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発売日: 2017年7月7日
ジャンル: インディー・ポップ、ソフト・ロック、R&B
アルバム全体のレビュー
HAIM のデビュー作 Days Are Gone(2013年)が大成功を収めてから4年、待望のセカンド・アルバム Something to Tell You がリリースされた。デビュー時には Fleetwood Mac の影響を受けたソフト・ロックと80年代のシンセ・ポップが融合したサウンドで注目を集めた彼女たちだが、本作ではさらにディテールを磨き上げ、より深みのある作品へと進化している。
プロデューサーには前作と同じくアリエル・レヒトシェイドが関与し、また元 Vampire Weekend のロスタム・バトマングリも楽曲制作に参加。デビュー作の延長線上にあるサウンドながら、よりダークでムーディーな雰囲気が漂い、洗練されたアレンジが施されているのが特徴的だ。
本作のテーマは「別れと後悔」。失恋を通じて成長し、自分自身と向き合う過程が歌詞の随所に散りばめられている。ダニエル・ハイムの憂いを帯びたボーカルと、エステ&アラナのハーモニーが、感情の揺れ動きを繊細に描き出す。リズムセクションはよりタイトになり、楽曲によっては Prince を思わせるグルーヴ感や、90年代R&B的なアプローチも感じられる。
一方で、デビュー作にあった即効性のあるキャッチーなポップさはやや影を潜め、じわじわと染み込むタイプの楽曲が多い。これは彼女たちの音楽的成長の証でもあり、リスナーにじっくりと向き合うことを求める作品でもある。
それでは、各トラックを詳しく見ていこう。
トラックごとのレビュー
1. Want You Back
アルバムのリードシングルであり、最もキャッチーな一曲。シンプルなドラムパターンとギターのアルペジオがリスナーを引き込み、サビでは一気に開放感が増す。歌詞は「過去の恋愛を振り返り、やり直したい」という後悔を描いており、楽曲全体に漂う切なさが印象的だ。特に、ダニエルの「Just know that I want you back」というフレーズの繰り返しが心に残る。
2. Nothing’s Wrong
80年代のポップ・ロックの影響を強く感じる楽曲で、どこか The Bangles や Pat Benatar を彷彿とさせる。歌詞は「関係が崩れかけているのに、それを認めたくない」という心の葛藤を描いており、メロディの抑揚と歌詞の内容が見事にリンクしている。サビのコーラスワークが美しく、ライブ映えする楽曲だ。
3. Little of Your Love
跳ねるようなリズムと、軽快なギターが特徴のポップなナンバー。アルバムの中では比較的明るい雰囲気を持ち、恋愛の甘さと駆け引きを描いている。HAIM らしいハーモニーが際立ち、ダンスフロアでも映えそうな1曲。MVでは彼女たちがロサンゼルスのダンスホールで踊る姿が印象的だった。
4. Ready for You
ロスタム・バトマングリが制作に関わった楽曲で、繊細なシンセとパーカッションが際立つ。歌詞では「過去の傷を癒し、新たな恋に向かう決意」を描いており、アルバムの流れの中で重要な役割を果たしている。控えめなアレンジの中に漂う緊張感が心地よい。
5. Something to Tell You
アルバムのタイトル曲であり、切なさと力強さが共存する楽曲。シンプルなドラムとギターのリフが印象的で、じわじわと盛り上がる構成になっている。歌詞では「本当はずっと言いたかったことがある」という後悔をテーマにしており、エモーショナルなボーカルがそれを際立たせている。
アルバムの意義と影響
Something to Tell You は、デビュー作と比較すると即効性のあるヒット曲こそ少ないが、音楽的な成熟を感じさせる作品となっている。彼女たちの持つポップ・センスはそのままに、より内省的で大人びたサウンドへと進化したことがよく分かる。
また、本作のリリース後、HAIM は Taylor Swift のアルバム Lover(2019年)に参加したり、様々なフェスでのパフォーマンスを通じてさらに影響力を増した。女性バンドとしての立ち位置を確立し、後の作品 Women in Music Pt. III(2020年)へと繋がる重要なステップとなったアルバムだ。
アルバム総評
HAIM の Something to Tell You は、単なるポップ・アルバムではなく、成長した彼女たちの内面を映し出す作品である。失恋や後悔、そしてその先にある新しい始まりを描いた歌詞と、洗練されたサウンドが絶妙に絡み合い、リスナーに深い余韻を残す。即座に耳に残るフックよりも、じっくりと聴くことで味わいが増す楽曲が多く、聴くたびに新たな発見がある一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Fleetwood Mac – Tango in the Night
HAIM の音楽的ルーツのひとつ。洗練されたソフト・ロックとポップのバランスが絶妙で、彼女たちのサウンドに通じる要素が多い。 - The War on Drugs – A Deeper Understanding
叙情的なメロディと洗練されたプロダクションが魅力的。HAIM のムーディーなサウンドが好きならハマるはず。 - Lorde – Melodrama
失恋をテーマにしたアルバムで、歌詞の内省的な側面やエモーショナルなボーカルが共通点。 - Taylor Swift – 1989
ポップ・ロックと80年代の影響を受けたサウンドが似ており、HAIM と親和性が高い。 - Tame Impala – The Slow Rush
ドリーミーなシンセとリズムのグルーヴ感が共通しており、HAIM のサウンドの進化を楽しめる人にはおすすめ。
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