発売日: 2023年9月29日
ジャンル: R&B、ディスコ、ソウル、ポップ、ダンス
概要
『The Fifth Chapter』は、ビヴァリー・ナイトが2023年に発表した10枚目のスタジオ・アルバムであり、デビューから四半世紀以上を経た彼女が新たな音楽的境地に踏み出す“第5章”の開幕を告げる作品である。
これまでのキャリアを通じて、ナイトはUK R&B／ソウル界における重鎮として数々の名盤を世に送り出してきたが、本作では彼女にとって珍しく全曲が外部ソングライターの手によるものとなっており、
それを“シンガーとしての自分”に完全にフォーカスしたアルバムと位置づけることができる。
彼女自身も「歌に集中し、表現者としての幅を試した」と語っており、ディスコ、モータウン、ネオ・ソウル、エレクトロ・ファンクなど、ジャンルを横断しながらも芯には確かな“Beverley Knightの声”がある。
全体を貫くのは、過去へのノスタルジーではなく、“経験を重ねた今だからこそ放てるエネルギー”であり、
アリーナ級の力強さとクラブ的な軽やかさを併せ持った、非常にポジティブで解放的な作品に仕上がっている。
全曲レビュー
1. Last One on My Mind
ディスコ×モータウン風のアレンジが光る華やかなオープニングナンバー。過去の痛みを脱ぎ捨てて踊り出すというテーマが、アルバム全体の扉を開く。
2. I’m on Fire
80年代風のエレクトロ・ファンクと現代的なR&Bが融合したエネルギッシュなトラック。自己肯定感の高さが全編に満ちる。
3. Keep This Fire Burning
Robynのカバー曲を新たな解釈で再構築。ナイトのソウルフルな歌唱が原曲以上に深みを与え、人生の“炎”を絶やさない決意が力強く響く。
4. Systematic Overload
都会的なダンス・トラック。恋愛や情報に過剰に支配される感覚を描きながらも、軽やかなビートと中毒性のあるメロディがクセになる。
5. A Little More Love
愛の持つ再生力を祝福するグルーヴィーなナンバー。ブラスとコーラスが交差し、ゴスペル的な祝祭感を醸す。
6. Not Prepared for You
繊細なピアノとストリングスが導くバラード。思いがけない愛との出会いに揺れる心情を、年齢と経験を経た女性の視点で描く。
7. Everything’s Gonna Be Alright
90年代調のアーバン・ポップ。困難を受け入れつつも、希望を選び取る強さがにじむ佳曲。
8. I Miss You
最も内省的なバラードのひとつ。喪失感を抱えながらも、未来を諦めないというナイトらしいメッセージが静かに輝く。
9. Someone Else’s Life
軽快なリズムに乗せて、自分自身で生きることの喜びを謳うアファメーション・ソング。人生の“他人任せ”からの脱却を描く。
10. Queen of Everything
アルバムを象徴するアンセム的トラック。自らの価値を疑わない“成熟した女性”の美しさと強さが詰まっている。
11. Everything’s Changed
過去を振り返りながら、変わっていくことを受け入れるバラード。しみじみとしたメロディの中に、彼女の長いキャリアが滲む。
12. The Fifth Chapter
エンディング・トラックにしてタイトル曲。語りかけるようなトーンで、自らの道のりをまとめ上げる自伝的楽曲。まさに“新章の幕開け”にふさわしい締めくくり。
総評
『The Fifth Chapter』は、ベリンダ・ナイトが“歌い手”としての誇りを最大限に発揮した、“声と人生が響き合う”作品である。
彼女がこのアルバムで描くのは、決して過去の栄光ではない。
むしろ、これまでの経験を背負った今だからこそ生まれる、軽やかで、しなやかで、そして力強い音楽だ。
ソングライティングを外部に委ねたことで、より俯瞰的に「Beverley Knight」という存在を描き出すことができており、まるで“他者が見た彼女”と“自分自身”が対話しているような、奥行きあるアルバムとなっている。
人生後半のスタートを高らかに宣言しながら、リスナーに「あなたも自由に、自分らしく歌える」という勇気を与える。
『The Fifth Chapter』は、単なる節目ではない。
これは“ベリンダ・ナイトという物語”が、まだまだ続いていくことを宣言する、新たな序章なのだ。
おすすめアルバム（5枚）
- Diana Ross『Take Me Higher』
成熟した女性像とダンサブルなポップソウルの融合が共通。 - Chaka Khan『Funk This』
R&Bの女王が新たなサウンドで復活した、エネルギーに満ちた作品。 - Robyn『Honey』
自己再生と軽やかなポップネスを併せ持つアルバム。ナイトの新章に重なる空気感。 - Gloria Gaynor『Testimony』
キャリア後半でのスピリチュアルな自叙伝的ソウル。『The Fifth Chapter』と同様に“語り”のアルバム。 -
Emeli Sandé『Let’s Say for Instance』
ジャンルを超えて自分らしさを追求したUK女性シンガーの最新作。テーマ性が共鳴。
後続作品とのつながり
『The Fifth Chapter』は、今後のベリンダ・ナイトにとって“転機”ではなく“始まり”を意味する。
70年代ソウル、80年代ポップ、90年代R&B──すべてを通過してきた彼女が、
次はどのような声で、どんな歌を、どんな場所で響かせてくれるのか。
それを楽しみに待てるだけの充実と自由が、このアルバムには詰まっている。
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