発売日: 1999年10月25日
ジャンル: ダンス・ポップ、ユーロポップ、ティーン・ポップ
概要
『Steptacular』は、イギリスのポップ・グループStepsによるセカンド・スタジオアルバムであり、
彼らの商業的・文化的ピークを決定づけた、“ティーンポップ黄金期”の象徴的作品である。
前作『Step One』の成功を受けて、より洗練されたプロダクションと大胆なパフォーマンス性を兼ね備えた本作は、
リリースと同時にUKチャート1位を獲得し、マルチプラチナ認定を受けた。
特にユーロポップ特有の明快なリズム、キャッチーなフック、そして集団でのダンスが映える構成は、
“見せる音楽”としてテレビやイベントでの拡散性を極限まで高めた。
ABBA、Bananarama、Kylie Minogueの影響を直接的に引き継ぎながら、
90年代末の“明るく無邪気な集団ポップ”というジャンルを完成させた一枚とも言えるだろう。
全曲レビュー
Tragedy
Bee Geesの名曲をアップテンポにアレンジしたカバーで、本作の目玉。
振付が社会現象となり、“顔の横で手を広げる”ポーズは当時の英国文化の一部になった。
メンバー全員のコーラスも見事で、パフォーマンスと音源が一体化している代表曲。
After the Love Has Gone
失恋をテーマにした哀愁漂うユーロポップ。
切ない歌詞とは裏腹にアップビートなトラックが、「踊りながら泣く」Stepsの定型美を体現している。
サビのハーモニーが特に美しく、リスナーの記憶に残る。
Say You’ll Be Mine
男女ヴォーカルの掛け合いが心地よい、恋愛の始まりを描いたナンバー。
ややR&B風味のアレンジが新鮮で、“歌うだけでなく演じる”ポップグループとしての成長を感じさせる。
Love’s Got a Hold on My Heart
本作のリードシングル。
軽快なビートに乗せて、恋愛のときめきを爽やかに描写する楽曲であり、
明るさとメロディの完成度の高さがアルバム全体のトーンを定めている。
Deeper Shade of Blue
クラブ的なビートと内省的な歌詞が印象的なダンスナンバー。
“青”という色彩が象徴するように、前向きなメロディに隠れた切なさがこの楽曲を特別なものにしている。
When I Said Goodbye
ピアノを主体としたバラードで、Stepsの“歌えるグループ”としての一面を見せた重要な曲。
男女ボーカルの繊細な感情の応酬が美しく、ステージ上での表現力をより深めた楽曲。
I Think It’s Love
シンセとストリングスが交差する典型的なユーロポップ。
構成はシンプルながら、耳馴染みの良さとリズムの気持ち良さが抜群である。
“考えるより感じろ”というメッセージが痛快。
You’ll Be Sorry
ファンの間で根強い人気を誇る隠れた名曲。
強めのビートと反復フレーズで、サウンド的には後期ユーロダンスへの布石とも言える仕上がり。
My Best Friend’s Girl
友情と恋愛の交差という青春の葛藤を、明るいメロディで包み込んだ一曲。
微笑ましさと切なさが交差する、ティーンポップならではの世界観が展開されている。
Hand on Your Heart
Kylie Minogueのヒット曲のカバー。
Stepsらしいアンサンブルと清潔感のあるアレンジにより、原曲よりも“みんなで歌える”感が強調されたパフォーマンス向け楽曲。
総評
『Steptacular』は、90年代後半〜2000年代初頭にかけての“ポップミュージックの祝祭性”を極限まで高めたアルバムである。
軽やかで、視覚的で、そして一貫してポジティブ。
しかしその明るさは、単なる表層的な軽さではない。
失恋、葛藤、孤独といったテーマも確かに存在し、それを明快なメロディと全員での歌唱により、癒しと変換する構造が備わっている。
振付と一体化した音楽、テレビ時代の“参加型エンタメ”としての楽曲、
そしてライブやイベントで“共有”されることで成立する音楽体験。
これら全てが詰まった『Steptacular』は、ポップミュージックの一つの理想形を示したと言っても過言ではない。
クラブでも、リビングでも、体育館でも、どこで聴いても楽しい。それこそがこの作品の真価なのだ。
おすすめアルバム（5枚）
- ABBA『The Visitors』
Stepsの音楽的ルーツとも言えるグループの後期代表作。 - Kylie Minogue『Light Years』
2000年代初頭のポップダンス復権を牽引した作品。 - S Club 7『7』
同時代のユーロポップ集団として、明るさと仲間感を共有。 - Liberty X『Thinking It Over』
Stepsとは対照的なR&B寄り路線ながら、グループポップの進化形。 -
Aqua『Aquarius』
ユーロポップの奇抜さと感情の深みが融合した2000年代初頭の名盤。
8. ファンや評論家の反応
評論家からは相変わらず“軽すぎる”と評されることが多かったが、
ファンとメディアからの圧倒的な支持により、ポップカルチャーとして確固たる地位を築いた。
リリース時には、英国の学園祭やテレビ番組でのダンス再現が社会現象化。
特に「Tragedy」「Love’s Got a Hold on My Heart」「Deeper Shade of Blue」などは、
20年以上経った現在でも懐メロ番組やイベントで頻繁に流れる定番曲である。
『Steptacular』は単なる音楽作品ではなく、
世代共有のエンターテイメント体験であり、
その“明るさ”は時代を超えて私たちの中で踊り続けているのかもしれない。
コメント