アルバムレビュー:Tangram by Tangerine Dream

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発売日: 1980年5月1日
ジャンル: エレクトロニック、ベルリン・スクール、アンビエント


幾何学のように変容する音——80年代Tangerine Dreamの幕開け

Tangramは、Tangerine Dreamが1980年代に突入して最初に発表したスタジオ・アルバムであり、過渡期の美学と新たな展望が交差する作品である。
タイトルの「タングラム(Tangram)」とは、中国由来のパズル遊びであり、少数のパーツで多様な形を構成できるというもの。
まさに本作はその名の通り、複数の音楽的断片が変幻自在に組み合わされてゆく、“音による構造的遊戯”なのだ。

エレクトロニクスの使用はより洗練され、70年代的な瞑想性と80年代的なリズム感覚が交錯する。
また、本作からヨハネス・シュメーリング(Johannes Schmoelling)が新メンバーとして参加し、バンドに新たなメロディ感と空間構成をもたらした。
その変化は、構築美を保ちつつも“聴かせるエレクトロニック・ポップ”への移行を予感させるものである。


全曲レビュー

※本作はLP時代の構成に従い、「Tangram Set 1」「Tangram Set 2」の2部構成となっている。

1. Tangram Set 1

約19分に及ぶ組曲的構成。
穏やかなアンビエントで始まり、シーケンサーが徐々に拍動を強める。
ミニマルなリズムの上に、複数のメロディ・モチーフが次々と重なっていく手法は、まさに音による“図形の展開”。
パートによってはジャズ的なフィーリングや、クラシカルなコード感も感じられる。
静寂と高揚、抽象と叙情が交互に現れる、Tangerine Dreamの作曲技法の進化を示すパート。

2. Tangram Set 2

こちらも約19分におよぶ大作。
Set 1よりもややアグレッシブで、リズミカルな展開が主体。
とりわけ中盤以降は、ドラム・マシン的なビートとシーケンスが融合し、80年代以降のスタイル(たとえばサウンドトラック作品など)への移行を感じさせる。
終盤では再びメロディアスなフレーズが浮上し、構築された緊張感を優しく解きほぐしていく。


総評

Tangramは、Tangerine Dreamが1970年代の抽象的、瞑想的エレクトロニクスから脱却しつつ、なおその精神性を保ち続けていた貴重な移行点である。
構成は幾何学的に精密でありながら、どこか有機的で温かく、人間の感情や風景を思わせる豊かさを持つ。

ヨハネス・シュメーリングの加入により、音の奥行きと構成力が増し、これ以降の彼らの作品群(Exit, White Eagle, 映画サウンドトラックなど)におけるポップ性と緻密さの原型がここに刻まれている。
本作はまさに“音のパズル”であり、静かなる革命の記録でもある。


おすすめアルバム

  • Exit / Tangerine Dream
     より短くコンパクトにまとまった、都市的でシャープな電子音楽。
  • White Eagle / Tangerine Dream
     映画音楽的な感性とドラマチックな展開が融合した80年代初頭の名作。
  • Ricochet / Tangerine Dream
     ライブ録音に即興と構築が共存する、70年代的魅力の凝縮。
  • The Plateaux of Mirror / Harold Budd & Brian Eno
     アンビエントとピアノによる静寂の彫刻。
  • Music for 18 Musicians / Steve Reich
     ミニマル・ミュージックの極北にして、構造と時間の美の結晶。

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