発売日: 1974年5月
ジャンル: ハードロック、ヘヴィメタル、スペースロック
概要
『Phenomenon』は、イギリスのハードロックバンドUFOが1974年に発表した3作目のスタジオ・アルバムであり、ドイツ出身の若きギタリスト、マイケル・シェンカーを迎えて新章に突入した“UFO進化の起点”とされる作品である。
本作以前のUFOはスペースロック/サイケデリック寄りの音楽性を持っていたが、『Phenomenon』でそのスタイルを大きく転換し、硬質なリフとメロディアスなギターが際立つ“ブリティッシュ・ハードロック”の王道サウンドへとシフトした。
シェンカーの加入は単なるメンバーチェンジ以上の衝撃をもたらし、彼の鋭利かつ叙情的なギタープレイが、以後のUFOサウンドを決定づけることとなる。
また、フィル・モグ(ヴォーカル)のエモーショナルな歌唱とピート・ウェイ(ベース)の堅実なリズムが絶妙に絡み合い、荒々しさとメロディアスさが見事に融合している。
『Phenomenon』は、70年代ブリティッシュ・ハードの中核をなす1枚として、多くの後続バンド――特にNWOBHM(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル)勢――に影響を与えた歴史的作品である。
全曲レビュー
1. Too Young to Know
本作の幕開けを飾る、ドライヴ感溢れるストレートなロックナンバー。
若さと無知への自嘲的なリリックを、軽快なリフとモグのエネルギッシュな歌唱が突き抜ける。
シェンカーのギターはすでに完成されており、緩急のあるソロが光る。
2. Crystal Light
叙情性とスペース感を融合させたバラード。
アコースティックな質感とリリカルな旋律が、ハードロックの中に静けさと神秘性をもたらしている。
タイトルの“クリスタルの光”が象徴するのは、感覚的な美の追求だ。
3. Doctor Doctor
UFOの代表曲にして、マイケル・シェンカーのギターが炸裂するハードロック・アンセム。
“ドクター、僕はおかしくなりそうだ”という切実な叫びを、疾走感と共に放つ。
ライヴでは必ず演奏される定番曲であり、Iron Maidenをはじめとする多くのバンドがカバーしている。
4. Space Child
再びスペースロックの名残を感じさせる、浮遊感に満ちた一曲。
エレピの使用や幻想的なコード進行が、宇宙を彷徨う“子供”のメタファーと融合し、サイケデリックな余韻を残す。
5. Rock Bottom
本作の白眉にして、ハードロック史に残る名演。
タイトなリフと緩急ある展開、そして7分以上にわたるシェンカーのギター・ソロが圧巻。
とりわけ後半の速弾きからの昇華的クライマックスは、後のギターヒーロー像を決定づけた。
6. Oh My
ブルースロック由来のアーシーなグルーヴが印象的なナンバー。
リズム隊の粘りとギターのリフワークが、バンドの“地に足のついた”側面を示す。
7. Time on My Hands
メロウなヴォーカルと叙情的なメロディが主軸のバラード。
時間の儚さと恋愛の余韻を描いたリリックに、バンドの柔らかい一面が表れている。
8. Built for Comfort
ウィリー・ディクソン作のブルース・カバー。
ハードロック的なアプローチではなく、原曲のルーズなフィーリングを重視した演奏で、UFOのルーツ志向を感じさせる一曲。
9. Lipstick Traces
ギターインストゥルメンタル。
シェンカーの表現力豊かなトーンが前面に出た短編で、彼の“歌うギター”の美学が端的に味わえる。
10. Queen of the Deep
サイケデリックなイントロとハードな展開が交錯するラストナンバー。
深海の女王をめぐる幻想的な物語を、サウンドでも表現しており、アルバム全体の余韻を印象づける締めくくりとなっている。
総評
『Phenomenon』は、UFOがサイケデリックなスペースロックからハードロックへと脱皮し、新たなサウンドアイデンティティを確立した“変革の瞬間”を捉えた作品である。
このアルバムでの最大の収穫は、間違いなくマイケル・シェンカーの加入であり、彼のギタープレイはリフからソロに至るまで、バンド全体のサウンドを再定義した。
その一方で、残されたスペーシーな余韻やブルース志向の楽曲が、UFOというバンドの懐の深さを示してもいる。
“Doctor Doctor”や“Rock Bottom”のような名曲に支えられつつ、アルバム全体が起承転結のある構成でまとめられており、70年代ハードロックの隠れた名盤として今日でも高く評価される理由がそこにある。
おすすめアルバム(5枚)
- Scorpions – In Trance (1975)
マイケル・シェンカーの弟ルドルフ率いるバンド。メロディック・ハードの美学が共通。 - Thin Lizzy – Jailbreak (1976)
ギター・ハーモニーと語り口調のヴォーカルがUFOと近い。 - Rainbow – Rising (1976)
ギタリスト主導の劇的ハードロック。『Rock Bottom』的な展開美あり。 - Budgie – Bandolier (1975)
重量感とメロディを兼ね備えたブリティッシュ・ハードの逸品。 - Blue Öyster Cult – Secret Treaties (1974)
幻想的で知的なハードロック。『Queen of the Deep』と共鳴する幻想性。
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