発売日: 1974年11月
ジャンル: グラム・ロック、ハードロック、グラム・メタル
概要
『Desolation Boulevard』は、イギリスのグラム・ロックバンド Sweet が1974年にリリースした3作目のスタジオ・アルバムであり、彼らのキャリアにおける芸術的・商業的な頂点を象徴する作品である。
本作にはUK盤（RCA盤）とUS盤（Capitol盤）の2つのバージョンが存在し、収録曲や構成が大きく異なる。
特にUS盤には「Ballroom Blitz」「Fox on the Run」といった代表曲が含まれており、アメリカ市場での人気を決定づける要因となった。
一方UK盤は、前作『Sweet Fanny Adams』の流れを汲むハードロック色の濃い構成で、バンドの本来の音楽的方向性をより忠実に反映している。
アルバムタイトルにある“Desolation Boulevard（荒廃の大通り）”とは、栄光と退廃、名声と虚無とが交差する“ショウビズの裏側”を象徴するイメージであり、バンド自身が急激な成功の中で感じていた現実をそのまま描き出したものとも言える。
この作品をもってSweetは、ポップから完全に脱却した本格的ロックバンドとして、グラム・ロック史に名を刻むこととなった。
全曲レビュー（UK盤準拠）
1. The Six Teens
チャップマン＝チンによる構成美あふれるオープニング・ナンバー。
“1960年代を生きた6人の若者”というノスタルジックなテーマのもと、フォーク調の静かなパートとハードロック的な爆発が交互に展開する。
政治・文化・世代を内包した詞世界が、Sweetの“語れるバンド”としての進化を示す。
2. Solid Gold Brass
『Sweet Fanny Adams』からの再録。
欲望、金銭、虚飾といったテーマをハードに描いたグラム・ロックの佳曲。
中毒性のあるギターリフと、力強いコーラスが印象的。
3. Turn It Down
政府の放送禁止措置を受けた問題作。
“音を下げろ”という命令に対し、ロックンロールの自由を叫ぶ反抗の歌。
ギターの歪みとタッカーのドラミングが凶暴なエネルギーを放つ。
4. Medusa
スロウで重厚なアレンジによる異色作。
ギリシャ神話の“メデューサ”を題材にした幻想的な歌詞と、陰鬱でダークなサウンドが融合。
プログレッシブな展開は、バンドの実験精神を強く感じさせる。
5. Lady Starlight
ブライアン・コノリーによるエモーショナルなバラード。
ストリングスとピアノが中心となり、スウィートの“ロマンティックな一面”が表現された作品。
のちにスコーピオンズが同名タイトルを掲げたことでも知られる。
6. Man with the Golden Arm
映画『黄金の腕』に基づくインストゥルメンタル曲。
スウィートのテクニカルな演奏能力が最大限に発揮されたトラックで、特にミック・タッカーのドラミングが圧巻。
サウンドトラック的な構成がアルバムに奥行きを与える。
追加収録（US盤を中心に言及）
7. Ballroom Blitz
スウィート最大の代表曲のひとつで、まさにグラム・ロックの代名詞。
“Are you ready, Steve? Andy? Mick? Brian?”という名セリフとともに炸裂するイントロはロック史に刻まれる名場面。
パーティ感と暴力性が融合したカオティックな名曲。
8. Fox on the Run
初のセルフ・プロデュースによる楽曲で、USチャートでも大ヒット。
キャッチーなメロディとメランコリックなコード進行が、ポップとロックの理想的な交点を示す。
“逃げるキツネ”に喩えた女性像が、甘さと苦さを絶妙に共存させている。
9. Burn on the Flame
ミディアム・テンポのギター主導型ロック。
抑えた情熱と燃えるようなエモーションがタイトル通りに表現されている。
サウンドはシンプルながら、バンドのエネルギーが強く伝わる。
総評
『Desolation Boulevard』は、Sweetがグラム・ポップの殻を完全に破り、本格的なロックバンドとしてのアイデンティティを確立した記念碑的作品である。
アルバム全体を通して見られるのは、“ショウビズの栄光と裏側”という一貫したテーマであり、煌びやかさの裏にある空虚や退廃が音楽的・詞的両面で描かれている。
甘さと攻撃性、華やかさと陰鬱、理性と衝動――そのすべてを複雑に抱えながら、彼らは唯一無二のサウンドを確立した。
“グラム・メタル”というジャンルを先取りしたとも言える本作は、ハードロック、ヘヴィメタル、パワーポップといった多くの後進ジャンルに影響を与えた。
そして何より、バンドとしての“演奏力”と“作曲力”が完全に噛み合った稀有な瞬間をとらえたこのアルバムは、グラム・ロックの枠を超えた普遍性を持ち、今なおロック史において燦然と輝き続けている。
おすすめアルバム（5枚）
- Slade – Old New Borrowed and Blue (1974)
グラムの枠を超えた音楽性と、大衆性の両立が本作と共通。 - Queen – Sheer Heart Attack (1974)
グラムとハードロックの融合、劇的構成とコーラスワークにおいて非常に近い。 - David Bowie – Diamond Dogs (1974)
退廃的グラム・ロックの代表格。ショウビズの終焉を描いた世界観が通じる。 - New York Dolls – Too Much Too Soon (1974)
アメリカ流グラム・パンクの攻撃性と退廃的ユーモアが共鳴する。 - Kiss – Dressed to Kill (1975)
派手さとポップセンスを融合させたハード・ロックの好例。スウィートと同じ“派手で強い”美学がある。
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