
発売日: 1976年4月1日
ジャンル: プログレッシブロック、ハードロック
Rushの運命を変えた壮大なSFコンセプトアルバム
カナダのプログレッシブロックバンドRushが1976年にリリースした4作目のアルバム『2112』は、バンドのキャリアを決定づけた重要な作品であり、プログレッシブロック史における金字塔である。本作は、前作『Caress of Steel』(1975年)が商業的に不振に終わり、レコード会社からよりシンプルで売れやすい楽曲を求められていた中で、バンドが逆に壮大な20分超えの組曲を含むコンセプトアルバムを作り上げたという、まさに賭けのような作品だった。
結果的に『2112』はRushの最初の大成功となり、バンドは以降もプログレッシブなアプローチを続けながら、80年代にかけて世界的な人気を獲得することになる。アルバムのタイトルトラック「2112」は、ディストピア的な未来を描いた壮大なストーリーを持ち、リバタリアン的な思想や反権力のテーマを含むことでファンの間でも語り継がれる作品となった。
全曲レビュー
1. 2112 (Overture / The Temples of Syrinx / Discovery / Presentation / Oracle: The Dream / Soliloquy / Grand Finale)
アルバムの前半を丸ごと占める20分を超える壮大な組曲。SF的な世界観の中で、未来の独裁国家「ソーラー・フェデレーション」に支配された社会が描かれ、音楽の自由を奪われた世界で、一人の主人公がギターを発見し、権力に対抗するというストーリーが展開される。
- Overture:シンセとギターが炸裂するオープニング。プログレの要素とハードロックのパワーが融合した圧倒的なイントロ。
- The Temples of Syrinx:独裁国家の権力者たちが称賛される場面を表現した、攻撃的なセクション。ゲディ・リーのシャープなボーカルが特徴的。
- Discovery:主人公がギターを発見し、音楽の素晴らしさに目覚めるパート。アレックス・ライフソンのアコースティックギターが美しい。
- Presentation:主人公が音楽の価値を伝えようとするが、権力者たちに拒絶される。ドラマチックな展開が印象的。
- Oracle: The Dream:夢の中で未来の可能性を見る幻想的なパート。リバーブのかかったギターが幻想的な雰囲気を演出。
- Soliloquy:主人公が絶望し、苦悩する場面。ゲディ・リーの感情的な歌唱が響く。
- Grand Finale:壮絶なギターとドラムが炸裂し、物語が幕を閉じる。バンドの演奏技術が極限まで発揮された圧巻のエンディング。
2. A Passage to Bangkok
オリエンタルなリフが印象的な、アルバム後半の最初の曲。歌詞には世界各地の「良いもの」を求めて旅をするという内容が込められており、その比喩的な表現が話題になった。
3. The Twilight Zone
タイトル通り、TVシリーズ『トワイライト・ゾーン』から影響を受けた楽曲。ミステリアスな雰囲気を持ち、Rushの遊び心が感じられる。
4. Lessons
アレックス・ライフソンが作詞・作曲を手がけた珍しい楽曲。軽快なアコースティックギターのイントロが特徴的で、アルバムの中では比較的シンプルな構成。
5. Tears
ゲディ・リーが作詞・作曲したバラードで、Rushの楽曲の中でも最も感傷的な一曲。メロトロンが幻想的な響きを加え、Rushのメロディアスな側面を見せる。
6. Something for Nothing
アルバムのラストを飾るハードロックナンバー。シンプルながらも力強いメッセージが込められており、「何もせずに何かを得ることはできない」というテーマが歌われる。Rushの哲学的な歌詞のスタイルを象徴する一曲。
総評
『2112』は、Rushのキャリアを大きく変えた画期的なアルバムであり、バンドの独創性と音楽的な実力を証明する作品となった。特にタイトルトラック「2112」は、プログレッシブロックの歴史においても重要な楽曲であり、Rushが単なるハードロックバンドではなく、哲学的なテーマを持つアーティスト集団であることを示した。
このアルバムの成功により、Rushは以降も自由な音楽活動を続けることができ、80年代にはシンセを取り入れたプログレ・ポップ路線へと進化し、さらなる成功を収めることになる。プログレとハードロックの融合、SF的なコンセプト、演奏技術の高さという要素が詰まった、まさに必聴の一枚。
「プログレッシブロックは難解だ」と感じる人にも、Rushのエネルギッシュな演奏は聴きやすく、入門編としてもおすすめの作品である。
おすすめアルバム
- Rush – A Farewell to Kings (1977)
- 『2112』の成功を受け、さらにプログレッシブな方向へ進んだアルバム。
- Rush – Moving Pictures (1981)
- バンドの最高傑作とされるアルバムで、「Tom Sawyer」「YYZ」などの代表曲を収録。
- Pink Floyd – The Wall (1979)
- コンセプトアルバムの名作で、『2112』と同じく独裁的な社会をテーマにした作品。
- Yes – Close to the Edge (1972)
- プログレッシブロックの頂点に位置する名盤。Rushのプログレ的要素のルーツとしても重要。
- Dream Theater – Metropolis Pt. 2: Scenes from a Memory (1999)
- プログレメタルの金字塔で、『2112』と同様に壮大なコンセプトを持つアルバム。
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- プログレメタルの金字塔で、『2112』と同様に壮大なコンセプトを持つアルバム。
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