アルバムレビュー:Through the Barricades by Spandau Ballet

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※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日: 1986年11月17日
ジャンル: ソフトロック、ブルー・アイド・ソウル、ポップ・ロック、アダルト・オリエンテッド・ロック(AOR)

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概要

『Through the Barricades』は、Spandau Balletが1986年にリリースした5作目のスタジオ・アルバムであり、彼らのキャリアにおける“成熟と陰影”を最も色濃く映し出した作品である。
1983年の『True』で世界的ポップ・スターの地位を確立したのち、より内省的でメッセージ性の強い方向へとシフトしたSpandau Balletが、本作では社会的リアリズムと個人の感情を交差させたドラマティックな音楽表現に挑んでいる。

アルバムのタイトル曲「Through the Barricades」は、北アイルランド紛争にインスピレーションを得た叙情的なラブソングであり、政治的暴力の中に生きる若者たちの“愛”と“抵抗”をテーマにした名曲として広く認知されている。
この曲を象徴として、アルバム全体はよりロック寄りのアプローチを取り入れ、ニュー・ロマンティック的な装飾から脱皮し、“語るべき物語”を持つバンドとしての変貌が顕著に見られる。

プロデュースはバンドとGary Langan(Art of Noiseのメンバーでもある)との共同作業によって行われ、分厚いギター、洗練されたホーン、そして硬質なビートが重なり合うシリアスな音像が印象的。
この作品は、煌びやかだった初期スパンダー・バレエとは異なる、“現実に向き合うポップ・ロマンティシズム”の結晶といえるだろう。

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全曲レビュー

1. Barricades – Introduction

アルバムの幕開けを飾るインストゥルメンタル。
抑制されたシンセとリバーブの効いたギターが、物語の“予感”を静かに奏でる。
まるで舞台の幕が開くような、儀式的なプロローグ。

2. Cross the Line

スピーディでエッジの効いたギター・リフとともに、スパンダー・バレエらしからぬロック色の強いナンバー。
「越えてはならない線」をあえて踏み越える者たちの物語。
バンドの“変化”を即座に提示する大胆な楽曲。

3. Man in Chains

タイトル通り、“鎖につながれた男”=社会に束縛された個人を描く、ブルージーかつ哀感漂うナンバー。
メロディは暗く、しかし誇りを捨てないトーンが貫かれており、男性性と弱さの再定義が感じられる。

4. How Many Lies?

80年代後半の社会的虚構や政治的不信を、“いくつの嘘が君を守るのか”というシンプルかつ鋭い問いで突きつける。
バラード調ながら、ギターとシンセが波のように盛り上がり、メッセージの切実さを補完する。
Tony Hadleyのボーカルが情念を滲ませる圧巻の一曲。

5. Virgin

性的純潔のメタファーを、より広義の“無垢さ”や“再出発”として捉えたナンバー。
緊張感のあるリズムと熱量のあるサビが印象的で、失われた純粋さを求める祈りのようでもある。
感情の荒波をそのまま音に変換したような構成。

6. Fight for Ourselves

リード・シングル。
自己肯定と主張の時代を描いた、スパンダー・バレエにしては珍しい直球ロック・アンセム。
ギターとホーンの躍動感が際立ち、“自分たち自身のために戦う”という宣言が80年代中盤の社会状況と重なる

7. Swept

しなやかでロマンティックな楽曲で、かつてのソフィスティ・ポップ的感性を残す数少ない曲のひとつ。
「流されていく」という受動的な感覚の中にも、時間の残酷さと愛の記憶が描かれている。
控えめな美しさがじわじわと染み入る。

8. Snakes and Lovers

対立、裏切り、感情のゲーム――まるで人間関係をボードゲームのように冷徹に見つめた一曲。
メロディアスだが、皮肉と諦念がにじむ歌詞。
クールな装いの中に、壊れた信頼への痛みが滲む。

9. Through the Barricades

アルバムのハイライトにしてバンド史上最も感動的な楽曲のひとつ。
ベルファスト出身のファンが殺害された事件をきっかけに書かれた、政治的暴力の中で愛し合う若者たちを描いたロミオとジュリエット的バラード
静謐なアコースティック・ギターと徐々に高揚するボーカルが、個人の感情と歴史の衝突を鮮やかに描き出す。
Spandau Balletの真の芸術性がここにある。

総評

『Through the Barricades』は、Spandau Balletというバンドが“美とスタイル”から“意味と経験”へと進化した記録である。
甘美なロマンスを武器にしてきた彼らが、ここでは現実の暴力、社会の矛盾、個人の葛藤といった“傷を負った愛”に真正面から向き合い、そのすべてを音楽に昇華している。

ロマンティックという言葉の定義すら変えてしまうようなアルバム。
それはもはや装飾ではなく、傷ついたまま美しくあろうとする意志そのものなのだ。
『True』が夢のような甘さを届けたなら、『Through the Barricades』は夢から覚めたあとの痛みをどう抱くかを問うアルバムである。

おすすめアルバム(5枚)

  • Tears for Fears / The Seeds of Love
     政治と個人、愛と崩壊を交錯させた、80年代終盤の知的ポップの到達点。

  • U2 / The Unforgettable Fire
     空間的な音作りと社会的メッセージが重なる、美と戦いの記録。

  • Simple Minds / Once Upon a Time
     スケールの大きなアリーナ・ポップに感情の深みを融合させた意欲作。

  • Peter Gabriel / So
     政治性と芸術性を兼ね備えた、大人のポップの金字塔。

  • Bruce Springsteen / Tunnel of Love
     個人の内面と恋愛の現実を見つめた、成熟したシンガーソングライターの視線。

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