1. 歌詞の概要
「The Evil That Men Do」は、Iron Maidenが1988年に発表したアルバム『Seventh Son of a Seventh Son』に収録され、シングルとしてもリリースされた楽曲である。タイトルはシェイクスピア『ジュリアス・シーザー』の一節「The evil that men do lives after them（人の悪行はその後も生き続ける）」に由来し、人間の行為が持つ宿命的な影響力をテーマとしている。
歌詞は「愛と死」「裏切りと宿命」を軸に構成されており、特定の物語を描くというよりは、人間の行為が他者や未来にどのように影響を残すかを象徴的に歌っている。サビの「The evil that men do lives on and on（人間の悪行は永遠に生き続ける）」というフレーズは、人の行動が消えることなく、永劫に響き渡るという恐ろしさを強調している。
2. 歌詞のバックグラウンド
「The Evil That Men Do」は、スティーヴ・ハリス（ベース）を中心に、エイドリアン・スミス、ブルース・ディッキンソンらが共同で書いた楽曲である。アルバム『Seventh Son of a Seventh Son』はバンド初のコンセプトアルバムで、「第七の息子」の誕生、予言、善悪の葛藤をテーマに構成されている。「The Evil That Men Do」はアルバムの中心に位置し、「善と悪の狭間で揺れる人間の宿命」を象徴的に描き出している。
シングルは全英チャートで5位を記録し、Iron Maidenの代表的ヒット曲のひとつとなった。ライブでは定番曲として演奏され続け、ファンの大合唱によって大きな盛り上がりを生み出す。特にイントロの力強いリフとサビのキャッチーさは、Iron Maidenの叙事詩的スタイルとポップな感覚が融合した好例である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
（歌詞引用元：Iron Maiden – The Evil That Men Do Lyrics | Genius）
Living on a razor’s edge, balancing on a ledge
剃刀の刃の上を生き、崖っぷちで均衡を保ちながら
Living on a razor’s edge, you know, you know
剃刀の刃の上を生きている――お前は知っているはずだ
The evil that men do lives on and on
人間の悪行は永遠に生き続ける
このサビは、人間の生き方がいかに危うく、また行動が永遠に影響を残すかを示している。
4. 歌詞の考察
「The Evil That Men Do」の核は、「人間の行動は死後も消えることなく残り続ける」という普遍的真理である。善行は忘れられても、悪行は呪いのように残り、人々の記憶に焼き付く。シェイクスピアから引用されたこのモチーフは、Iron Maidenの歌詞に哲学的・文学的な深みを与えている。
また、歌詞に繰り返し登場する「剃刀の刃の上を生きる」というイメージは、人間の生が常に危うい均衡の上にあることを象徴している。愛や希望の中に悪や破滅が潜んでおり、それは避けることのできない宿命である。
アルバム全体のコンセプトに照らせば、「The Evil That Men Do」は「第七の息子」が善悪の狭間で葛藤する場面に重なると解釈できる。善を求めても、悪の影は必ず残る――この曲はその残酷な真理をシンプルに、かつ力強く表現している。
音楽的には、力強いリフと疾走感あふれるリズム、そしてブルース・ディッキンソンの伸びやかなボーカルが一体となり、歌詞の哲学性をドラマティックに伝えている。キャッチーでありながら深いテーマを持つ点が、この曲が長く愛される理由である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Can I Play with Madness by Iron Maiden
同じアルバム収録曲で、未来と狂気をテーマにした寓話的ナンバー。 - Infinite Dreams by Iron Maiden
夢と死生観をテーマにした哲学的楽曲。 - Hallowed Be Thy Name by Iron Maiden
人間の死と宿命をテーマにしたメイデン屈指の名曲。 - Holy Diver by Dio
愛と運命を寓話的に描いたメタルの名曲。 - War Pigs by Black Sabbath
人間の行為の罪とその報いを歌った社会派メタル。
6. 善悪の狭間に生きる人間の宿命
「The Evil That Men Do」は、Iron Maidenが文学的・哲学的テーマをメタルに昇華させた代表作である。シェイクスピアの言葉を引用し、人間の悪行の残酷な永続性を歌いながらも、そのメロディは力強く高揚感に満ちている。
ライブで観客がサビを大合唱する光景は、「人間の宿命を共に歌い上げる儀式」のようであり、この曲を単なるヒットソング以上の存在へと押し上げている。「The Evil That Men Do」は、Iron Maidenが持つ哲学性と大衆性を見事に融合させた永遠のアンセムなのである。
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