発売日: 2009年8月18日
ジャンル: オルタナティブ・ロック、インディーロック、ポストロック、アートロック
限界を超えた実験性と感情の深み——As Tall As Lionsが挑んだ新境地
As Tall As Lionsの3rdアルバムYou Can’t Take It with Youは、バンドのキャリアの中で最も実験的で、多様な音楽性を取り入れた作品である。
前作As Tall As Lions（2006年）では、エモ、オルタナティブ・ロック、ポストロック、ジャズの要素を巧みに融合させ、洗練されたサウンドを確立した。しかし本作では、さらに幅広いジャンルの影響を受け、エレクトロニカ、民族音楽的リズム、プログレッシブなアレンジを取り入れた大胆な進化を遂げている。
アルバムタイトル「You Can’t Take It with You（財産や地位はあの世に持っていけない）」が示すように、本作の歌詞は消費社会への批判、人間の精神的な空虚さ、生と死の狭間での葛藤といった哲学的なテーマを扱っている。
音楽的にも、ミニマルなリズムと壮大なオーケストレーションが共存し、ダイナミックで深みのあるサウンドスケープを作り出している。バンドが創り出した最高に美しく、そして挑戦的な一枚である。
全曲レビュー
1. Circles
アルバムの幕開けを飾る、サイケデリックな雰囲気のある幻想的なトラック。リズムのループが印象的で、タイトル通り「円を描くように繰り返す人生のサイクル」を象徴する楽曲。
2. Sixes & Sevens
本作のハイライトのひとつ。ダークで不穏なイントロから始まり、ドラマチックな展開を持つエネルギッシュな楽曲。シンセとホーンが絡み合い、As Tall As Lionsならではの壮大なサウンドが炸裂する。
3. You Can’t Take It with You
タイトル曲であり、アルバムのテーマを象徴する楽曲。ジャズやプログレッシブ・ロックの要素を取り入れた、独創的なアレンジが印象的。「死の間際に、何を持っていけるのか？」という問いかけが、楽曲の持つ神秘的な雰囲気を強調している。
4. Go Easy (See the Love)
リラックスしたムードのミディアムテンポの楽曲。レゲエ／ダブの影響を感じさせるリズムが特徴で、アルバムの中でも異色なトラックながら、バンドの音楽的な広がりを示している。
5. Duermete
スペイン語で「眠れ」を意味するタイトルを持つ楽曲。アコースティックギターとシンセが絡み合う、幻想的なサウンドスケープを持つ。バンドの持つシネマティックな感覚が最大限に発揮されている。
6. In Case of Rapture
ダークなムードを持ちつつも、エネルギッシュなビートが際立つ楽曲。「終末を迎えたとき、人は何を思うのか？」という宗教的なテーマを扱った歌詞が印象的。
7. We’s Been Waitin’
ユニークなリズムとコーラスワークが特徴的な楽曲。どこかトライバルな要素を持ち、バンドがこれまでにないサウンドへと挑戦していることが伺える。
8. Is This Tomorrow?
静かに始まり、徐々に壮大な展開を見せる楽曲。メロディはシンプルながらも、サウンドの重厚さが楽曲に深みを加えている。
9. Sleepyhead
タイトル通り、ドリーミーな雰囲気を持つ楽曲。ミニマルなビートと幻想的なシンセサウンドが、リスナーを夢の世界へと誘う。
10. The Narrows
ジャズとポストロックの要素を融合させた、アルバムの中でも最も実験的な楽曲のひとつ。メロディの浮遊感と緻密なリズムが、独特の世界観を作り出している。
11. Lost My Mind
アルバムのラストを飾る、壮大なフィナーレ。ピアノとボーカルの静かなイントロから始まり、楽曲が進むにつれて爆発的なクライマックスへと向かう。バンドが持つ感情表現のすべてを詰め込んだ、圧巻のラストトラック。
総評
You Can’t Take It with Youは、As Tall As Lionsが音楽的な限界を押し広げた、最も実験的かつ野心的な作品である。
前作As Tall As Lions（2006年）の洗練されたサウンドを土台にしつつ、エレクトロニカ、ジャズ、トライバル・ビート、プログレッシブ・ロックといった多様なジャンルの要素を取り入れ、これまでにないサウンドスケープを生み出している。
歌詞の面では、消費社会や精神的な空虚さをテーマにしたものが多く、「本当に大切なものとは何か？」という問いを投げかける。また、楽曲の構成も非常にダイナミックで、静かなパートと爆発的なクライマックスが交互に訪れることで、リスナーに強烈な印象を残す。
本作の後、バンドは2010年に解散（2015年に一時的に再結成）するが、You Can’t Take It with Youは、彼らのキャリアにおける最高到達点のひとつとして語り継がれている。
これは単なるロックアルバムではなく、芸術作品のような一枚であり、リスナーを深い思索へと導く壮大な音楽体験となる。
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