Phillip Phillips(フィリップ・フィリップス)は、アメリカ・ジョージア州出身のシンガーソングライターである。2012年にオーディション番組『American Idol』シーズン11で優勝し、一気に全米へ名前を広げた。
彼の音楽は、アコースティックギターを中心としたフォークロックとポップが基本になっている。そこへソウル、ブルース、ジャム・バンド的な演奏を加えるのが特徴だ。少しかすれた太い歌声と、ギターを叩くように弾く力強い演奏も大きな個性となっている。
優勝直後に発表した「Home」は巨大なヒットとなり、その後も「Gone, Gone, Gone」「Raging Fire」などを発表した。しかしPhillipsは、テレビ番組から生まれたスターという立場だけに収まらなかった。作品を重ねるにつれて自ら曲作りや制作へ深く関わり、一人のシンガーソングライターとして自分の音を固めていった。
Phillip Phillipsの背景と歴史
Phillip Phillipsは1990年、ジョージア州アルバニーに生まれ、リーズバーグ周辺で育った。10代でギターを始め、地元で演奏経験を積んでいく。
音楽的な出発点として重要だったのが、ギターを弾きながら歌うスタイルである。歌だけを前面に出すのではなく、ギターと声、そしてバンドの演奏が一体となることを重視していた。
大きな転機となったのが2012年の『American Idol』だった。
Phillipsはシーズン11に出場し、ギターを持って自分なりのアレンジで楽曲を歌った。番組でよく見られる、大きな声でバラードを歌い上げるタイプとは少し違った。曲そのものを自分のスタイルに変えて演奏する姿が個性となり、最終的に優勝する。
その優勝曲として発表されたのが「Home」である。
「Home」はフォークを土台にしながら、手拍子のようなリズムと大きなコーラスを使った曲だった。Phillipsの素朴な歌声と、誰でも歌えるサビがうまく組み合わさり、『American Idol』出身者の楽曲の中でも特に大きなヒットとなった。
同年にはデビューアルバムThe World from the Side of the Moonを発表。「Gone, Gone, Gone」もヒットし、Phillipsは番組終了後も人気を維持した。
2014年のセカンドアルバムBehind the Lightでは、本人が曲作りや制作へさらに深く関わる。「Raging Fire」などでは初期のフォークポップを残しながら、より強いロックサウンドへ進んだ。
その後は契約をめぐって『American Idol』の制作会社19 Entertainmentとの対立が起こり、新作を発表できない時期が続いた。問題が解決した後、2018年にCollateralを発表する。
さらに2023年には4作目Drift Backを発表。大ヒットした「Home」のイメージだけに頼らず、より落ち着いたシンガーソングライターとして活動を続けている。
Phillip Phillipsの音楽スタイルと特徴
Phillip Phillipsの音楽で最初に耳へ入ってくるのは、少しかすれた太い歌声である。
きれいに整った声で歌うタイプではない。低い声では話しかけるように歌い、盛り上がる部分では喉を強く鳴らすような声になる。この荒さが、アコースティックギター中心の音によく合っている。
ギターの弾き方にも特徴がある。
静かにコードを鳴らすだけではなく、弦を強く弾いたり、細かなリズムを刻んだりする。そのため一人でギターを弾いていても、ドラムが入っているようなリズム感が生まれる。
バンド演奏になると、その特徴はさらに強くなる。ドラムやベースが一定のビートを刻むだけではなく、それぞれが細かく動くことがある。曲によってはサックスなども入り、スタジオ録音よりライブで長く演奏できそうな作りになっている。
この部分にはDave Matthews Bandなどのジャム・バンドからの影響を感じやすい。決められた音をそのまま再現するより、演奏者同士が反応しながら曲を広げていく感覚である。
一方で、Phillipsには非常に分かりやすいポップソングを書く力もある。「Home」や「Gone, Gone, Gone」では、何度も繰り返される短いフレーズと大きなコーラスを使っている。
フォークの素朴さ、ロックの力強さ、ソウルの歌い方、ポップの覚えやすさ。この4つが無理なく一緒に鳴っていることがPhillip Phillipsの大きな特徴である。
Phillip Phillipsの代表曲
「Home」
Phillip Phillipsの名前を世界的に広めた代表曲である。2012年の『American Idol』優勝時に歌われ、その後デビューアルバムThe World from the Side of the Moonにも収録された。
アコースティックギターから始まり、徐々に手拍子のようなリズムやコーラスが増えていく。最後には大勢で歌っているような広がりが生まれる。
Phillips本人の典型的な曲作りとは少し異なる部分もあるが、彼の土臭い声とフォークポップの組み合わせを広く知らしめた曲である。
「Gone, Gone, Gone」
「Home」と並ぶ初期の代表曲で、The World from the Side of the Moonに収録されている。
アコースティックギターと軽快なビートから始まり、サビへ進むにつれて音が大きくなる。愛する人を支え続けるという内容を、短く分かりやすい言葉と力強いコーラスで歌っている。
「Home」よりもPhillips自身のシンガーソングライターとしての個性が分かりやすい。フォーク、ロック、ポップのバランスを知るには適した曲である。
「Raging Fire」
2014年のBehind the Lightを代表する曲である。
初期のフォークポップを残しながら、ドラムやストリングスを使ってさらに大きな音へ進んでいる。サビではPhillipsのかすれた声が一気に強くなり、バンド全体もそれに合わせて盛り上がる。
「Home」で成功したスタイルをそのまま繰り返すのではなく、よりロック寄りの音へ進もうとしていた時期がよく分かる。
「Miles」
2018年のCollateralにつながる重要な曲である。
過去のヒット曲より落ち着いた雰囲気があり、Phillipsの声そのものをじっくり聞かせる作りになっている。若いスターとして勢いよく登場した初期とは違い、時間を重ねたシンガーソングライターとしての姿が見える。
長い空白期間を経て戻ってきたPhillipsが、それまでの経験を抱えながら再び歩き始める時期を伝える一曲でもある。
「Dancing With Your Shadows」
2023年のDrift Backの冒頭を飾る曲である。
アコースティックなフォークだけに限定せず、軽快なポップロックのビートを使っている。初期作品より音はすっきりしているが、Phillipsのかすれた声と力強いメロディは変わらない。
30代になったPhillipsが、デビュー時の成功を再現するのではなく、現在の自分に合ったフォークポップを作っていることが分かる曲である。
アルバムごとに見るPhillip Phillipsの進化
The World from the Side of the Moon(2012年)
『American Idol』優勝から間もなく発表されたデビューアルバムである。
「Home」「Gone, Gone, Gone」「Where We Came From」などを収録。アコースティックギター、力強いドラム、大きなコーラスを組み合わせたフォークポップが中心になっている。
ただし、アルバム全体を聴くと「Home」だけでは分からない部分も見えてくる。曲によってリズムが複雑になったり、バンドが自由に動いたりする。Dave Matthews Bandなどに通じるジャム・ロック的な感覚も強い。
『American Idol』の優勝者として求められるポップな分かりやすさと、Phillips自身が好むバンド志向のロックが同居した作品である。
Behind the Light(2014年)
セカンドアルバムでは、Phillips自身の考えがさらに強く音楽へ反映されるようになった。
代表曲「Raging Fire」では大きなコーラスという初期の魅力を残しながら、演奏はより厚くなっている。ギターだけでなくストリングスやさまざまな楽器を使い、曲の展開も広がった。
デビュー作よりロックバンドとしての感覚が強いのも特徴だ。曲をコンパクトなポップソングとして終わらせるのではなく、演奏そのものを楽しむ方向へ進んでいる。
『American Idol』優勝者のデビュー作に続くアルバムというより、Phillipsが自分の音楽を本格的に作ろうとした作品として重要である。
Collateral(2018年)
前作から約4年を経て発表された3作目である。
この間、Phillipsは契約をめぐる問題を経験した。そのためCollateralは、単なる次のアルバムではなく、キャリアを立て直した時期の作品でもある。
音楽は初期より落ち着いている。「Miles」のように大きなメロディを持った曲はあるが、常に観客を盛り上げようとするわけではない。声やギターの温かさを生かし、より大人びたフォークロックへ進んでいる。
派手なスター性よりも、一人のミュージシャンとして長く活動することへ軸足が移った作品と見ることができる。
Drift Back(2023年)
5年ぶりに発表された4作目で、Phillipsにとって独立後の新しい段階を示すアルバムである。
「Dancing With Your Shadows」「Love Like That」「Drift Back Together」などを収録。Todd Clarkを中心とする制作陣とともに、フォーク、ポップ、ロックを自然に組み合わせている。
初期作品ほど「大きなサビ」を強調しない曲も増えた。代わりにメロディや歌詞を落ち着いて聞かせる余裕がある。
タイトルのDrift Backには、漂いながら戻ってくるような響きがある。実際の音楽も、流行へ無理に合わせるより、ギター、声、メロディというPhillipsの基本へ自然に戻ったような作品になっている。
Phillip Phillipsが影響を受けた音楽
Phillip Phillips本人は、かなり幅広いアーティストから影響を受けてきたことを語っている。その中でも音楽を理解しやすいのがDave Matthews、Damien Rice、John Butlerなどである。
Dave Matthewsとのつながりは特に分かりやすい。アコースティックギターを細かくリズミカルに弾き、ロック、フォーク、ジャズなどを混ぜるスタイルはPhillipsの音楽にも通じている。
Damien Riceからは、ギターと声を中心に感情を直接伝えるシンガーソングライター的な部分との共通点を感じられる。John Butlerにも、アコースティックギターを単なる伴奏ではなく、リズムを作る楽器として使う点で近いものがある。
本人はJimi Hendrix、Stevie Ray Vaughan、AC/DC、Tool、Hank Williamsなども影響源として挙げている。ジャンルはかなり異なるが、Phillips自身も自分の音楽にはフォーク、Americana、ジャズ、ロックなど複数の要素があると説明している。
だからこそ、単純に「フォークポップの歌手」と考えるだけでは彼の音楽を完全には説明できない。親しみやすい曲の下に、ギタリストとしての幅広い好みが隠れている。
Phillip Phillipsが2010年代のポップに残したもの
Phillip Phillipsが登場した2012年前後は、アメリカのポップ市場でフォーク的なサウンドが再び大きな人気を得ていた時期だった。
Mumford & SonsやThe Lumineersなどが注目され、アコースティック楽器、手拍子、大人数のコーラスを使った曲がヒットチャートでも聞かれるようになっていた。「Home」は、まさにそうした時代の空気と重なった。
ただしPhillipsの場合、そのスタイルをテレビのオーディション番組という巨大な場所から広めたことに特徴がある。派手なダンスポップとは違う、ギターを抱えたシンガーソングライターでも『American Idol』の頂点に立てることを示した。
一方で、Phillips本人は「Home」だけを繰り返す道を選ばなかった。Behind the Light以降はバンド演奏や自作曲へのこだわりを強め、より自分自身の音楽へ進んでいる。
その意味では、巨大なヒット曲を持つポップスターであると同時に、そのヒット曲のイメージから少しずつ距離を取りながらキャリアを築いてきたシンガーソングライターでもある。
まとめ
Phillip Phillipsは、『American Idol』シーズン11の優勝によって登場し、「Home」の大ヒットで一気に知られるようになったシンガーソングライターである。アコースティックギター、少しかすれた力強い声、大きく広がるコーラスが初期の代表的な特徴だ。
しかし、その音楽の土台にはフォークだけでなく、ロック、ブルース、ソウル、ジャム・バンドなど幅広い要素がある。Behind the Light以降は自らの曲作りをより強く打ち出し、契約問題による空白を経たCollateral、独立した立場で制作したDrift Backへと歩みを進めた。「Home」の歌手という大きなイメージを持ちながらも、ギターと歌を軸に自分の音楽を作り続けていることが、Phillip Phillipsのキャリアを特徴づけている。


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