発売日: 2014年5月12日
ジャンル: ポストロック、エクスペリメンタル・ロック、アヴァンギャルド
Swansの13作目となる『To Be Kind』は、2枚組にわたる2時間以上の壮大なアルバムであり、前作『The Seer』のスピリチュアルで圧倒的なサウンドスケープをさらに深化させた作品である。マイケル・ジラが率いるSwansは、このアルバムで反復と即興的な演奏を融合し、聴き手を感情と音の旅へと誘う。ノイズ、静寂、そして爆発的なエネルギーが複雑に絡み合い、音楽というよりも儀式に近い体験を生み出している。
『To Be Kind』の楽曲は、20分近い長大なものが多く、繰り返しのフレーズが徐々にテンションを高め、聴き手をカタルシスへと導く。その過程で、ジラのボーカルは叫び、囁き、祈るように響き、リズムとギターが聴き手の感覚を支配していく。ゲストアーティストには、ステファン・ウェスターバーグ（Liars）やLittle Annieなどが参加し、多層的なサウンドを生み出している。このアルバムは、破壊的でありながらもどこか救済的で、Swansのキャリアの中でも特に野心的で完成度の高い一作だ。
トラック解説
1. Screen Shot
アルバムの冒頭を飾るトラックで、反復されるギターリフとリズムが徐々に力強さを増していく。ジラのボーカルが呪文のように響き、「Just a little boy」というフレーズが繰り返され、焦燥感と狂気が高まる。緊張感の中に隠された爆発力が印象的。
2. Just a Little Boy (for Chester Burnett)
ヘヴィでスローなベースラインが特徴の曲で、ブルースの影響が色濃く感じられる。ジラのボーカルが荒々しく感情的で、無邪気さと暴力性が入り混じったリリックが印象的。曲全体が重厚でありながらも、徐々にエネルギーを高める構造が秀逸。
3. A Little God in My Hands
ファンキーでキャッチーなベースラインが展開される一曲。サイケデリックなギターと歪んだボーカルが絡み合い、狂気じみたエネルギーが炸裂する。反復されるフレーズがリズムの高揚感を生み出し、ダンスビートのような中毒性を持つ。
4. Bring the Sun / Toussaint L’Ouverture
約34分にわたる大作で、アルバムのハイライトのひとつ。前半は「Bring the Sun」というフレーズが反復される中で、音が徐々に膨張し、クライマックスに達する。後半の「Toussaint L’Ouverture」は、フランス革命期の指導者をテーマにした壮大なセクションで、混沌としたノイズと儀式的なリズムが印象的。
5. Some Things We Do
静寂とともに進む短いトラックで、アルバム全体の中で休息のような役割を果たす。静謐な雰囲気の中に緊張感が漂い、聴き手を次の展開へと導く。
6. She Loves Us!
20分近い長さを誇る曲で、繰り返されるリズムと叫び声のようなボーカルがカオスを生み出す。宗教的なテーマが込められたリリックが特徴的で、狂気と神秘が交錯する。
7. Kirsten Supine
静かで美しい序章から始まり、徐々に感情の高まりを見せる一曲。リズムが変化しながらも一定のテンポを保ち、緊張感を高めていく。ジラのボーカルが内省的で、アルバムの中でも特に叙情的な楽曲だ。
8. Oxygen
スピード感のあるビートと激しいギターリフが特徴のトラック。アルバムの中では比較的短く、ストレートなエネルギーに満ちている。ジラの叫びがエネルギーをさらに高め、反復的な構成が中毒性を生む。
9. Nathalie Neal
静寂と轟音が交互に展開される楽曲で、スローなリズムが感情を引き立てる。ジラの低いボーカルが重厚なサウンドと一体となり、儀式的な雰囲気が漂う。緊張感が持続し、終盤に向かうにつれカタルシスを迎える。
10. To Be Kind
アルバムを締めくくるタイトル曲で、荘厳でスピリチュアルなムードが漂う。静かに始まり、徐々に音が重層化していく中で、ジラのボーカルが高揚し、アルバム全体のテーマを凝縮したかのようなクライマックスを迎える。
アルバム総評
『To Be Kind』は、Swansが持つ音楽的ビジョンを最大限に拡張した壮大な作品である。反復と爆発、静寂と轟音が絶妙に組み合わされ、2時間以上の長大な構成がリスナーを圧倒する。ジラのボーカルとバンド全体の演奏が、音楽という枠を超えた儀式的な体験を生み出しており、聴くたびに新たな発見がある。アルバム全体を通じて、破壊と再生、狂気と救済といったテーマが浮かび上がり、Swansのキャリアの中でも特に野心的で挑戦的な一作だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
The Seer by Swans
『To Be Kind』の前作で、Swansが到達した音楽的頂点のひとつ。反復と爆発的なエネルギー、スピリチュアルなテーマが共通している。
Lift Your Skinny Fists Like Antennas to Heaven by Godspeed You! Black Emperor
ポストロックの傑作で、壮大な構成とスピリチュアルなエネルギーが『To Be Kind』と共鳴する。ドラマティックな展開が魅力。
You Won’t Get What You Want by Daughters
暗く攻撃的なエネルギーと実験的なサウンドが印象的なアルバムで、Swansの激しさに惹かれるリスナーにおすすめ。
Black One by Sunn O)))
重厚で儀式的なサウンドが『To Be Kind』のスピリチュアルな要素に共鳴。暗く神秘的な雰囲気が魅力。
Monoliths & Dimensions by Sunn O)))
ドローンと重低音が特徴の作品で、壮大で瞑想的なサウンドスケープがSwansの音楽性に近い。音楽を超えた体験を求めるリスナーにおすすめ。
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