
発売日:2014年10月24日
ジャンル:Hip-Hop / Hardcore Hip-Hop / Alternative Hip-Hop / Experimental Hip-Hop
概要
Run the Jewels 2は、Killer MikeとEl-Pによるヒップホップ・デュオRun the Jewelsが2014年に発表した2作目のスタジオ・アルバムである。2013年のセルフタイトル作Run the Jewelsで確立した、攻撃的なラップ、ブラックユーモア、反権力的な政治意識、インダストリアルで破壊的なビートをさらに極端に押し進め、2010年代ヒップホップを代表する作品のひとつとなった。
Run the Jewelsの特徴は、単に「二人の優れたラッパーが組んだ」ことではない。
Killer Mikeはアトランタを基盤にした南部ヒップホップの経験を持ち、低く重量感のある声、政治的な言葉、ストリート・ラップの直接性を武器とする。
一方のEl-PはCompany Flow以来、ニューヨークのアンダーグラウンド・ヒップホップで異形のビートと密度の高いラップを追求してきた人物である。
この二人は経歴も声質も異なる。
しかし一緒になると、奇妙なほど自然に機能する。
Killer Mikeの声は太く、地面へ向かう。
El-Pの声は鋭く、神経質で、都市の金属音のように響く。
その対照性が、Run the Jewelsの最大の武器となる。
前作Run the Jewelsでは、デュオとしての相性の良さが即座に示された。
Run the Jewels 2では、その関係がさらに強くなる。
単なる「Killer Mikeのヴァース→El-Pのヴァース」という交代制ではない。
二人は互いのフレーズへ入り込む。
一人が始めたラインをもう一人が受ける。
合いの手。
ユニゾン。
短い掛け合い。
そのためRun the Jewelsは、ソロ・ラッパー二人を並べた作品ではなく、完全な「デュオ」として聞こえる。
また、El-Pによるプロダクションは本作でさらに凶暴になった。
808的な低音。
破裂するキック。
金属的なシンセ。
警報音のような高音。
ノイズ。
歪み。
突然切断されるビート。
その音は、従来の東海岸/南部ヒップホップのどちらにも完全には属さない。
インダストリアル、エレクトロ、ノイズ、サイエンスフィクション的な電子音が混ざり、まるで都市そのものが巨大な機械へ変形したようなサウンドになる。
歌詞の中心には、
警察権力。
人種差別。
経済的不平等。
国家。
暴力。
監視。
資本主義。
個人的な破壊衝動。
死。
友情。
といったテーマがある。
しかし本作は政治アルバムであると同時に、非常に下品で、攻撃的で、ユーモラスでもある。
ここが重要だ。
Run the Jewelsは「社会問題を真面目に説明する」だけではない。
権力者を笑う。
自分たちも笑う。
誇張する。
脅迫する。
性的なジョークを入れる。
その軽さがあることで、政治的メッセージが説教にならない。
そして2014年という時代背景も重要である。
アメリカでは警察による黒人市民への暴力が大きく社会問題化し、Fergusonをはじめとする抗議運動が広がっていた。
Run the Jewels 2は特定の一事件だけを扱った作品ではない。
しかし、Killer Mikeが長年語ってきた警察権力、人種、貧困、国家暴力への批判が、この時期に極めて切実な響きを持つようになった。
そのため本作は、「時代を予言したアルバム」というより、「以前から存在していた問題を、時代が無視できなくなった瞬間に鳴ったアルバム」と考える方が適切である。
全曲レビュー
1. Jeopardy
アルバムは「Jeopardy」から始まる。
タイトルは「危機」「危険な状態」。
その名の通り、最初から緊張感が高い。
低い電子音。
不穏なノイズ。
徐々に迫ってくるビート。
すぐに爆発せず、まず危険な空気を作る。
この導入は非常に効果的である。
Run the Jewelsは前作で成功した。
しかし二作目の冒頭で勝利宣言をするのではない。
むしろ「さらに危険な場所へ入る」と宣言する。
Killer MikeとEl-Pのラップも攻撃的だ。
自分たちを音楽業界の外から来た異物として位置づけ、既存の秩序に従う意志がないことを示す。
ここでは暴力的な比喩が多いが、それは単なるストリート・ラップの威嚇ではない。
権力へ向けた象徴的な攻撃として機能する。
音楽そのものも、整ったヒップホップではなく「壊れた機械」に近い。
アルバム全体の世界観を最初に定義する曲である。
2. Oh My Darling Don’t Cry
本作でも特に勢いのある楽曲。
タイトルは「お願いだから泣かないで」。
しかし、その言葉の優しさとは正反対に、音楽は極端に攻撃的だ。
ビートは跳ねる。
低音は巨大。
二人のラップは短く鋭い。
この「タイトルの柔らかさ」と「音の暴力性」の落差が面白い。
Run the Jewelsのユーモアはこうしたところにある。
一見感傷的な言葉を使いながら、中身は戦闘的。
ラップでは、自信、反抗、成功、敵への挑発が次々と登場する。
しかし二人は単に自分たちを「強い」と言うのではない。
自分たちがヒップホップ産業の常識から外れていることそのものを武器にする。
年齢的にも、二人は若い新人ではなかった。
長いキャリアを経た後でRun the Jewelsを始めている。
そのため「今さら売れ方を教わる必要はない」という自由さがある。
その自由が、この曲の破壊的なテンションにつながっている。
3. Blockbuster Night Part 1
本作の代表曲のひとつ。
タイトルからして大げさで映画的。
「Blockbuster Night」は巨大な出来事が起こる夜を連想させる。
音楽もその通り、重量感のあるビートと破壊的なベースによって進む。
Killer MikeとEl-Pの掛け合いが特に強い。
ここでは二人のラップがほとんど格闘技のタッグ戦のように機能する。
一人がパンチラインを放つ。
もう一人が続ける。
互いに競争しながら、同時に同じ側で戦っている。
Run the Jewelsの魅力は、この「競争と連帯」の両立にある。
通常、二人の優れたラッパーが組むと、どちらが上手いかという比較が起きる。
しかし本作では、その競争自体がデュオのエネルギーへ変換される。
音楽的にはビートが非常にシンプル。
だからこそ声の強さが前面に出る。
本作の「ラップそのものの快楽」を最も分かりやすく示す曲である。
4. Close Your Eyes (And Count to Fuck) feat. Zack de la Rocha
本作最大の代表曲のひとつ。
Rage Against the MachineのZack de la Rochaを迎えた楽曲である。
タイトルは、子どもの遊びである「目を閉じて数える」という表現を、極端に暴力的な言葉へ変形したもの。
曲全体が、反権力、反警察、反国家的な怒りを持つ。
特にZack de la Rochaの参加は非常に象徴的だ。
Rage Against the Machineは1990年代に、ラップとハードロックを融合しながら国家、警察、人種差別、資本主義を批判した。
Run the Jewelsも別のサウンドながら、その反権力精神を共有している。
音楽は非常にミニマル。
声を刻んだループ。
硬いビート。
そこへ三人のラップが重なる。
この反復が、デモ行進のチャントのような力を持つ。
歌詞では警察、刑務所、国家暴力への怒りが強く表れる。
しかし単なるスローガンではない。
具体的な恐怖と、個人の尊厳を奪う制度への敵意がある。
2010年代の政治的ヒップホップを代表する一曲である。
5. All My Life
タイトルは「人生ずっと」。
ここでは前半の激しい政治的怒りから少し視点が変わり、キャリアや生き方、自分たちが長い時間をかけて積み上げてきたものへ焦点が向かう。
Run the Jewelsの二人は、成功するまでに長い時間を要した。
Killer MikeもEl-Pも、Run the Jewels結成以前から高い評価を受けていた。
しかしメインストリームの巨大スターという位置ではなかった。
そのため「All My Life」という言葉には、「長年やってきた結果、今ここにいる」という実感がある。
音楽は比較的ファンキーで、前曲までの冷たいインダストリアル感から少し離れる。
それでもビートは太く、二人の声の重量感は変わらない。
本作の中で、自己神話と人生経験が交差する曲である。
6. Lie, Cheat, Steal
タイトルは「嘘をつき、騙し、盗む」。
通常なら犯罪者を説明する言葉だ。
しかしRun the Jewelsは、この言葉を社会上層部へ向ける。
政治家。
企業。
富裕層。
権力者。
彼らもまた嘘をつき、騙し、盗む。
ただし合法的な形式で。
ここに本曲の核心がある。
犯罪とは何か。
貧しい者が盗めば犯罪。
企業が制度を利用して利益を得ればビジネス。
国家が暴力を使えば治安維持。
Run the Jewelsはその二重基準を皮肉る。
サビの反復も非常に強い。
短い言葉を繰り返すことで、巨大な社会構造を単純な行為へ還元する。
「結局やっていることはLie, Cheat, Stealではないか」。
この乱暴な単純化が、逆に強い批評になる。
7. Early feat. Boots
本作の中でも特に物語性が強く、政治的に重い楽曲。
Bootsをフィーチャーし、警察との遭遇、暴力、家族の前での恐怖を想起させる場面が描かれる。
Killer Mikeのヴァースは特に重要である。
警察権力に対する批判が抽象論ではなく、「その場に家族がいる」「子どもが見ている」といった具体的な恐怖へ落とし込まれる。
ここにRun the Jewels 2の政治性の強さがある。
「制度は悪い」と言うだけではない。
制度的暴力が、家庭や子どもの記憶へ入り込む。
その個人的な痛みを描く。
音楽も暗い。
ビートは遅く、Bootsのヴォーカルが幽霊のように漂う。
前半の攻撃的な曲では、権力へ怒りを投げ返していた。
「Early」では、その権力によって傷つく側の脆弱さが前面に出る。
アルバムの感情的中心のひとつである。
8. All Due Respect feat. Travis Barker
Blink-182のTravis Barkerを迎えた楽曲。
タイトルの「All Due Respect」は、「失礼を承知で」「敬意は払うが」といった意味。
通常、その後には強烈な反論が続く。
曲もその通り、非常に攻撃的だ。
Travis Barkerのドラムが重要である。
通常のヒップホップ的な打ち込みだけではなく、生ドラムの激しいフィルが入ることで、曲がパンク/ハードコアへ接近する。
El-Pのプロダクションはもともとインダストリアルやノイズ・ロックと相性がよい。
そこへBarkerのドラミングが加わることで、ヒップホップとパンクの境界がさらに曖昧になる。
ラップも高速で、二人の技術的な強さが前面に出る。
政治的メッセージ以上に、「言葉をリズムへ叩き込む快楽」が重要な曲。
Run the Jewelsがラップ・デュオであると同時に、ロック・フェスティバルでも圧倒的な力を持つ理由がよく分かる。
9. Love Again (Akinyele Back) feat. Gangsta Boo
本作でも最も下品で挑発的な楽曲のひとつ。
Gangsta Booを迎え、性的な欲望を極端に直接的な言葉で扱う。
タイトルの副題「Akinyele Back」は、90年代の性的に露骨なラップの伝統を意識したもの。
ここで重要なのは、Run the Jewelsが政治的に真面目なアルバムの中へ、あえてこうした猥雑な曲を入れていることだ。
彼らは自分たちを「政治活動家だけのラップ・デュオ」にはしない。
ヒップホップには、
欲望。
下品な冗談。
自慢。
性的な誇張。
も存在する。
それも含めて自分たちの音楽だと示す。
Gangsta Booのヴァースは特に重要で、男性側の性的な誇張を女性側から同等以上の強さで返す。
そのため曲は一方的な男性目線だけにはならない。
非常に露骨だが、ジェンダー間の言葉の主導権が入れ替わる点で興味深い。
10. Crown feat. Diane Coffee
本作の中でも最も内省的で重い楽曲。
タイトルは「王冠」。
通常、王冠は権力や成功の象徴である。
しかしこの曲では、成功や優位性の裏側にある罪悪感、記憶、精神的な負担が中心になる。
特にKiller Mikeのヴァースでは、過去のドラッグ取引や、それによって他人の人生へ与えた影響への罪悪感が描かれる。
これはRun the Jewelsの自己表現において非常に重要だ。
彼らはストリート経験を英雄化するだけではない。
「自分も加害の構造に関わった」。
その事実を認める。
政治的ラップでは、外部の権力だけを批判すると自己正当化に陥る危険がある。
「Crown」はその逆を行う。
自分の過去も問う。
自分の行動も倫理的な問題から逃れられない。
Diane Coffeeのヴォーカルが曲に宗教的、ゴスペル的な余韻を与え、罪と赦しのテーマを強める。
本作の思想的中心曲のひとつである。
11. Angel Duster
アルバム最後を飾る「Angel Duster」。
タイトルは、天使的な言葉とドラッグ的なイメージを組み合わせたような、不穏で皮肉な響きを持つ。
本作全体のテーマをまとめるような大曲である。
歌詞では、宗教、権力、国家、自己認識、破壊、精神的な自由などが複雑に交差する。
Run the Jewelsはここで、単純な勝利宣言では終わらない。
世界は腐っている。
権力は存在する。
自分たち自身にも矛盾がある。
それでも言葉を武器として使う。
その姿勢が曲全体にある。
音楽は重く、徐々に広がっていく。
アルバム冒頭の「Jeopardy」が危険な場所への突入だったとすれば、「Angel Duster」はその危険な世界を通過した後の総括となる。
最後まで完全な救済はない。
しかし、抵抗する声は残る。
この終わり方が非常にRun the Jewelsらしい。
総評
Run the Jewels 2は、2010年代ヒップホップにおいて「政治性」「技術」「ユーモア」「音響実験」を高いレベルで同時に成立させた作品である。
このアルバムを政治的ヒップホップとしてだけ捉えると不十分である。
確かに、
警察。
人種差別。
資本主義。
国家暴力。
格差。
これらは重要なテーマだ。
しかし本作は同時に、二人のラッパーが「どれだけ格好よくラップできるか」を競う非常に古典的なヒップホップでもある。
パンチライン。
ライミング。
声の強さ。
フロウ。
掛け合い。
この基礎が極めて強い。
だから政治的メッセージが音楽を圧倒しない。
聴き手はまずビートと声に引き込まれる。
その後で言葉の意味が入ってくる。
この順序が重要だ。
Killer MikeとEl-Pの関係も、本作でほぼ完成する。
二人は似ていない。
Killer Mikeのラップは大きい。
El-Pは密度が高い。
Killer Mikeは説教者のように響く瞬間がある。
El-Pは壊れた機械の中で喋る人物のように聞こえる。
その違いが対立ではなく補完になる。
さらに、二人には友情がある。
この友情がRun the Jewelsの音楽を特別なものにしている。
ヒップホップには競争の文化がある。
誰が上手い。
誰が強い。
誰が成功した。
Run the Jewelsではその競争を二人の内部に持ちながら、最終的には互いを持ち上げる。
一人が良いヴァースを書く。
もう一人がさらに上を狙う。
それによって曲全体が強くなる。
この関係はOutKastのような歴史的デュオとはまた異なる。
OutKastには二人の別人格の対話がある。
Run the Jewelsには、二人が同じ戦車へ乗っているような一体感がある。
El-Pのプロダクションも決定的である。
2014年のヒップホップでは、トラップがすでに大きな影響力を持っていた。
しかしRun the Jewels 2は典型的なトラップ・アルバムではない。
ハイハット。
808。
低音。
それらを使っても、音響はもっと工業的。
もっとノイズ的。
もっとSF的。
ある意味ではPublic EnemyのBomb Squadが80年代末に行った「サンプルを過密に重ねて社会の騒音を作る」という方法を、デジタル時代に別の形で更新している。
Public Enemyの音がテレビ、ラジオ、都市の雑音をサンプリングした「情報過多」だったとすれば、El-Pの音は監視カメラ、ドローン、工場、警報装置のような「機械化された社会」の音に近い。
この音響が政治的歌詞と非常によく合う。
警察権力を批判する曲に、温かいソウル・サンプルを置くのではなく、都市そのものが敵になったようなビートを置く。
「Close Your Eyes (And Count to Fuck)」や「Early」では、その一致が特に強い。
歌詞の政治性についても、本作は重要だ。
Killer Mikeは長年、黒人コミュニティ、経済的不平等、警察、刑務所制度について発言してきた。
Run the Jewels 2では、それがより大きな聴衆へ届いた。
特に2014年以降のアメリカ社会では、警察暴力と人種差別への抗議が拡大した。
そのため本作の言葉は、単なる抽象的反体制ラップではなく、現実のニュースと直接共鳴した。
しかし、Run the Jewelsは「自分たちは正しい側にいる」と単純には言わない。
「Crown」がその証拠だ。
Killer Mikeは自分の過去を振り返り、自分も他者を傷つける構造の一部だったことを認める。
この自己批判があることで、アルバムの政治性に深みが生まれる。
権力者だけが悪いのではない。
人間は制度に傷つけられながら、同時に別の誰かを傷つけることもある。
この複雑さが重要である。
また、ユーモアも本作の生命線だ。
Run the Jewelsのラップはしばしば極端に暴力的で、下品。
しかし、その多くは意図的に漫画的である。
自分たちを無敵の怪物のように描く。
敵を過剰に脅す。
性的なジョークを言う。
その誇張によって、アルバムが重苦しい政治声明にならない。
これはPublic EnemyよりもBeastie Boysに近い瞬間もある。
つまりRun the Jewelsは、政治的意識とヒップホップの悪ふざけを両立する。
その両方を捨てない。
ここが非常に現代的である。
さらに、本作はジャンル横断の面でも重要だ。
Zack de la Rocha。
Travis Barker。
Diane Coffee。
Gangsta Boo。
ゲストの選択だけでも、ハードロック、パンク、インディー、南部ラップという異なる文化が同居している。
しかし散漫にはならない。
すべてをEl-Pの音響世界へ入れることで統一する。
この方法によって、Run the Jewelsはヒップホップの内部にいながら、ロック・フェスティバルやインディー・リスナーにも届く存在になった。
ただし、これは単純な「ラップ・ロック」ではない。
ギターを入れればロックになる、という発想ではない。
パンクの反権力性。
インダストリアルの機械音。
ヒップホップのビート。
それらを思想と音響の両方で結びつける。
この点でRun the Jewels 2は非常に完成度が高い。
アルバム全体の流れもよい。
「Jeopardy」で危険な世界へ入る。
「Blockbuster Night Part 1」で二人のラップ能力を誇示する。
「Close Your Eyes」で政治的怒りが爆発する。
「Lie, Cheat, Steal」で制度批判。
「Early」で現実的な恐怖へ沈む。
「Love Again」で意図的に下品な方向へ振れる。
「Crown」で自己批判。
そして「Angel Duster」で全体をまとめる。
この起伏によって、作品は単調な怒りの連続にならない。
Run the Jewels 2は、政治的である。
しかし楽しめる。
重い。
しかし笑える。
実験的。
しかしラップそのものは極めて古典的。
この矛盾を一つの作品として成立させたことが、本作の最大の価値である。
そしてRun the Jewelsというデュオにとっては、単なる成功作ではなく、「この二人でしか作れない音楽」が完全に確立された決定的なアルバムである。
おすすめアルバム
1. Run the Jewels – Run the Jewels(2013)
デュオの出発点となった1作目。短く攻撃的で、Killer MikeとEl-Pの掛け合いがすでに完成度の高い形で提示されている。Run the Jewels 2がどのように前作の荒々しさを拡大し、政治性と音響の重さを強化したかを比較するうえで最重要の一枚。
2. Run the Jewels – Run the Jewels 3(2016)
2作目の方法論をさらに大きく、重く、政治的に発展させた作品。社会的不安、国家、権力への批判がさらに明確になり、ゲストも含めてサウンドのスケールが拡大している。RTJ2で完成したデュオの言語が、より大規模な作品へ進む過程を確認できる。
3. Killer Mike – R.A.P. Music(2012)
El-Pが全面プロデュースしたKiller Mikeのソロ作で、Run the Jewels誕生の直接的な前段階となった作品。警察、人種、南部、政治、ストリートの現実を扱いながら、El-Pの硬質なビートとMikeの巨大な声を結びつけた。RTJ2の核がどこから生まれたかを理解できる。
4. El-P – Cancer 4 Cure(2012)
Run the Jewels結成直前のEl-Pのソロ作。インダストリアル、SF的電子音、複雑な韻、都市の閉塞感を極端に押し進めており、Run the Jewels 2のプロダクション面の原型が明確に存在する。El-P単独の音響世界を理解するために重要な一枚。
5. Public Enemy – It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back(1988)
政治的ヒップホップの歴史を考えるうえで最重要の作品のひとつ。Chuck Dの強烈なラップとBomb Squadの過密で攻撃的なプロダクションによって、権力、人種、メディアへの批判を巨大な音響へ変換した。Run the Jewels 2の「政治的メッセージと騒音的プロダクションの融合」を歴史的に考えるうえで最も重要な先行例のひとつである。

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