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1. 歌詞の概要
「The Steps」は、アメリカの3姉妹バンドHAIMが2020年にリリースした3rdアルバム『Women in Music Pt. III』に収録された楽曲である。この曲は、恋愛や人間関係におけるフラストレーションをテーマにしたロックナンバーであり、エネルギッシュなギターリフとリズミカルなビートが印象的だ。
歌詞では、相手が自分のことを「理解している」と思い込んでいるけれど、実際には全くわかっていないという状況が描かれている。恋人に対して「私のことをこうすればうまくいくと思ってるかもしれないけど、そんな簡単な話じゃない」と言い放つような内容で、自己主張の強い、開放感のある失恋ソングとなっている。
サウンド的には、Fleetwood MacやTom Pettyといった70年代のアメリカンロックを彷彿とさせる、シンプルながらも力強い楽曲に仕上がっており、HAIMの楽曲の中でも特にロック色が強い一曲となっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
HAIMの3rdアルバム『Women in Music Pt. III』は、バンドにとって最もパーソナルでエモーショナルなアルバムとなった。アルバム全体を通して、精神的な落ち込み、女性としての生きづらさ、そして人間関係のストレスなどがテーマになっている。「The Steps」も、その流れの中で生まれた楽曲の一つだ。
この曲の制作について、**ダニエル・ハイム(Danielle Haim)**は次のように語っている。
「これは、恋愛だけじゃなくて、もっと広い意味での『人に理解してもらえないこと』についての曲なの。音楽業界にいると、私たちがどうあるべきか、どう成功すべきかを他人が決めたがる。でも、私たちは自分たちのやり方でやりたいのよ。」
つまり、この曲は単なるラブソングではなく、**「他人に自分を勝手に決めつけられることへの反抗」**を表現した楽曲でもある。
楽曲のプロデュースには、HAIMの楽曲を多く手がける**アリエル・レヒトシェイド(Ariel Rechtshaid)と、ヴァンパイア・ウィークエンドの元メンバーであるロスタム・バトマングリ(Rostam Batmanglij)**が参加。アコースティックギターとエレクトリックギターを組み合わせたアレンジが特徴的で、カントリーとロックの要素が絶妙に融合したサウンドになっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「The Steps」の印象的な歌詞の一部を紹介する。
原文:
Every day I wake up and I make money for myself
And though we share a bed, you know that I don’t need your help
和訳:
毎朝目を覚まして、自分のために稼ぐ
一緒のベッドで寝てるけど、あなたの助けは必要ないのよ
この部分では、経済的にも精神的にも独立している女性の姿が描かれている。「あなたがいなくても私は大丈夫」というメッセージが込められており、従来の恋愛ソングとは異なる視点を持つ楽曲であることが分かる。
原文:
I can’t understand why you don’t understand me
Baby, why can’t you just hold me?
和訳:
私が何を言っても、どうしてあなたは分かってくれないの?
ねえ、ただ抱きしめてくれたらいいのに
ここでは、相手が自分の気持ちを理解しようとしないことへの苛立ちが表現されている。「私はこうしてほしいだけなのに、どうしてそんな単純なことも分からないの?」というフラストレーションが、ダイレクトな歌詞で伝えられている。
原文:
You think that you know me, but you don’t
You think that I need you, but I don’t
和訳:
あなたは私のことを分かってるつもりかもしれないけど、実は何も分かってない
私があなたを必要としてると思ってるかもしれないけど、実はそうじゃない
このフレーズは、「The Steps」の核心部分とも言える箇所であり、**「自分のことを決めつけられることへの拒絶」**がストレートに表現されている。相手が勝手に「こうすればうまくいく」と考えていることに対して、「そんな単純な話じゃない」と反論するような力強いメッセージが込められている。
4. 歌詞の考察
「The Steps」は、表面的には恋愛のフラストレーションを描いた楽曲のように思えるが、その根底には女性の自立や、社会における固定観念への反抗といったテーマが隠されている。
HAIMのメンバーは、これまでも「女性アーティストとしての偏見」に対して声を上げてきた。音楽業界では、女性ミュージシャンが「プロデュースされる側」と見なされることが多く、自分たちで音楽を作っているにも関わらず「男性プロデューサーの影響だ」と言われることがある。そういった**「勝手に決めつけられること」への反発**が、この楽曲にも反映されている。
また、楽曲のアレンジも歌詞の内容と見事にリンクしている。イントロのアコースティックギターはカントリー風で穏やかながら、サビに入ると激しいドラムとエレキギターが加わり、一気に感情が爆発する。このダイナミックな展開が、歌詞の持つ「抑えきれないフラストレーション」をより強調している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
「The Steps」が好きな人には、以下の楽曲もおすすめしたい。
- “You Oughta Know” by Alanis Morissette
- 恋愛における怒りやフラストレーションを爆発させた90年代の名曲。「The Steps」と同じく、力強い女性の視点が描かれている。
- “Go Your Own Way” by Fleetwood Mac
- HAIMが影響を受けたバンドの代表曲。恋愛の葛藤をテーマにしながらも、疾走感のあるロックサウンドが特徴的。
- “My Song 5” by HAIM
- HAIMの楽曲の中でも、特にパワフルなビートと攻撃的な歌詞が印象的な曲。「The Steps」と共通する強さがある。
6. 「The Steps」のMVとその魅力
「The Steps」の**ミュージックビデオ(MV)**は、日常の中でフラストレーションを感じる女性の姿を描いたユーモラスな作品。洗濯や皿洗いといった「女性に期待される役割」を逆手に取りながら、それを破壊するような演出が施されている。
この楽曲は、HAIMのキャリアの中でも特に力強いメッセージを持った作品であり、聴くたびに元気をもらえる一曲だ。
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