発売日: 1998年6月29日（UK）／1998年10月27日（US）
ジャンル: ネオ・ソウル、アコースティック・ポップ、アフロ・スピリチュアル、アダルト・コンテンポラリー
概要
『Supernatural』は、イギリスのソウル・シンガー Des’ree（デズリー） による3枚目のスタジオ・アルバムであり、
**愛と宇宙、癒しと永遠、生と死というスピリチュアルな主題を、軽やかなアコースティック・ソウルに乗せて歌い上げた“精神性の音楽詩集”**である。
前作『I Ain’t Movin’』（1994）で「You Gotta Be」が国際的なヒットとなった後、4年ぶりに発表された本作では、
より内省的で成熟した世界観が展開されており、ポップなメッセージよりも“存在すること”そのものを問うような、詩的なトーンが全体を支配している。
アルバムタイトルの“Supernatural”は、単に神秘的という意味ではなく、
**“人間の感覚を超えた愛の力”“魂の触れ合い”**といった、深く静かな精神性を意味している。
音楽的にはアコースティック・ギターやピアノ、ストリングスを多用した温もりのあるアレンジに、
ジャズ、ゴスペル、レゲエの要素をさりげなく織り交ぜたサウンドが特徴。
派手さはないが、“心に語りかける声”としてのDes’reeの魅力が凝縮された作品である。
全曲レビュー
1. What’s Your Sign?
唯一の全米ヒットとなった軽快なポップ・ソウル。
星座占いをテーマに、恋の導きを探るキュートなリリックが魅力。
“君の星座は何？”という問いかけの裏に、人と人をつなぐスピリチュアルな感覚がにじむ。
2. God Only Knows
“神は知っている”というタイトルながら、宗教ではなく個人の信念をテーマにした穏やかな曲。
静かなストリングスと語りかけるような歌声が、内面世界をそっと照らす。
3. Life
本作の代表曲にして、ユーモラスな哲学ポップの金字塔。
バナナ嫌いや幽霊への恐れなど、日常の些細な不安を歌いながら、
結局「生きてるって最高」と締めくくる前向きな一曲。
耳なじみの良いアレンジとチャーミングなリリックが、Des’reeの明るい一面を象徴している。
4. Best Days
過ぎ去った日々への懐かしさと、再生への願いが込められた叙情的なバラード。
スローなテンポと優しいコード進行が郷愁を誘う。
5. Proud to Be a Dread
ジャマイカ系のルーツを感じさせるスローグルーヴ。
ブラック・プライドやアイデンティティに触れたスピリチュアルなリリックが印象的。
6. I Never Knew
恋に落ちた時の戸惑いと発見を描いたソウル・バラード。
歌の中で次第に高まっていく感情の波が、Des’reeの表現力を引き立てる。
7. You’re My Sunshine
クラシックのような温かみを持つアコースティック・ラブソング。
陽だまりのようなメロディと“あなたが私の太陽”という素直な言葉が心に残る。
8. Supernatural
タイトル曲。存在と魂の交感を詩的に描いた、浮遊感のあるバラード。
神秘的でありながら、親密さを感じさせる“魂の会話”のような一曲。
9. Angel
亡くなった人への鎮魂歌。喪失の痛みをやさしく包み込むようなメロディとコーラスが美しい。
愛する人は“天使”としてそばにいる、という静かな祈りの歌。
10. Indigo Daisies
自然と心の色を重ね合わせた幻想的なナンバー。
ジャズっぽいコードワークとハミングのようなヴォーカルが印象的で、
絵本のようなファンタジーを感じさせる。
11. Time
時間という概念と、心の動きの関係性を描く知的な終曲。
「時間はすべてを癒す」「でも時間もまた、残酷なもの」という矛盾を抱えながら、優しくフェードアウトしていく。
総評
『Supernatural』は、Des’reeが**“人生そのものを音楽にする”という営みを、最も詩的に、最もやさしく実践した作品であり、
それは単なるソウル・アルバムでも、ポップスでもない、“聴く瞑想”のような体験**をもたらす。
彼女の音楽は常に、派手なビートや流行のサウンドとは距離を取りながら、
人間の根源的な感情や存在の意味に静かに寄り添うという姿勢を貫いてきた。
その意味で本作は、“Des’ree＝声というセラピー”というイメージを決定づけた重要作であり、
今なお人生に迷うとき、疲れたとき、愛に包まれたいときにそっと耳を傾けたくなる一枚である。
おすすめアルバム（5枚）
- Norah Jones『Come Away with Me』
アコースティック・ソウルと静けさの美学。Des’reeと同様に“語りかける音楽”として機能する。 - India.Arie『Testimony: Vol. 1, Life & Relationship』
自己肯定と心の癒しをテーマにしたネオ・ソウルの傑作。 - Corinne Bailey Rae『The Sea』
喪失と再生を静かに描いたコンセプチュアルなソウル作品。 - Tracy Chapman『Let It Rain』
ミニマルな構成と精神性の深さ。Des’reeとの共振が多い。 - Lizz Wright『The Orchard』
ゴスペル、ジャズ、フォークが溶け合う“自然と魂の融合音楽”。
後続作品とのつながり
『Supernatural』の後、Des’reeは長らく沈黙を保ち、実に16年を経た**『A Love Story』（2019）**でようやく復帰を果たす。
だがその空白さえも、“言葉と音が必要なときにだけ発せられる”という彼女のスタンスを裏づけている。
『Supernatural』はその意味で、沈黙と発語の狭間に生まれた、最も美しい“間（ま）”の音楽なのだ。
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