発売日: 2010年5月17日
ジャンル: ダンス・パンク, エレクトロニカ, オルタナティブ・ダンス
LCD Soundsystemの3作目『This Is Happening』は、ジェームス・マーフィーによる成熟したダンス・ロックの集大成とも言える作品である。このアルバムでは、彼のトレードマークであるユーモアと皮肉を含んだ歌詞に加え、より個人的で深い感情が表現されている。シンセサウンドとダンスビートが強調された楽曲は、反復的でありながらもどこかメランコリックな要素が漂い、リスナーに強い余韻を残す。バンドとしての最終章を飾ると宣言されたこのアルバムは、ダンスミュージックとロックの融合をさらに洗練させた傑作である。
各曲ごとの解説:
- Dance Yrself Clean
アルバムの幕開けを飾る9分に及ぶトラック。最初はミニマルなビートと静かなヴォーカルで始まるが、約3分後に爆発的なシンセとドラムが加わり、一気に盛り上がる展開が特徴的。歌詞は裏切りや欺瞞をテーマにしており、クライマックスに向かうサウンドと共に感情が高まっていく。 - Drunk Girls
パンク的なエネルギーに満ちたアップテンポのナンバーで、タイトルが示す通り、無邪気で狂騒的な夜をテーマにしている。キャッチーなコーラスと反復するシンセリフが印象的で、アルバムの中でも最も直球のダンス・ロックトラックだ。 - One Touch
冷たいシンセサウンドが際立つエレクトロニックなトラックで、機械的でクールな雰囲気が漂う。歌詞は疎外感や情報社会に対する批判を含んでおり、リズミカルなビートが反復される中で、徐々にトランス的な効果を生む。 - All I Want
ギターリフとエモーショナルなヴォーカルが際立つトラックで、感情の爆発がテーマとなっている。曲全体にわたるギターのリフレインが、感情的な高揚感を生み出し、切ないメロディが胸に響く。デヴィッド・ボウイの影響を感じさせる一曲だ。 - I Can Change
恋愛の葛藤や自己変革をテーマにしたメランコリックなエレクトロポップ。80年代のシンセポップに影響を受けたサウンドが特徴で、リズムはシンプルながらも、切ない歌詞とクーニグのヴォーカルが感情的な深みを与えている。繊細でエモーショナルな一曲。 - You Wanted a Hit
タイトル通り、ヒット曲の期待に対する反抗的なメッセージが込められた曲。9分を超える長尺ながら、リズミカルなビートと冷静なヴォーカルが聴き手を引き込む。ゆっくりとビルドアップしていく展開が、LCD Soundsystemらしい実験的なアプローチを示している。 - Pow Pow
ジェームス・マーフィーの語り口調が特徴のトラックで、鋭い皮肉や社会批判を含む歌詞が展開される。反復的なビートがトランス的な効果を生み、クラブでも強烈な印象を残すこと間違いなしの楽曲だ。 - Somebody’s Calling Me
ややスローテンポで、アンビエントなサウンドスケープが広がるこの曲は、独特の緊張感が漂っている。単調なリズムが不安感を助長し、ヴォーカルも抑え気味で、内省的なムードを醸し出している。 - Home
アルバムの締めくくりを飾るこの曲は、明るいメロディとエネルギッシュなリズムが特徴的。終わりと新たな始まりをテーマにしており、歌詞は希望とノスタルジアが交錯する。アルバム全体を通してのテーマを締めくくる、心温まるフィナーレだ。
アルバム総評:
『This Is Happening』は、LCD Soundsystemが長年培ってきたダンス・ロックの要素を集大成した作品である。反復的なビートとシンセサウンドが特徴でありながら、個人的な感情や社会的なメッセージがより強く反映されている。特に「Dance Yrself Clean」や「I Can Change」といったトラックでは、ジェームス・マーフィーの繊細な感情表現が際立っており、エネルギッシュなダンス・トラックと内省的なバラードのバランスが絶妙だ。バンドとしての最後の作品とされていたが、その後の再結成を見据えた上でも、このアルバムはバンドの最高到達点の一つである。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚:
- Random Access Memories by Daft Punk
ダフト・パンクのディスコとエレクトロの融合が際立つアルバム。『This Is Happening』の洗練されたダンスビートが好きなら、こちらのアルバムもおすすめ。 - In Ghost Colours by Cut Copy
エレクトロポップとダンスミュージックの要素を融合させたアルバム。LCD Soundsystemのエレクトロニックな側面を好むリスナーに最適。 - Hot Fuss by The Killers
ポストパンクとシンセポップを融合させたデビューアルバム。『This Is Happening』のエネルギッシュなトラックが好きな人に合うだろう。 - Veckatimest by Grizzly Bear
繊細なアレンジと深いリリックが魅力のアルバム。LCD Soundsystemの内省的な一面に共感するリスナーには、この作品がおすすめ。 - Oracular Spectacular by MGMT
サイケデリックなエレクトロポップを展開するアルバムで、LCD Soundsystemのキャッチーなメロディを好むリスナーにぴったりだ。
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