発売日: 1975年7月
ジャンル: ハードロック、ヘヴィメタル、ブルースロック
概要
『Force It』は、イギリスのハードロック・バンドUFOが1975年にリリースした4作目のスタジオ・アルバムであり、バンドの音楽的成熟と商業的ブレイクスルーを決定づけた代表作である。
前作『Phenomenon』で導入されたマイケル・シェンカーの圧倒的なギター・ワークがさらに洗練され、フィル・モグのエモーショナルなヴォーカルと結びつくことで、“叙情的なハードロック”というUFO独自のスタイルが確立された。
本作では、アメリカ人プロデューサー、レオ・ライオンズ(Ten Years Afterのベーシスト)を迎え、よりタイトで重厚なサウンドが実現されている。
また、キーボーディストのチック・チャーチルがゲスト参加し、随所にエレピやオルガンが挿入されることで、UFOの硬質なサウンドに彩りと陰影が加わっている。
アルバムタイトルの『Force It』は“強引にやれ”という意味合いを持ち、ジャケット(デザインはHipgnosis)が物議を醸したように、音楽的にも大胆で衝動的なパワーが漲っている。
UFOにとっては初のアメリカ市場での本格的成功を収めたアルバムであり、以後のハードロック路線を確立する礎となった。
全曲レビュー
1. Let It Roll
強烈なリフと攻撃的なギターが炸裂するオープニング・ナンバー。
マイケル・シェンカーのスピード感あふれるプレイと、モグのシャープなボーカルが一体となって“転がり続ける”勢いを体現している。
ライブの定番曲としても人気が高い。
2. Shoot Shoot
キャッチーなコーラスと硬質なビートが光るアップテンポ・ロック。
“撃て、撃て”というフックはシンプルだが中毒性があり、アリーナロック的な盛り上がりを感じさせる。
3. High Flyer
アコースティックギターとエレクトリックが交差する叙情的なバラード。
“空を飛ぶ者”というテーマに込められた逃避願望と孤独が、シェンカーの泣きのギターと見事に合致する。
4. Love Lost Love
失恋をテーマにしたストレートなハードロック。
シンプルな構成ながら、フィル・モグの感情表現が楽曲に深みを与えている。
5. Out in the Street
本作の中でも最もドラマティックな構成を持つ楽曲。
静かなイントロから一気に爆発するような展開があり、メロウな歌メロと荒々しいリフの対比が印象的。
サビの高揚感は、UFOらしさの真骨頂。
6. Mother Mary
初期UFOの代表曲のひとつで、ライヴでも定番中の定番。
宗教的なモチーフをタイトルにしながらも、内容はより人間的な情動を描いたものであり、直線的でありながら激情に満ちた一曲。
7. Too Much of Nothing
重たいベースと粘り気のあるリフが支配する、ブルージーで暗めのナンバー。
タイトル通りの虚無感が曲全体に漂い、サイケデリック期の残り香もわずかに感じられる。
8. Dance Your Life Away
リズミカルで軽快なビートを持つ、ややファンク色も感じさせるロック・ナンバー。
タイトルが示す通り、刹那的に“踊って生きろ”というメッセージが込められている。
9. This Kid’s / Between the Walls
アルバムの締めくくりにふさわしい二部構成の楽曲。
“This Kid’s”では若者の孤独と葛藤を語り、“Between the Walls”ではインストゥルメンタルでシェンカーの情感あふれるギターが語りを引き継ぐ。
終曲として非常に完成度が高く、アルバム全体を静かに包み込む。
総評
『Force It』は、UFOがハードロック・バンドとしてのアイデンティティを確立し、以後の黄金時代への扉を開いた重要作である。
このアルバムにおけるシェンカーのギター・ワークは、テクニカルでありながらも感情に訴える“泣きのフレーズ”に満ちており、のちのギターヒーローたち――エディ・ヴァン・ヘイレン、カーク・ハメット、ジョン・ノーラムら――に決定的な影響を与えた。
また、フィル・モグのボーカルは力強さと繊細さを兼ね備え、時に叙情的に、時に荒々しく、楽曲に命を吹き込む。
全体として、攻撃性とメロディ、重厚さと軽やかさ、直情性と詩情が絶妙にブレンドされており、“UFOというバンドの完成形”がここにある。
おすすめアルバム(5枚)
- Thin Lizzy – Johnny the Fox (1976)
メロディックなツインギターと語り口調の歌詞がUFOと共鳴。 - Scorpions – Virgin Killer (1976)
マイケル・シェンカーのルーツである兄ルドルフのバンド。ギターの攻撃性と叙情性が共通。 - Rainbow – Long Live Rock ‘n’ Roll (1978)
ハードロックの様式美と詩的世界観がUFOと通じる。 - MSG – The Michael Schenker Group (1980)
シェンカーのソロプロジェクト。『Force It』でのスタイルが発展した形で聴ける。 - Budgie – If I Were Britannia I’d Waive the Rules (1976)
重量感と個性を兼ね備えた英国ハードロックの良作。UFOの陰と陽のバランスと親和性。
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