発売日: 2007年3月20日
ジャンル: インディーロック、オルタナティブロック
Modest Mouseの5作目「We Were Dead Before the Ship Even Sank」は、商業的な成功を収めた前作「Good News for People Who Love Bad News」の流れを受け、さらに洗練されたサウンドとスケールの大きな楽曲が詰まったアルバムである。このアルバムからは、元The Smithsのギタリストであるジョニー・マーが正式に参加しており、そのギターワークがModest Mouseのサウンドに新たな深みとメロディアスな要素を加えている。アイザック・ブロックの特徴的なボーカル、皮肉の効いた歌詞、そして荒々しいエネルギーが相まって、リスナーに圧倒的な音楽体験を提供する。
アルバムはタイトルが示す通り、人生の無常や自己破壊的なテーマを中心に展開され、皮肉と不安、そして奇妙なユーモアが溢れている。サウンドは、メランコリックなメロディとポストパンク的なビートが融合し、ブラスやシンセ、複雑なリズムがアクセントとなっている。商業的な成功を追求しながらも、Modest Mouseの持つ独自の芸術性が強く感じられる一枚だ。
各曲解説
1. March into the Sea
アルバムの幕開けを飾る「March into the Sea」は、パンク的な勢いと不穏なムードが漂うトラック。ブロックの攻撃的なボーカルが印象的で、曲の中での急な展開がスリリングな一曲。
2. Dashboard
「Dashboard」は、アルバムの中でも特にキャッチーでポップな楽曲で、リードシングルとしても大成功を収めた。マーのギターがリズムを支え、軽快なメロディが絶望的な歌詞と対比的に響く。日常の不条理と楽観的な気持ちを歌い上げた、耳に残る一曲だ。
3. Fire It Up
「Fire It Up」は、ミッドテンポでどこか不安げなムードが漂う。ブロックの低く抑えたボーカルと繊細なギターリフが重なり、静かな焦燥感を生み出している。
4. Florida
フロリダ州への皮肉を込めた「Florida」は、パンクの影響を感じさせる軽快なビートとエネルギッシュなボーカルが魅力。冒険心と皮肉が交差し、バンドの反抗的なエネルギーが溢れ出す。
5. Parting of the Sensory
「Parting of the Sensory」は、アルバム中でも特に印象的なトラックで、徐々に盛り上がりを見せるダイナミックな構成が特徴。生と死、そして無常について深く掘り下げた歌詞が、曲のスリリングな展開と共に高まっていく。
6. Missed the Boat
「Missed the Boat」は、メロディアスで心地よいギターが印象的な一曲。ブロックの歌詞には、人生のチャンスを逃したことへの後悔が込められており、切なさと温かみが共存する。
7. We’ve Got Everything
「We’ve Got Everything」は、リズミカルなビートとポップなメロディが際立つ軽快なトラック。どこか皮肉めいた歌詞が印象的で、エネルギッシュでノリやすい楽曲だ。
8. Fly Trapped in a Jar
「Fly Trapped in a Jar」は、不穏でサイケデリックな雰囲気が漂う一曲。反復されるリフが緊張感を生み、どこか閉塞感のある歌詞が、逃れられない状況に対する葛藤を表現している。
9. Education
ポストパンク的なリズムが印象的な「Education」は、学びや成長をテーマにした楽曲。ブロックのエッジの効いたボーカルとダークなメロディが、曲全体に緊張感をもたらす。
10. Little Motel
「Little Motel」は、メランコリックで静かなトラックで、切ないギターメロディとブロックの低く優しいボーカルが美しく調和している。愛と別れの複雑な感情が詩的に表現され、アルバム中でも特に感動的な一曲だ。
11. Steam Engenius
荒々しいリフとエネルギッシュなボーカルが特徴の「Steam Engenius」は、バンドの持つパワフルな一面が表現されている。リズムの変化が激しく、緊張感が続くユニークな楽曲。
12. Spitting Venom
「Spitting Venom」は、9分に及ぶ大作で、変化に富んだ展開が楽しめる。激しさと静けさが交互に訪れるダイナミックな構成で、複雑な人間関係や苦悩が描かれている。バンドの持つ音楽的な幅広さが堪能できる一曲だ。
13. People as Places as People
「People as Places as People」は、哀愁漂うメロディとシンプルなリズムが際立つ楽曲。失われた関係や人間の変わりゆく姿について歌われており、ブロックの感情豊かなボーカルが心に残る。
14. Invisible
アルバムを締めくくる「Invisible」は、ダークでエネルギッシュなトラックで、アルバム全体のテーマである自己破壊や不安が反映されている。激しいギターとドラムが交錯し、圧倒的なフィナーレを迎える。
アルバム総評
「We Were Dead Before the Ship Even Sank」は、Modest Mouseがポップとインディーロックの両方で新たな頂点に到達したアルバムである。ジョニー・マーのギターが加わり、バンドのサウンドにメロディアスで洗練された要素が加わった。死生観、人生の無常、自己破壊といったテーマを中心に展開される歌詞は、アイザック・ブロックのユニークな視点と皮肉が光り、聴く者に強い印象を残す。豊富なアレンジや複雑な構成がアルバムに深みを与え、商業的な成功と音楽的な評価を同時に獲得した名作だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Yankee Hotel Foxtrot by Wilco
皮肉と不安が入り混じる歌詞や、洗練されたサウンドが共通しており、Modest Mouseのファンにも共鳴する作品。
Turn on the Bright Lights by Interpol
ポストパンクの冷ややかなサウンドと緊張感が共通し、ジョニー・マーが加わったことで感じられるダークな雰囲気が響き合う。
Elephant by The White Stripes
パワフルなギターリフとインパクトあるサウンドが特徴で、荒々しさと洗練を併せ持つ点が「We Were Dead Before the Ship Even Sank」と似ている。
The Crane Wife by The Decemberists
物語性のある歌詞と複雑なアレンジが特徴で、人生や自己破壊をテーマにしたModest Mouseの音楽性と共通点が多い。
A Weekend in the City by Bloc Party
人間の内面や社会問題を鋭く描写する歌詞と、ポストパンク的なビートが印象的で、Modest Mouseファンにもおすすめの一枚。
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