1. 歌詞の概要
「Until I Fall Away（僕が壊れてしまうその時まで）」は、Gin Blossoms（ジン・ブロッサムズ）が1992年にリリースしたメジャーデビュー・アルバム『New Miserable Experience』に収録された楽曲であり、シングルカットされたこの曲はBillboardチャートでも着実なヒットを記録し、バンドの名を広く知らしめた。
この曲の核心にあるのは、「関係の綻びを感じながらも、別れを恐れて黙っている」――そんな不安と執着、そして自己犠牲的な愛情の複雑な感情だ。
「Fall Away（壊れてしまう、崩れていく）」というフレーズは、心の限界や関係の終わりの予感を表しており、その“壊れてしまう前のわずかな猶予”の中で語り手がどれだけ踏みとどまれるか、葛藤しているさまが描かれている。
それは甘く、そしてほろ苦い――90年代特有の“感情の抑制とほとばしり”が同居したラブソングである。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Until I Fall Away」は、バンドのフロントマンRobin WilsonとギタリストJesse Valenzuelaによって書かれた楽曲であり、バンドにとっての転機となったアルバム『New Miserable Experience』の完成度を裏付ける1曲である。
このアルバムの制作には、ギタリストでありソングライターだったDoug Hopkinsの不安定な精神状態や、メンバー間の摩擦が影を落としていたが、そうした“崩壊寸前の緊張感”が、この曲にも微かに漂っている。
歌詞は恋愛の文脈で語られているが、それは“誰かを手放せない”というよりも、“手放せない自分を許せない”という、内的な矛盾に焦点を当てている。
つまり「Until I Fall Away」は、関係の終焉という外的現象よりも、それにどう向き合うかという“個人の感情の行き場”を描いた作品なのだ。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Until I Fall Away」の印象的な歌詞を抜粋し、日本語訳を併記する。
“I want to tell if I am or am not myself / It’s hard to know how far or if at all”
「自分が本当の自分かどうかさえ、言えなくなってる
どこまで行けるのか、そもそも進めるのかすら分からない」
“Could go but just don’t know / How to leave and when to go”
「離れたいけど、その方法も、タイミングも分からない」
“And I’ll know, I’ll know the time / When I find the one I’ll climb that hill”
「きっと分かるはずなんだ / “その人”を見つけたら、あの丘を登るって」
“But until I fall away / I don’t know what to do”
「でも、僕が壊れてしまうその時まで
どうすればいいのか分からないんだ」
“And it’s all the same to you”
「君にとっては、どっちでもいいことなんだろうけど」
歌詞全文はこちらで確認可能：
Gin Blossoms – Until I Fall Away Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Until I Fall Away」は、壊れかけた関係性において、自分だけが“まだ終わっていない”という感覚を抱えているときの切なさを、非常に繊細に描いている。
「離れたいけど、その方法もタイミングも分からない」「僕が壊れてしまうまで、どうしたらいいか分からない」――この語り手の不安定さは、同時に多くのリスナーの実感と共鳴する。
この曲は、“ドラマチックな別れ”を描いているわけではない。むしろ、「壊れていく関係」を日々静かに眺めながら、それでも何も言い出せない――そんな感情の“無音の叫び”を扱っている。
とくに「And it’s all the same to you（君にとっては、どうでもいいことなんだろう）」というフレーズには、片方だけが感じている“重さ”と、それに応えてくれない“軽さ”の対比があり、そこに深い孤独と諦念が滲んでいる。
Gin Blossomsは、こうした“感情の中間地点”を歌わせたら右に出る者がいない。
怒るでも泣くでもなく、ただ「まだここにいる」――その中途半端でどうしようもない立ち位置を、穏やかで耳馴染みの良いメロディに乗せることで、より切実な心の声として響かせているのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Found Out About You by Gin Blossoms
崩れていく信頼と後悔の感情を、冷静な語り口で描いた代表作。 - 3AM by Matchbox Twenty
夜の静寂と不在の重さを描き出す、感情の空白に満ちた名曲。 - Colorblind by Counting Crows
感情の境界線が曖昧になっていく瞬間を、繊細に映し出す静かな名曲。 - Name by Goo Goo Dolls
自己と他者の境界線が揺れるなかで、自分を保とうとする不安定なラブソング。 - Disarm by The Smashing Pumpkins
内なる矛盾と自己破壊衝動を、バラードの枠で大胆に描いた作品。
6. “壊れるまでは、立ち去れない”
「Until I Fall Away」は、愛と自己の境界が曖昧になったときの“居場所のなさ”と“それでも踏み出せない迷い”を、痛々しいほどに正直に描いた楽曲である。
人間関係のなかで、自分がまだ何かを期待してしまうこと、自分の感情が相手には届いていないこと、それでも何も起こさずに“今ここにいる”こと――それは誰もが一度は経験する、静かな絶望なのかもしれない。
「Until I Fall Away」は、“傷つくまで、黙って愛し続けてしまう人”のための、やさしくも鋭い共感のバラードである。
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