You Can Count on Me by Panda Bear(2011)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「You Can Count on Me」は、Panda Bear(ノア・レノックス)が2011年にリリースしたソロアルバム『Tomboy』のオープニング・トラックであり、わずか2分半ほどの短い楽曲ながら、深い愛情と献身、そして信頼の精神を凝縮したような繊細な楽曲です。

タイトルが示す通り、この曲の主題は「信頼」です。「あなたは私を信頼していい」と語るその声は、パートナーや子どもに向けているようにも、自分自身に言い聞かせているようにも聞こえます。
歌詞の内容はきわめてシンプルで、繰り返しを多用した構成ですが、その中には父としての決意、愛する人への誓い、そして孤独な世界におけるつながりへの希求が込められています。

2. 歌詞のバックグラウンド

この楽曲は、Panda Bearが結婚と子育てを経験し、リスボンで家庭を築いた時期に制作されました。彼はこの頃、音楽の制作に加えて父親としての役割を意識するようになり、以前よりも個人的で内省的なテーマに向き合うようになっていきます

Tomboy』というアルバムは、2007年の大作『Person Pitch』で構築された重層的なサンプリング・サウンドから離れ、よりダイレクトな歌と演奏を重視した作風となっています。「You Can Count on Me」はその流れを象徴するように、ギターのアルペジオと多重コーラスだけで構成されており、限りなくシンプルでありながら、情感にあふれた仕上がりになっています。

この曲はまた、彼が父となったことで生じた“責任感”や“守るべき存在がいることの意味”を、最も純粋な形で表現した一曲とも言えるでしょう。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius – Panda Bear / You Can Count on Me

“Know you can count on me”
「僕を信じていいよ」

“Know you can count on me to bust some heads”
「誰かが君を傷つけたら、僕が立ち向かう」

“If you’re lookin’ for a fight / I’m your man
「もしも戦わなきゃならない時は、僕が一緒にいる」

“I know I can count on you too”
「僕も、君を信じているよ」

このように、歌詞は親密な対話のように進行していきます。信頼は一方通行ではなく、相互的であることが強調されており、そこに人間関係の美しさと責任の重みが同時に描かれています。

4. 歌詞の考察

「You Can Count on Me」は、Panda Bearにとって**“父としての自画像”**とも言える楽曲です。
「君が必要な時、僕は必ずそこにいる」
「そして僕も、君の支えを必要としている」
——このやり取りには、親子関係やパートナーシップの根底にある“信頼”の相互性が描かれています。

特筆すべきは、「bust some heads(誰かの頭を叩き割る)」という、優しげなトーンの中に唐突に現れる強い表現です。これは、単なる暴力性ではなく、家族や大切な存在を守る意志の象徴として現れており、Panda Bearの繊細な歌声と美しいコーラスとのコントラストによって、より強く感情に訴えかけてきます。

また、「僕も君を信じているよ」という逆方向の一節は、この曲を“子どもやパートナーに向けた一方的なメッセージ”ではなく、双方向的な絆の歌として成立させています。相手の信頼を引き出すと同時に、自分もその相手を信頼する。その均衡こそが、愛の本質だというメッセージが、この短い曲には込められています。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “Lullaby” by Sufjan Stevens
     親密な距離感と愛の誓いが、穏やかなギターと共に描かれた作品。

  • “All I Need” by Radiohead
     共依存や愛の支え合いをテーマにした、静かで重いラブソング。

  • “Motion Picture Soundtrack” by Radiohead
     別れと受容の境界線を描いた、美しく儚い終末感のある楽曲。

  • “Hearts and Bones” by Paul Simon
     人間関係の微細な心のやり取りを描いた叙情的な名曲。

  • My Girls” by Animal Collective
     家庭と愛への欲望を、ビートの上に織り上げたパンダ・ベアらしい文脈での兄弟曲。

6. 信頼という名のささやかな奇跡——音楽が結ぶ親密の輪

「You Can Count on Me」は、Panda Bearがソングライターとして到達した、最も穏やかで、誠実な愛の表現のひとつです。派手な展開や複雑な構成はないものの、この曲には**音楽の本質的な力――“人と人を結びつける力”**が宿っています。

「信じる」ということは、現代においては簡単なことではありません。しかし、Panda Bearはこの短い曲で、それがどれだけ重要で、どれだけ美しいものであるかを、そっと教えてくれるのです。


「You Can Count on Me」は、シンプルなギターと多重の声の中に、“信頼”という最も深い感情を封じ込めた名曲。Panda Bearが父として、ひとりの人間として、大切な存在へ静かに捧げた、愛の誓いの歌である。

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