
発売日: 2003年4月22日
ジャンル: プログレッシブ・ロック、アコースティック・ロック
Opethの異色作——静寂の中に宿る美
スウェーデンのプログレッシブ・デスメタルバンドOpethが2003年に発表したDamnationは、それまでの彼らの作品とは一線を画す異色作である。過去のアルバムで繰り広げられていたデスメタル要素を完全に排除し、全編がクリーントーンのギター、アコースティックサウンド、ミカエル・オーカーフェルトのクリーンヴォーカルによって構成されている。
本作は、2002年にリリースされた前作Deliveranceと対を成す作品であり、Deliveranceがヘヴィで暴力的な側面を強調したのに対し、Damnationは繊細で内省的な音楽性を追求している。プロデュースはPorcupine Treeのスティーヴン・ウィルソンが担当しており、その影響はアルバムのサウンド全体に色濃く反映されている。
アルバム全体を通して、ジャズやプログレの要素を含みつつ、70年代のプログレッシブ・ロックに影響を受けた楽曲が展開される。これはOpethにとって重要な音楽的実験であり、後の作品でのより洗練されたクリーンパートの導入へと繋がる布石となった。
全曲レビュー
1. Windowpane
アルバムの幕開けを飾るこの楽曲は、浮遊感のあるギターリフと哀愁を帯びたミカエルのヴォーカルが特徴的。メロトロンの淡い音色がプログレ的な雰囲気を醸し出し、スティーヴン・ウィルソンの影響が特に強く感じられる。歌詞は孤独や現実との断絶をテーマにしており、アルバム全体のムードを象徴している。
2. In My Time of Need
ピアノとアコースティックギターが美しく調和する楽曲。メロディは非常に叙情的で、Opethの楽曲の中でも最も親しみやすい部類に入る。歌詞は喪失感と救いのなさを描いており、静かながらも強烈なエモーションを感じさせる。
3. Death Whispered a Lullaby
不穏なギターのアルペジオが印象的な一曲。タイトルの通り、「死が子守唄を囁く」というテーマを持ち、静かでありながらも暗く沈んだ雰囲気が漂う。スティーヴン・ウィルソンのバックコーラスが楽曲にさらなる深みを加えている。
4. Closure
他の楽曲に比べてダイナミックな展開を持つ楽曲。中盤までは穏やかなアコースティックアレンジが続くが、終盤に向かって徐々にビートが強調され、トリップするようなリズムへと変化していく。歌詞は精神的な終焉と再生を描いており、アルバムの中で異彩を放つ。
5. Hope Leaves
アルバムの中でも特に内省的な楽曲。シンプルなコード進行と穏やかなメロディの中に、静かなる絶望感が漂う。歌詞は喪失と希望の喪失を描いたもので、Opethのバラード曲の中でも特に感情的な一曲。
6. To Rid the Disease
メランコリックなピアノのイントロが印象的な楽曲。全体的にシンプルなアレンジながらも、ミカエルのヴォーカルが情感たっぷりに歌い上げられる。タイトルが示す通り、「病を取り除く」ことをテーマにしており、精神的な浄化を暗示するような歌詞が特徴的。
7. Ending Credits
インストゥルメンタルの小曲。クラシカルなアコースティックギターが紡ぐメロディは、アルバム全体の静謐な世界観を象徴するような美しさを持っている。タイトル通り、映画のエンディングのような余韻を残す。
8. Weakness
アルバムのラストを飾る静かな楽曲。最小限の楽器編成で構成され、歌詞も極めてシンプル。絶望と諦観が交錯するような楽曲であり、静かに幕を閉じるアルバムのフィナーレとしてふさわしい。
総評
Damnationは、Opethがヘヴィな要素を完全に取り払ったことで、メロディや歌詞の持つ純粋な美しさが際立つ作品となった。70年代プログレッシブ・ロックやアコースティックフォークの影響を強く受けたこのアルバムは、彼らの音楽的探求心の結晶とも言える。
このアルバムの実験的なアプローチは、後のHeritage(2011年)以降の作品へと繋がっていく重要な布石となり、Opethの持つ「静と動」の対比をより洗練されたものへと昇華させた。デスメタルを期待するリスナーにとっては異色作ではあるが、プログレファンやアコースティック主体の音楽を好むリスナーには必聴の作品である。
おすすめアルバム
- Opeth – Deliverance (2002)
- Damnationと対をなす作品であり、激しさと静寂の両極端を体現したアルバム。
- Porcupine Tree – Lightbulb Sun (2000)
- スティーヴン・ウィルソンが手掛けるバンドの名作。Opethのクリーンな側面に共鳴するメロディアスなプログレ作品。
- Anathema – A Natural Disaster (2003)
- ヘヴィな要素を抑え、内省的なサウンドへと移行したバンドのアルバム。Opethの本作に共鳴する雰囲気を持つ。
- Katatonia – Discouraged Ones (1998)
- メランコリックなメロディと静かなヴォーカルが特徴の作品。Damnationの静けさを好むリスナーにおすすめ。
- Steven Wilson – Grace for Drowning (2011)
- Damnationのプロデューサーであるスティーヴン・ウィルソンのソロ作品。ダークで叙情的なプログレが楽しめる。
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