発売日: 2010年3月19日
ジャンル: R&B、ソウル、コンテンポラリーR&B
概要
『Still Standing』は、モニカが2010年に発表した6作目のスタジオ・アルバムであり、
長い試練と浮き沈みを経てもなお“私はここにいる”という力強いメッセージを宿した再生の一枚である。
本作は、前作『The Makings of Me』(2006年)以降、モニカが母となり、音楽業界と一定の距離を置きながら制作された作品である。
アルバムと同名のドキュメンタリー番組『Monica: Still Standing』がBETで放送されたこともあり、
モニカの再起をリアルタイムで見守っていたリスナーにとっては、“カムバック”という以上に、人生そのものの記録でもあった。
全体のトーンは、90年代的なソウルとモダンなR&Bの融合。
プロデューサーにはブライアン・マイケル・コックス、ジャスパー・キャメロン、ネプチューンズらが参加し、
モニカのルーツと現代性のバランスを巧みに保っている。
全曲レビュー
Still Standing (feat. Ludacris)
表題曲にして、モニカの“生存宣言”のような役割を担うトラック。
同郷のラッパー、ルダクリスを迎え、「私はまだここにいる、負けなかった」と高らかに宣言する。
ビートは重く低く、しかし歌声は高く澄んでいる。
One in a Lifetime
しっとりとしたバラードで、唯一無二の存在に捧げる愛のうた。
“あなたは一生に一度だけ出会える人”というテーマが、誠実で重厚なメロディに支えられて展開される。
Stay or Go
感情の揺れと決断を、ドラマティックな構成で描いた一曲。
タイトルのとおり、“この関係を続けるべきか終わらせるべきか”という岐路に立つ女性の心情を写し出す。
Everything to Me
アルバム最大のヒット曲。
デニース・ウィリアムス「Silly」をサンプリングし、伝統的なR&Bへのオマージュと共に、モニカの全盛期を思わせるボーカルが復活。
ビルボードR&B/Hip-Hopチャートで1位を記録した、モニカらしさ全開のラブソング。
Mirror
自己認識と葛藤を描いたスロー・バラード。
“鏡の中の私を見つめるのが怖い”というフレーズが、自己否定と再生の過程を象徴する。
Here I Am
内省的な構成が特徴的な、シンプルだが重厚なトラック。
“私はここにいる”というささやかな宣言は、女性として、母として、アーティストとしての自己再定義でもある。
Superman
男性を“スーパーマン”に見立てた恋愛の讃歌。
クラシカルなR&Bアレンジに乗せて、愛と安心感のなかにある少女のような憧れが垣間見える。
Believing in Me
自己肯定と内面の癒しをテーマにした、アルバム後半のハイライト。
“あなたが信じてくれたから、自分を信じられるようになった”という歌詞が、支え合いの関係性を描き出す。
Love All Over Me
もう一つのシングル曲。タイトルのとおり、“愛にすっかり包まれた”状態を陶酔的に歌い上げる。
ゴスペル的なコーラスとモニカのハイトーンが見事に融合し、深く染み込むようなスロージャムに仕上がっている。
総評
『Still Standing』は、モニカが“R&B界の生存者”として、再びスポットライトを浴びた重要作である。
過去の栄光に頼らず、しかし決して切り離すことなく、
自分の歩みの中で一番自然な声を見つけ直したような印象がある。
彼女がかつて歌ってきた“愛”や“裏切り”のテーマは健在であるものの、
本作ではそれらがより洗練され、成熟した形で表現されている。
特に「Everything to Me」や「Love All Over Me」など、
クラシックR&Bの構造に立脚したソウルフルな楽曲群は、モニカの原点回帰でもあり、新たな進化の証でもある。
アルバム全体を通して、派手な実験やトレンドの追随はない。
それでも、時代に左右されない声の強度、感情の真実性こそが、彼女の最大の武器であることを再確認させられる。
この作品における“Still Standing”という言葉は、ただの自己主張ではなく、
“誰もが自分の人生の中で、何かを乗り越え、なお立ち続けている”という普遍的なメッセージとして響くのだ。
おすすめアルバム(5枚)
- Brandy『Human』
自己認識と再生のテーマを共有する、同世代R&Bアーティストの作品。 - Keyshia Cole『Woman to Woman』
感情の強さとバラード中心の構成が近い。 - Jazmine Sullivan『Fearless』
現代R&Bの力強さとソウルの融合。モニカとの精神的共鳴がある。 - Tamia『Beautiful Surprise』
成熟した愛とアイデンティティを描く繊細なアルバム。 -
Mary J. Blige『Stronger with Each Tear』
過去を越えて立ち上がる、というテーマ性が一致。
8. ファンや評論家の反応
『Still Standing』は、発売直後からチャート上位に食い込み、批評家・ファン双方から高い評価を受けた。
全米アルバムチャートで初登場2位、R&B/Hip-Hopチャートでは1位を記録し、モニカにとって5年ぶりのトップランク入りとなった。
評論家は、本作を「伝統的なR&Bの再評価」として捉え、モニカの表現力やヴォーカルの安定感を称賛。
ファンからは「これぞモニカ」「彼女の声は変わらない」といった熱のこもった声が多く見られた。
また、リアリティ番組を通じてリスナーと近い距離で接することができたことも、
本作の受容を一層パーソナルなものにした。
“Still Standing”とは、単なるキャリアの継続ではなく、人生の証明でもあった。
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