アルバムレビュー:What If Nothing by WALK THE MOON

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2017年11月10日

ジャンル:インディー・ポップ、シンセ・ポップ、ニューウェイヴ・リバイバル、オルタナティヴ・ポップ、ポップ・ロック

概要

WALK THE MOONの3作目となるメジャー・スタジオ・アルバム『What If Nothing』は、バンドが大ヒット曲「Shut Up and Dance」後の期待と向き合いながら、より大きなポップ・ロックのスケールと、内面的な不安を同時に抱え込んだ作品である。2014年の前作『Talking Is Hard』は、80年代ニューウェイヴやシンセ・ポップ、ギター・ポップの明るさを現代的に更新したアルバムであり、「Shut Up and Dance」の世界的成功によって、WALK THE MOONはインディー・ポップ系バンドからメインストリームのポップ・ロック・アクトへと大きく押し上げられた。

しかし、その成功は同時に重い課題も生んだ。巨大なヒット曲を持ったバンドは、次の作品でそれを再現することを求められる。明るく踊れる曲、合唱できるサビ、80年代的なきらめき、フェスティバル向けの高揚感。WALK THE MOONにはそうしたイメージが強く刻まれたが、『What If Nothing』は単純に「Shut Up and Dance」をもう一度作るアルバムではない。むしろ本作は、外向きの祝祭性を保ちながら、その裏にある不安、孤独、別れ、混乱、自己探求をより強く表に出している。

タイトルの『What If Nothing』は、不完全な問いのように響く。「もし何もなかったら」「もし何も意味がなかったら」「もし何も起こらなかったら」。明確な答えを提示するのではなく、可能性と空白が同時にある言葉である。これはアルバム全体の精神にも通じる。WALK THE MOONはここで、成功後の未来、自分たちの音楽的方向、個人的な関係、人生の選択に対して、確信よりも問いを抱えている。明るいシンセや大きなビートの裏で、「この先に何があるのか」という不安が鳴っている。

音楽的には、本作は前作までのニューウェイヴ/シンセ・ポップ色を継承しつつ、よりアリーナ・ポップ、エレクトロ・ポップ、オルタナティヴ・ロックの要素を広げている。シンセサイザーはより大きく、ドラムはより太く、サビはより開放的になっている。一方で、曲によっては暗い音色や内省的なメロディも増え、単純なパーティー・ロックではなくなっている。WALK THE MOONの持ち味である踊れるリズムは残るが、そのダンスは以前よりも少し切実である。

ヴォーカルのNicholas Petriccaは、本作でより個人的な感情を前面に出している。彼の声は、明るく伸びやかで、ポップ・ロックのフロントマンとして非常に強い求心力を持つ。しかし『What If Nothing』では、その声がただ観客を盛り上げるだけではなく、迷い、怒り、喪失、祈りを帯びる場面が多い。特に「Surrender」「Sound of Awakening」「Lost in the Wild」のような楽曲では、内面の葛藤や再生への願いが強く表れる。

本作の歌詞には、恋愛の破綻、自由への渇望、自己破壊的な衝動、現実逃避、精神的な目覚め、身体的な解放が繰り返し現れる。「One Foot」は前進のアンセムとして機能し、「Headphones」は音楽による自己防衛を描き、「Kamikaze」は危険な恋愛や衝動を歌う。「All I Want」は欲望のシンプルな叫びであり、「Lost in the Wild」では自分を見失った場所からの回復が描かれる。つまり本作は、明るいポップ・ロックの形式を使いながら、かなり不安定な心理状態を描いたアルバムである。

キャリア上、『What If Nothing』は、WALK THE MOONが一発ヒットのバンドに留まらず、より大きな音楽的アイデンティティを模索しようとした作品である。『Talking Is Hard』の延長線上にありながら、より広く、より重く、より個人的である。完全な方向転換ではないが、成功後のバンドが自分たちを再定義するための重要な一枚である。

全曲レビュー

1. Press Restart

オープニング曲「Press Restart」は、アルバムの始まりにふさわしく、再起動をテーマにした楽曲である。タイトルは「リスタートを押す」という意味で、過去を一度リセットし、新しい状態で再び動き始めることを示している。大ヒット後のプレッシャー、個人的な変化、バンドとしての再出発を考えると、この曲は非常に象徴的である。

サウンドは、明るいシンセと推進力のあるビートを中心にしたWALK THE MOONらしいポップ・ロックである。冒頭からエネルギーがあり、リスナーを一気にアルバムの世界へ引き込む。だが、単なる祝祭的なオープニングではなく、どこか焦りや切迫感も含まれている。

歌詞では、もう一度始めること、古い自分を抜け出すこと、過去の失敗や停滞から動き出すことが描かれる。ここでの再起動は簡単な気分転換ではない。壊れたシステムを立て直すような切実さがある。『What If Nothing』が、成功の後に何をするかを問うアルバムであることを、この曲は冒頭で示している。

2. Headphones

「Headphones」は、音楽を通じた逃避と自己防衛をテーマにした楽曲である。タイトルのヘッドフォンは、外の世界を遮断し、自分だけの音の空間へ入るための道具である。現代のリスナーにとって非常に身近なイメージであり、WALK THE MOONはそれを個人的な避難場所として描いている。

サウンドは、軽快なビートとキャッチーなメロディを持つシンセ・ポップで、非常に聴きやすい。曲調は明るいが、歌詞の背景には孤独や現実からの距離がある。Nicholas Petriccaのヴォーカルは、楽しげでありながら、どこか自分を守るようにも響く。

歌詞では、周囲の雑音や心の混乱から離れるために、ヘッドフォンをつけて音楽の中へ入る感覚が描かれる。これはWALK THE MOONの音楽そのものの機能にも重なる。彼らの曲は、現実を忘れて踊るためのものでもあるが、ただの娯楽ではなく、不安から自分を守るための空間でもある。「Headphones」は、その二重性を明るく表現した楽曲である。

3. One Foot

「One Foot」は、本作の中心的なシングルであり、アルバムのメッセージを最も分かりやすく提示する楽曲である。タイトルは「片足」を意味し、「片足を前に出す」という表現によって、少しずつ前進することがテーマになっている。大きな確信がなくても、完全な答えがなくても、まず一歩を踏み出す。その感覚が曲全体を貫いている。

サウンドは、アリーナ・ポップとして非常に完成度が高い。大きなドラム、明るいシンセ、力強いコーラスが組み合わされ、ライブでの合唱を想定した作りになっている。WALK THE MOONの持つニューウェイヴ的な明るさと、メインストリーム・ポップの巨大なスケールが自然に結びついている。

歌詞では、不確かな道を進むことが描かれる。すべてが見えているわけではない。未来は分からず、足場も安定していない。それでも、片足をもう片方の前に出すことで進むしかない。このテーマは、バンド自身の状況にも重なる。大ヒット後の不安の中で、彼らは次の一歩を踏み出そうとしている。

「One Foot」は、ポップ・ロックのアンセムとして機能しながら、『What If Nothing』の根底にある不確かさと前進のテーマを象徴している。

4. Surrender

「Surrender」は、本作の中でも特に感情的な深みを持つ楽曲である。タイトルは「降伏」「身を委ねる」という意味を持ち、自分のコントロールを手放すこと、愛や痛み、現実を受け入れることがテーマになっている。WALK THE MOONの明るいイメージとは異なる、より内面的な曲である。

サウンドは、ゆったりとしたテンポで始まり、徐々に広がっていく。シンセの柔らかい響きと、Nicholasの切実なヴォーカルが中心にある。曲は派手なダンス・トラックではなく、感情の波を丁寧に描くように進む。

歌詞では、抵抗することをやめ、何かに身を委ねる必要性が描かれる。それは恋愛かもしれないし、人生の変化かもしれない。自分で全てを制御しようとするほど苦しくなる時、人は降伏することで初めて前へ進める。「Surrender」は、アルバムの中で精神的な転換点のような役割を持つ。

5. All I Want

「All I Want」は、欲望を非常にシンプルに歌った楽曲である。タイトルは「僕が欲しいものはすべて」という意味で、恋愛、身体的な接近、感情の充足を求める直接的な衝動が中心にある。WALK THE MOONのポップな側面と、少し官能的なムードが結びついた曲である。

サウンドは、ミッドテンポのシンセ・ポップ/ポップ・ロックで、リズムにはしなやかなグルーヴがある。曲は大きく爆発するというより、欲望の熱を保ったまま進む。Nicholasのヴォーカルは、ここでは少し低く、親密な距離感を持っている。

歌詞では、相手を求める気持ちが繰り返される。複雑な物語ではなく、「欲しい」という感情そのものを中心に据えている。アルバム全体には不安や自己探求があるが、この曲ではそれが身体的な欲望として現れる。精神的な迷いと身体的な衝動は、WALK THE MOONの音楽の中でしばしば結びつく。

6. Tiger Teeth

「Tiger Teeth」は、タイトルからして野生的で、少し危険なイメージを持つ楽曲である。虎の歯は、美しさと暴力、魅力と危険を同時に象徴する。恋愛や欲望が、ただ甘いものではなく、噛みつくような力を持つことが示されている。

サウンドは、やや暗めのシンセ・ポップで、アルバムの中でも緊張感がある。リズムは強く、メロディには不穏さがあり、前作の明るいギター・ポップとは異なる色合いを見せる。Nicholasの声にも、警戒心と惹かれる気持ちが同時に感じられる。

歌詞では、相手の魅力に引き寄せられながらも、その関係が危険であることを理解している語り手が描かれる。虎の歯は、触れたいが傷つけられるかもしれない対象の比喩として機能する。恋愛の甘さだけではなく、痛みや暴力性を含む点で、本作の成熟した側面を示す曲である。

7. Sound of Awakening

「Sound of Awakening」は、アルバムの中でも特に精神的なテーマを持つ楽曲である。タイトルは「目覚めの音」を意味し、内面的な変化、意識の変容、新しい自分への覚醒が描かれる。WALK THE MOONの明るいポップ性の奥にある、自己探求的な要素が前面に出た曲である。

サウンドは、広がりのあるシンセとドラマティックな構成を持つ。曲は一気に盛り上がるのではなく、徐々に意識が開いていくように展開する。ヴォーカルも、外へ向かって叫ぶというより、内側から立ち上がってくるような印象を与える。

歌詞では、眠っていた感覚が目を覚まし、自分自身や世界を新しく見る瞬間が描かれる。これは宗教的な目覚めというより、精神的・感情的な変化に近い。『What If Nothing』は、不安と混乱の中で自分を再起動するアルバムだが、この曲はその変化の中心にある「目覚め」を象徴している。

8. Feels Good to Be High

「Feels Good to Be High」は、タイトル通り、高揚状態や現実から浮き上がる感覚を歌う楽曲である。“high”はドラッグ的な酩酊だけでなく、気分が高まること、日常から離れること、精神的な浮遊を含む言葉として使われている。

サウンドは、明るく、ややサイケデリックな質感を持つシンセ・ポップである。ビートは軽快で、曲全体に浮遊感がある。WALK THE MOONのダンス性が戻る曲だが、その楽しさには現実逃避のニュアンスもある。

歌詞では、高い場所にいるような感覚、普段の自分から離れることの快感が描かれる。これは単なる享楽ではなく、不安や重圧から一時的に逃れるための状態でもある。『What If Nothing』における快楽は、しばしば救いであると同時に危険でもある。この曲は、その曖昧さを軽やかに表現している。

9. Kamikaze

「Kamikaze」は、本作の中でも特に強烈なタイトルを持つ楽曲である。日本語由来の“kamikaze”は、西洋ポップではしばしば自滅的な突進、危険な衝動、破滅を恐れない行動の比喩として使われる。この曲では、恋愛や欲望に対して無謀に飛び込む感覚が描かれる。

サウンドは、ダンス・ポップ寄りで、ビートは鋭く、シンセも勢いがある。曲は非常にキャッチーで、危険なテーマを明るいポップ・ソングとして処理している。Nicholasのヴォーカルは、衝動を抑えきれない人物のように響く。

歌詞では、相手に向かって自滅的に突き進む感情が描かれる。理性では止めるべきだと分かっていても、身体が先に動く。WALK THE MOONの音楽には、踊ることや恋愛が、時に自己破壊に近い形で現れる。この曲は、その危うさを最もポップに表現した楽曲の一つである。

10. Tiger Teeth (Reprise)

「Tiger Teeth (Reprise)」は、先に登場した「Tiger Teeth」のテーマを短く再提示する楽曲である。リプライズという形式によって、アルバムの中で一度提示されたイメージが、別の文脈で再び浮かび上がる。虎の歯という危険な魅力の象徴が、ここで余韻として戻ってくる。

サウンドは、フル・トラックの「Tiger Teeth」よりも断片的で、間奏的な役割を持つ。アルバム全体の流れの中で、感情の影を再確認させる。明るい曲が続く中で、このリプライズは本作の暗い側面を忘れさせない。

歌詞や音の断片は、危険な関係や欲望の余韻を示す。『What If Nothing』は、単純に前へ進むアルバムではなく、同じ感情が形を変えて戻ってくる作品でもある。このリプライズは、その循環性を強めている。

11. Can’t Sleep (Wolves)

「Can’t Sleep (Wolves)」は、不眠と不安をテーマにした楽曲である。タイトルには「眠れない」という直接的な状態と、「狼」という野性的・不穏なイメージが組み合わされている。夜、心のざわめき、追いかけてくる思考や欲望が描かれる。

サウンドは、暗めのシンセと緊張感のあるリズムを持ち、アルバムの中でも不安定なムードが強い。WALK THE MOONの踊れる要素は残っているが、ここではダンスというよりも、眠れない夜の身体の震えに近い。

歌詞では、眠れない夜に頭の中で何かがうごめく感覚が描かれる。狼は、外部の危険であると同時に、自分の内側にいる本能や恐怖の象徴とも読める。明るいポップ・ロックのバンドというイメージの裏にある、不安と衝動の表現として重要な楽曲である。

12. In My Mind

「In My Mind」は、心の中の世界をテーマにした楽曲である。タイトル通り、現実よりも内面、想像、記憶、思考の中で起こる出来事に焦点が当てられる。『What If Nothing』の中でも、精神的な閉じた空間を扱う曲である。

サウンドは、比較的メロディアスで、シンセ・ポップとしての聴きやすさを持つ。曲全体には少し夢のような質感があり、現実から離れて自分の頭の中へ沈んでいく感覚がある。Nicholasの声も、外へ向けたアンセム的な響きではなく、内側から聞こえるように感じられる。

歌詞では、実際には起きていないことや、言えなかった言葉、頭の中で繰り返される場面が描かれる。人は現実だけで生きているわけではなく、自分の内面に作られた物語にも強く影響される。「In My Mind」は、その心理的な空間をポップ・ソングとして表現している。

13. Lost in the Wild

「Lost in the Wild」は、本作終盤の重要曲であり、迷子になること、野生の中で自分を見失うこと、そしてそこから何かを見つけようとすることをテーマにしている。タイトルの“wild”は、自然の野生であると同時に、制御不能な人生や感情の比喩でもある。

サウンドは、壮大で、ドラマティックなポップ・ロックとして展開する。シンセとギター、強いリズムが組み合わさり、アルバム終盤にふさわしいスケール感がある。WALK THE MOONのアンセム性が、ここでは単なる明るさではなく、サバイバルの感覚と結びついている。

歌詞では、道を失った状態が描かれる。しかし、それは完全な絶望ではない。野生の中で迷うことは、社会的なルールや過去の自分から離れることでもあり、新しい自分を見つける可能性を含んでいる。『What If Nothing』のテーマである不確実性と再生が、この曲で強く表れる。

14. Next in Line

「Next in Line」は、順番、継承、次に来るものをテーマにした楽曲である。タイトルは「次の番」という意味を持ち、自分が何かの流れの中にいること、前の世代や過去の自分の後に続くことを示す。アルバム終盤に置かれることで、未来への視線が強くなる。

サウンドは、明るさと切なさが混ざったポップ・ロックで、WALK THE MOONらしいメロディの開放感がある。ビートは軽快だが、歌詞には時間の流れや責任の感覚がある。単なる恋愛曲以上に、人生の位置を見つめる曲として聴ける。

歌詞では、自分が次に何をするのか、どこへ向かうのかという問いが描かれる。成功後のバンドにとって、「次に来るもの」は常に重要な問題である。この曲は、その問いを比較的明るい形で提示している。

15. Headphones (Reprise)

「Headphones (Reprise)」は、アルバム序盤の「Headphones」のテーマを再び呼び戻す短い楽曲である。音楽の中へ逃げ込むこと、外の世界を遮断すること、自分だけの空間を作ることが、アルバムの終盤でも再確認される。

リプライズとしてのこの曲は、アルバム全体を円環的にする役割を持つ。冒頭近くで提示された「ヘッドフォン」という避難所が、様々な欲望、不安、迷いを通過した後に再び現れる。つまり、音楽は最初から最後まで、WALK THE MOONにとっての救いであり続ける。

サウンドは断片的で、余韻を重視している。派手な楽曲ではないが、本作のテーマを静かにまとめる効果がある。聴き手もまた、アルバムを通して音楽の中へ入り、最後にその空間をもう一度確認することになる。

16. One Foot (Reprise)

ラストに置かれる「One Foot (Reprise)」は、アルバムの中心的テーマである前進を再び提示する終幕である。フル・バージョンの「One Foot」が大きなアンセムとして機能していたのに対し、リプライズではそのメッセージがより余韻として響く。

ここで重要なのは、アルバムが大きな解決で終わるわけではない点である。『What If Nothing』は、不安や迷いが完全に消えるアルバムではない。しかし最後に「一歩ずつ進む」というテーマが戻ってくることで、聴き手には小さな前進の感覚が残される。

タイトルの『What If Nothing』が示す不確かな問いに対して、明確な答えは与えられない。ただし、答えがなくても一歩を出すことはできる。このリプライズは、その控えめだが力強い結論として機能している。

総評

『What If Nothing』は、WALK THE MOONが「Shut Up and Dance」後の巨大な期待と向き合いながら、より広いポップ・ロックのスケールと、より複雑な内面表現を両立しようとしたアルバムである。前作『Talking Is Hard』の明るく踊れるニューウェイヴ・ポップの延長線上にありながら、本作はより大きく、より不安定で、より内省的である。

本作の中心にあるのは、前進と不確実性である。「One Foot」は、そのテーマを最も明快に示す曲であり、未来が見えなくても一歩ずつ進むことを歌う。だが、アルバム全体にはその明るいメッセージだけでは収まりきらない感情が多く含まれている。「Surrender」では制御を手放すこと、「Tiger Teeth」では危険な魅力、「Can’t Sleep (Wolves)」では眠れない夜の不安、「Lost in the Wild」では自分を見失う感覚が描かれる。つまり本作は、単なるポジティブなポップ・ロック・アルバムではなく、明るさの裏に不安を抱えた作品である。

音楽的には、WALK THE MOONの80年代ニューウェイヴへの愛着が引き続き感じられる。シンセの明るい音色、跳ねるリズム、合唱できるサビはバンドの大きな魅力である。しかし本作では、それがより現代のアリーナ・ポップやエレクトロ・ポップへ接近している。ギター・バンドでありながら、シンセとビートの比重は高く、フェスや大規模会場で鳴ることを意識した音作りになっている。

一方で、曲数が多く、リプライズも含む構成のため、アルバム全体はやや拡散的でもある。『Talking Is Hard』のようなコンパクトなポップ・ロック作品と比べると、『What If Nothing』はより広いテーマと音を抱え込んでおり、その分、焦点が散る場面もある。しかし、その散らばり方は、タイトルが示す不確かな問いと重なる。すべてが整然と答えへ向かうのではなく、複数の感情が同時に存在する。その混乱も本作の一部である。

歌詞面では、自己再定義の感覚が強い。大ヒット後のバンドにとって、自分たちが何者であるかを再び問うことは避けられない。WALK THE MOONは本作で、明るく踊れるバンドというイメージを維持しながら、その内側にある揺らぎを見せている。成功の後には自由がある一方で、不安もある。前に進むことは希望であると同時に、過去の自分から離れる恐れでもある。

Nicholas Petriccaのヴォーカルは、アルバム全体を支える大きな力である。彼の声は高揚感を作るのに非常に適しており、「One Foot」「Lost in the Wild」のような曲ではアンセム的な説得力を持つ。一方で、「Surrender」や「In My Mind」のような曲では、より個人的な脆さも表現している。WALK THE MOONの音楽が単なるダンス・ポップになりきらないのは、彼の声に感情の揺れがあるからである。

日本のリスナーにとって本作は、「Shut Up and Dance」の明るいイメージからWALK THE MOONに入った場合、より広く、より重い作品に感じられるかもしれない。しかし、シンセ・ポップ、80年代ニューウェイヴ、現代ポップ・ロックの交差点にあるアルバムとして聴くと、本作の魅力は分かりやすい。「One Foot」は入口として非常に聴きやすく、「Headphones」「Kamikaze」「Lost in the Wild」などを通じて、バンドの多面的な表現が見えてくる。

『What If Nothing』は、成功の後に生まれた問いのアルバムである。もし何も確かでなかったら。もし答えがなかったら。もし未来が見えなかったら。それでも音楽を鳴らし、ヘッドフォンをつけ、一歩を前に出す。WALK THE MOONはここで、明るいポップ・ロックの形式を使って、不確かな時代と不安定な心を踊らせている。完全に整理された作品ではないが、その揺らぎこそが、本作の重要な個性である。

おすすめアルバム

1. WALK THE MOON – Talking Is Hard(2014)

WALK THE MOONを世界的に広めた代表作。「Shut Up and Dance」を収録し、80年代ニューウェイヴ、ギター・ポップ、シンセ・ポップの明るさが高い完成度でまとまっている。『What If Nothing』の前提となる作品であり、バンドのポップな魅力を最も分かりやすく示している。

2. WALK THE MOON – Walk the Moon(2012)

メジャー・デビュー作で、「Anna Sun」を収録。インディー・ポップ、ダンス・ロック、カラフルなシンセの要素があり、初期WALK THE MOONの瑞々しいエネルギーを確認できる。『What If Nothing』の大きなスケールと比較すると、より若く身近なバンド感がある。

3. The 1975 – I like it when you sleep, for you are so beautiful yet so unaware of it(2016)

80年代ポップ、ニューウェイヴ、R&B、インディー・ロックを現代的に再構成した作品。WALK THE MOONよりも皮肉や内省が強いが、シンセ・ポップとロック・バンドの融合、明るい音の裏にある不安という点で関連性が高い。

4. Bleachers – Gone Now(2017)

Jack Antonoffによるプロジェクトの2作目。80年代的なシンセ、巨大なドラム、ノスタルジックなメロディ、個人的な喪失感が結びついている。『What If Nothing』と同時期のポップ・ロックとして、明るい音と内面的なテーマの関係を比較しやすい。

5. Foster the People – Torches(2011)

インディー・ポップとシンセ・ポップをメインストリームへ押し上げた重要作。「Pumped Up Kicks」を収録し、明るい音色と暗いテーマの対比が特徴である。WALK THE MOONのような踊れるインディー・ポップの背景を理解するうえで関連性が高い。

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