単なるバースデーソングではなく、彼の功績を称え、祝日として制定することを求める強いメッセージを持った曲。その後、1986年に正式に「マーティン・ルーサー・キング・Jr.の日」が祝日として制定されるに至り、この曲の影響の大きさを物語っている。
総評
Hotter than July は、70年代の革新的なアルバム群（Talking Book、Innervisions、Songs in the Key of Life）と比べると、よりポップでキャッチーな方向性 を持っている。しかし、単なるポップアルバムではなく、レゲエやカントリーなど新たな要素を取り入れつつ、社会的なメッセージも込められている点が特徴的だ。
特に「Master Blaster (Jammin’)」「Happy Birthday」「Cash in Your Face」などは、単なるエンターテインメントではなく、音楽を通じた社会的メッセージの強さ を示している。一方で、「All I Do」や「Lately」のようなバラードも収録されており、Stevie Wonder の持つ多彩な才能が存分に発揮された作品となっている。
おすすめのリスナー:
- Stevie Wonder のより親しみやすい作品を聴きたい人
- 80年代初頭のソウル／ファンクの名盤を探している人
- レゲエやR&Bの要素が融合したサウンドを楽しみたい人
おすすめアルバム
1. Stevie Wonder – Songs in the Key of Life (1976)
Stevie Wonder の最高傑作とも言われるアルバム。壮大なスケールと多様な音楽性を持つ。
2. Bob Marley & The Wailers – Exodus (1977)
「Master Blaster (Jammin’)」がボブ・マーリーへのオマージュであることを考えると、こちらの作品もチェックすべき。
3. Michael Jackson – Off the Wall (1979)
Stevie Wonder の影響を受けた、80年代ポップ／R&Bの名盤。ダンサブルな要素が共通している。
4. Earth, Wind & Fire – Raise! (1981)
80年代のファンク／ソウルの傑作で、本作と同時期のサウンドに近い。
5. Prince – 1999 (1982)
80年代のファンクとポップを融合させたアルバムで、Stevie Wonder の影響を色濃く受けている。
Hotter than July は、Stevie Wonder が70年代の革新性を経て、80年代へと進化する中で生み出した、ポップでありながらも深みのある作品 である。彼の音楽的な広がりと、社会的なメッセージを同時に楽しめるこのアルバムは、時代を超えて聴かれるべき名盤だ。
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