1. 歌詞の概要
「Wet Dream」は、Wet Legが放つもう一つの代表曲であり、「Chaise Longue」と同様に、シニカルなユーモアと鋭い観察眼を兼ね備えた楽曲である。この曲では、かつての恋人から未練たっぷりなメッセージを受け取った主人公が、それに対して乾いた冷笑を浮かべながら突き放す様子が描かれている。タイトルが示す通り、性的なニュアンスを含みつつも、全体のトーンは軽快で、むしろ一種の”からかい”や”冷やかし”のような空気感が支配している。
歌詞は直接的な表現を恐れず、むしろあっけらかんとした調子で、過去の関係を戯画化していく。その一方で、どこか憎めないおかしみも感じさせるのが、この楽曲の絶妙なバランス感覚なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Wet Dream」は、Wet Legのデビューアルバム『Wet Leg』(2022年)に収録された楽曲であり、バンドの初期の勢いを象徴するナンバーである。フロントウーマンであるRhian Teasdaleは、この曲について「元カレから送られてきたやや気まずいテキストメッセージにインスパイアされた」と語っている。
曲作りにおいて重視されたのは、「怒りや悲しみではなく、もっとユーモラスに、軽く笑い飛ばすこと」だったという。このアプローチは、Wet Legの音楽全体に通底する”無理に深刻にならない”スタイルを象徴している。
また、音楽的には80年代ポストパンクの乾いたギターサウンドを現代的にアップデートしたようなアレンジが特徴で、涼やかでありながらどこか棘を含んだサウンドが歌詞の内容と見事に呼応している。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics
“I was in your wet dream, driving in my car”
私はあなたのウェットドリームの中、車を運転していた“Saw you at the side of the road, there’s no one else around”
道端に立つあなたを見かけた、周りには誰もいない“You climb in beside me”
あなたは私の隣に乗り込んできた“And we just drive for miles”
そして私たちは何マイルも走り続けた“You said, ‘Baby, do you want to come home with me?’”
あなたは言った、「ベイビー、うちに来ない?」
このように、歌詞は幻想と現実、欲望と皮肉のあいだを行き来しながら、過去の恋愛に対する乾いた眼差しを描き出している。
4. 歌詞の考察
「Wet Dream」は、そのタイトルからして挑発的ではあるが、実際には非常に軽やかで笑いを誘う楽曲である。リスナーに対して、セクシャルなテーマを正面から扱うのではなく、あくまで”からかい”というスタンスを取ることで、Wet Legらしい絶妙な距離感が生まれている。
注目すべきは、歌詞に登場する「I was in your wet dream」というラインだろう。通常、こうした性的な夢は語られる側に羞恥心や戸惑いをもたらすものだが、ここでは主人公がその夢の中で自由に振る舞い、相手をからかいながら上から目線で描写する。この反転が非常に痛快である。
さらに、「Saw you at the side of the road, there’s no one else around」という描写には、孤独感や切なさもにじんでおり、単なるコメディではない微妙な感情の綾が感じ取れる。Wet Legの楽曲はしばしば、こうした”軽さの中にある陰影”が魅力となっているのだ。
また、メロディとアレンジもこのテーマと絶妙に噛み合っている。軽快なテンポと跳ねるようなギターリフが、歌詞の中に潜むアイロニーをより一層引き立てているように思える。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Peach” by Broods
切なさとユーモアを織り交ぜた、軽やかなエレクトロポップ。 - “You’re So Great” by Blur
日常の些細な瞬間を軽妙に切り取った、シンプルながら心に残るナンバー。 - “Boys” by Charli XCX
性にまつわるテーマをポップかつウィットに富んだ表現で描く楽曲。 -
“Shark Attack” by Grouplove
荒々しいエネルギーと遊び心が共存する、カラフルなインディーポップ。 -
“Space Girl” by Frances Forever
恋愛感情をどこか他人事のように眺めるユーモラスな視点が、Wet Legに通じる一曲。
6. Wet Leg流・「笑い」で断ち切る過去の呪縛
「Wet Dream」は、失恋や過去の恋愛を深刻に引きずるのではなく、むしろユーモアを武器にして笑い飛ばしてしまうという、Wet Legならではのスタンスを体現した楽曲である。単に「忘れよう」とするのではなく、茶化すことでむしろ自分自身を解放していく──このアプローチは、特にZ世代を中心に大きな共感を呼んだ。
また、この曲はライブパフォーマンスにおいても非常に人気が高く、観客が一体となってサビを歌う光景がたびたび報告されている。それは、Wet Legが作り出す”シリアスになりすぎない連帯感”の表れとも言えるだろう。
音楽において、怒りや悲しみを真正面からぶつけるのではなく、冗談めかして受け流す。そんなWet Legの方法論は、これからの時代においてますます重要な意味を持つのかもしれない。彼女たちはただ可愛らしいだけでも、ただふざけているだけでもない。軽やかに、しかし確かに、時代の空気を切り取ってみせているのである。
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