発売日: 1998年5月11日
ジャンル: オルタナティブ・ロック、エレクトロニック・ロック、ポスト・グランジ
デジタル時代のオルタナティブ・ロック——Garbageが到達した進化形
1995年のセルフタイトル・アルバム『Garbage』で鮮烈なデビューを果たしたGarbageは、その成功を受け、さらに洗練されたサウンドを求めて『Version 2.0』を制作した。タイトルが示すように、本作はまさに彼らの音楽スタイルの「バージョンアップ」であり、オルタナティブ・ロックとエレクトロニック・ミュージックの融合を、より大胆かつ洗練された形で完成させた作品である。
本作では、前作で確立したグランジ的なギターとエレクトロニック・ビートの融合をさらに発展させ、サンプリングやループ、エフェクトを多用した、より未来的で冷ややかなサウンドを展開している。同時に、シャーリー・マンソンのボーカルはよりダイナミックになり、歌詞の面でも人間関係、メディア、テクノロジー、不安、欲望といったテーマを掘り下げている。
また、本作は商業的にも成功を収め、全英1位、全米13位を記録し、グラミー賞にもノミネートされた。シングル「Push It」や「I Think I’m Paranoid」は大ヒットし、Garbageの名をさらに広めることとなった。
全曲レビュー
1. Temptation Waits
アルバムの幕開けを飾るトラック。デジタルビートとヘヴィなギターが融合し、シャーリー・マンソンの妖艶なボーカルがリスナーを引き込む。 テクノロジーと人間の欲望が交錯するようなテーマを持ち、アルバム全体の方向性を示している。
2. I Think I’m Paranoid
本作の代表曲のひとつで、グランジ的なリフとエレクトロニック・ビートが絶妙に絡み合う、Garbageらしいナンバー。 「好きなように操っていいわ（Bend me, break me, anyway you need me）」という歌詞が、支配と依存の関係を象徴する。
3. When I Grow Up
キャッチーでポップなメロディが際立つ楽曲。エレクトロ・ロックのビートに乗せた、少女的な無邪気さと大人の世界への皮肉が交錯する歌詞が魅力的。 映画『ビッグ・ダディ』（1999年）のサウンドトラックにも使用された。
4. Medication
ダークでミッドテンポの楽曲。ノイズの入ったギターと冷たいシンセが、精神的な依存や薬物を暗示する歌詞と相まって、不安定な世界観を作り出している。
5. Special
「クリッシー・ハインドに捧げる」と言われる楽曲で、The Pretendersの「Talk of the Town」を引用したフレーズが特徴的。 別れと後悔をテーマにした切ない歌詞が印象的で、メロディアスなコーラスが心に残る。
6. Hammering in My Head
本作の中でも特にエレクトロニックな要素が強い楽曲。ダンスミュージック的なリズムと攻撃的なビートが融合し、まるでクラブ・トラックのような雰囲気を持つ。
7. Push It
『Version 2.0』を代表する楽曲で、ハードなギターとインダストリアル風のビート、ポップなメロディが融合したハイブリッド・ロックの完成形。 「Don’t worry baby」というBeach Boysのフレーズをサンプリングし、意外性のある仕掛けを加えている。
8. The Trick Is to Keep Breathing
シンセポップ的なアプローチを取り入れた楽曲で、不安や抑圧、精神的な耐え方をテーマにした内省的な歌詞が特徴的。 ダークでありながらも、どこか救いを感じさせる一曲。
9. Dumb
ミッドテンポの楽曲で、ギターのカッティングと浮遊感のあるシンセが独特のグルーヴを生み出している。 「私をバカにしてもいいけど、それであなたは幸せになれるの？」という皮肉の効いた歌詞が印象的。
10. Sleep Together
ダークなエレクトロニック・ビートとヘヴィなギターが特徴の楽曲。歌詞は、テクノロジー時代の関係性や、表面的なつながりへの皮肉を込めたものになっている。
11. Wicked Ways
エレクトロニカとロックのバランスが絶妙な一曲。ビートの強調されたリズムが、ダンス・ミュージック的な要素を加えている。
12. You Look So Fine
アルバムのラストを飾る美しいバラード。メロディが際立ち、アルバム全体の激しさを包み込むような静かなエンディングを迎える。
総評
『Version 2.0』は、Garbageが単なるオルタナティブ・ロックバンドではなく、エレクトロニック・ロックの先駆者であることを証明したアルバムである。グランジ、インダストリアル、シンセポップ、トリップホップなど、多様な音楽要素を融合させながらも、ポップな感覚を決して失わないというGarbageの美学が貫かれている。
また、デジタル技術を駆使したプロダクションが際立ち、90年代後半の「ポスト・グランジ時代」のオルタナティブ・ロックの中でも、特に実験的かつ洗練された作品となっている。このアルバムをきっかけに、Garbageは世界的なバンドとしての地位を確立し、次の世代のエレクトロ・ロックアーティストたちに多大な影響を与えた。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Nine Inch Nails – The Fragile（1999年）
インダストリアル・ロックの名盤。『Version 2.0』のダークな側面に共鳴する。 - The Cardigans – Gran Turismo（1998年）
エレクトロニック・ロックとオルタナティブ・ポップの融合。Garbageのメロディックな要素が好きな人に。 - No Doubt – Return of Saturn（2000年）
女性ボーカルのオルタナティブ・ロック作品。 - Bjork – Homogenic（1997年）
エレクトロニカとオルタナティブを融合させた実験的な作品。 - Metric – Fantasies（2009年）
Garbageの後継者的なエレクトロ・ロックの名盤。
『Version 2.0』は、90年代後半の音楽シーンにおける傑作であり、Garbageの最高到達点のひとつである。
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