
発売日: 1974年8月30日
ジャンル: ハード・ロック、アシッド・ロック
2. 概要
『Slow Flux』は、カナダ/アメリカのロック・バンド Steppenwolf が1974年に発表した7作目のスタジオ・アルバムである。
レーベルは、アメリカではCBS系のサブレーベル Mums、その他の地域では Epic。いわゆる“Epic Years”の幕開けとなる一作なのだ。
Steppenwolf は1972年2月に一度“引退”を宣言し、活動を休止していた。
その後、John Kay(Vo/Gt)と Jerry Edmonton(Dr)、Goldy McJohn(Key)、George Biondo(Ba)に、新ギタリスト Bobby Cochran を加えた編成で1974年に再結成。
この再編ラインナップによる最初の成果が『Slow Flux』であり、バンドにとっては“カムバック・アルバム”という位置づけになる。
Cochran は夭折したロックンロール・ギタリスト Eddie Cochran の甥であり、テクニカルなリードと70年代的なファンク感覚を持ち込んだプレイヤーである。
一方で、このアルバムはオリジナル・メンバー Goldy McJohn が参加した最後の作品でもある。
彼は本作リリース後の1975年にバンドから解雇されており、“古いSteppenwolf”と“新しいSteppenwolf”が同時に存在する、過渡期のスナップショットとしても聴けるのだ。
サウンド面では、60年代末の『Steppenwolf』『The Second』に象徴されるガレージ寄りのヘヴィ・ブルースから、より70年代的なタイトなハード・ロックへとシフトしている。
John Kay のしゃがれ声と Goldy McJohn のオルガンという核はそのままに、Cochran の切れ味のあるギター、ホーン・セクション、そして一部曲でのChamberlin(テープ式キーボード)が加わり、ミドル〜アップテンポ中心の“乾いたロック・アルバム”に仕上がっている。
歌詞世界は、1960年代カウンターカルチャーの終焉と、その後のアメリカ社会の空気を背景にしている。
オープニング「Gang War Blues」や「Children of Night」「Justice Don’t Be Slow」では、ギャングや暴力、死にかけたヒッピー・ムーブメント、歪んだ司法制度など、社会の“きな臭さ”がテーマになっている。
「Children of Night」では、ヒッピー文化の死が歌われ、リチャード・ニクソン大統領が “wrong is right と信じた愚か者”として名指しされるあたりに、70年代半ばの幻滅の空気がよく表れている。
アルバム後半には、シングル・ヒット「Straight Shootin’ Woman」をはじめ、「Smokey Factory Blues」「Morning Blue」「Fishin’ in the Dark」など、より個人的な感情や労働者の日常を描いた楽曲が並ぶ。
「Straight Shootin’ Woman」は全米シングル・チャートで29位を記録し、Steppenwolf にとって最後のTop40ヒットとなった。
アルバム自体もBillboard 200で47位まで上昇しており、“大ヒットではないが、再結成作としては堅実な成果”というところだろう。
後年、Epic期3作をまとめたボックス『The Epic Years 1974–1976』の登場により、『Slow Flux』『Hour of the Wolf』『Skullduggery』はまとめて再評価されることになる。
その中で、多くの評論家が“もっとも完成度が高い”“最もSteppenwolfらしい”と口を揃えるのが、この『Slow Flux』なのである。
3. 全曲レビュー
1曲目:Gang War Blues
オープニングの「Gang War Blues」は、タイトルどおり“ギャングの戦争”をテーマにしたハード・ロック・チューンである。
Goldy McJohn、Jerry Edmonton、John Kay、そしてKim Fowley という顔ぶれによる共作で、ブルース・ロックを基調としながらも、グルーヴ感の強いリフが特徴的だ。
イントロからいきなり、オルガンとギターが絡み合う“これぞSteppenwolf”なサウンドが飛び出す。
Kay の荒れたボーカルが、都市の暴力と、社会から切り捨てられた若者たちの姿を描き出していく。
ミッド・テンポながらビートはタイトで、途中で一度落としてから再び盛り上げる構成も見事である。
歌詞は、単純な“悪ぶりロック”というより、暴力が常態化した社会の病理を見つめる視線を含んでいるように読める。
60年代の“自由”の夢が後退し、街角に残ったのはギャングと銃だけ――そんな70年代的なシニシズムが、曲全体を貫いているのだ。
2曲目:Children of the Night
「Children of Night」は、John Kay 単独名義の作詞作曲。
ミステリアスなイントロから始まり、サビで一気に広がるメロディが印象的な一曲である。
タイトルにある“夜の子どもたち”は、かつてのヒッピーたち、あるいはカウンターカルチャーの残党とも解釈できる。
歌詞の中で、Kay は“ヒッピー・ムーブメントは死んだ”と歌い、ニクソン大統領を“wrong is right と信じた愚か者”として名指しする。
60年代末、Steppenwolf 自身も“Born to Be Wild”や「The Pusher」といった楽曲でカウンターカルチャーの側に立っていた。
しかし、この曲では、そのムーブメントが体制に取り込まれ、あるいは自壊していった後の“取り残された側”の視点から世界が描かれている。
音数は多くないが、メロディと歌詞の切なさがじわじわと効いてくる楽曲である。
3曲目:Justice Don’t Be Slow
「Justice Don’t Be Slow」は、Kay と Joseph B. Richie による共作。
タイトルどおり“正義よ、のろのろするな”というメッセージを掲げた、社会批評色の強い曲である。
イントロはややダークなコード進行で始まり、歌が入るとミディアム・テンポのグルーヴに乗って、司法制度の遅さや不公平さが告発されていく。
ギターはリフとカッティングを行き来し、Goldy McJohn のオルガンが不穏なトーンでバックを支える。
歌詞の中で語られるのは、“真実が明らかになる前に、すべてが手遅れになってしまう”ような現実だ。
ベトナム戦争、ウォーターゲート、街頭の暴力といった文脈を踏まえると、この“遅すぎる正義”は非常に生々しいテーマとして響いてくる。
『Monster』にあった政治性が、よりコンパクトなロック・チューンとして再構成されたような一曲である。
4曲目:Get into the Wind
「Get into the Wind」は、Bobby Cochran と Casey Van Beek の共作。
Epic期Steppenwolf における“バイク/ロード・ソング枠”と言ってもよい楽曲である。
3分ちょうどというコンパクトな尺の中で、軽快なビートとキャッチーなリフが次々に飛び出してくる。
サビのコーラスは覚えやすく、Kay と Cochran のハーモニーも良くまとまっている。
歌詞は、閉塞した街や人間関係から抜け出し、“風の中へ飛び込め”と呼びかけるものだ。
初期の「Born to Be Wild」が象徴していた“アウトローな自由”を、70年代仕様の落ち着いたハード・ロックにアップデートしたような感触がある。
アルバム前半の中では、もっともストレートに“気持ちよく走れる”タイプのロック・ナンバーだろう。
5曲目:Jeraboah
「Jeraboah」は、セッション・ベーシスト Jack Conrad による提供曲。
ファンク寄りのベースラインと、ややルーズなグルーヴが特徴的なミドル・ナンバーである。
イントロのギターは軽くカッティングしつつ、オルガンが長いコードを敷き詰める。
そこにKayのボーカルが乗ることで、どこか南部的な土っぽさと、都会的なクールさが入り混じった質感が生まれている。
歌詞の“Jeraboah”は固有名詞的に扱われるが、都市の片隅で生きるアウトサイダー、あるいは社会に馴染めない人物の象徴のようにも読める。
アルバムの中ではやや地味な曲かもしれないが、“ミドル〜スローの粘っこいグルーヴ”という、Epic期Steppenwolfの個性をよく示すトラックである。
6曲目:Straight Shootin’ Woman
B面頭の「Straight Shootin’ Woman」は、ドラマー Jerry Edmonton が書いたナンバーで、本作からのリード・シングルとしてリリースされた。
Billboard Hot 100で29位に到達し、Steppenwolf にとって最後のTop40ヒットとなった曲である。
ホーン・セクションを導入したアレンジが特徴的で、イントロからブラスがリフを刻み、そこにギターとオルガンが重なることで、R&B寄りのノリの良さを生み出している。
リズム隊も、ややスウィングしたグルーヴで押していき、70年代中盤らしい“黒っぽいハード・ロック”の感触が強い。
歌詞に登場する“Straight Shootin’ Woman”は、言いたいことをはっきり言う、まっすぐな女性像として描かれている。
彼女は誰かに守られる対象ではなく、自分の意思で選び、行動する存在だ。
『For Ladies Only』のややパターナリスティックな視線から一歩進み、より主体的な女性像をポップなロック・チューンに落とし込んだ楽曲だとも解釈できる。
Steppenwolf の“最後のトップ40”という歴史的な意味に加え、Epic期サウンドのエッセンスを4分に凝縮したような一曲であり、本作を代表するハイライトと言ってよい。
7曲目:Smokey Factory Blues
「Smokey Factory Blues」は、「It Never Rains in Southern California」で知られるソングライター Albert Hammond と Mike Hazlewood の共作。
彼ららしい、労働者の日常を描くストーリーテリングが光る楽曲である。
タイトルどおり、“煙たい工場”で働くブルーカラーの鬱屈がテーマだ。
毎日同じ時間に起き、同じ工場に向かい、同じ煙の中で働き続ける――そんな生活から抜け出したいと願う主人公の視線が、Kay のボーカルを通して伝わってくる。
サウンドはハード・ロックというより、ややスワンプ・ロック寄りの空気を帯びている。
ギターは抑制され、オルガンとリズム隊が主体となってグルーヴを生み出す構造で、曲の物悲しさと粘り気を同時に表現している。
シングルとしては本家チャートでトップ100入りを逃したが、アルバム内での存在感は大きい。
8曲目:Morning Blue
「Morning Blue」は、ベーシスト George Biondo によるオリジナル。
“朝の憂鬱”というタイトルどおり、静かな諦念とささやかな希望が同居するミディアム・バラードである。
イントロでは、柔らかいギターと鍵盤が、淡い光の差し込むようなコードを鳴らす。
Kay のボーカルはここではやや抑えめで、Biondo のメロディ感覚が前面に出ている。
サビでほんの少しだけレンジを広げることで、感情の波を小さく、しかし確かに描いているのが印象的だ。
歌詞は、昨日までの問題は何も解決していないのに、とりあえず朝はやってくる、という感覚を中心にしている。
そこには、70年代の幻滅した空気と、日々を生き延びるしかない個人の感情が、さりげなく刻まれているように思える。
9曲目:A Fool’s Fantasy
「A Fool’s Fantasy」は、Goldy McJohn 作の楽曲。
キーボーディスト主導らしく、オルガンとピアノのフレーズが前面に押し出されたナンバーである。
曲調は、ややプログレッシヴなポップ・ロックという趣で、メロディの展開やコード進行にひねりが加えられている。
ギターは比較的抑えめで、その分オルガンがリード役を担い、Kay のボーカルと絡みながら進行していく。
タイトルの“愚かな夢”は、恋愛にせよ社会変革にせよ、“実現しそうもない理想”の比喩として受け取れる。
Steppenwolf の政治的・社会的なテーマを、より抽象化して内面のドラマとして描いたような曲と言えるだろう。
Goldy McJohn が参加する最後のアルバムにおいて、この曲が示す“鍵盤主導のSteppenwolf像”は、ひとつの締めくくりにも聞こえる。
10曲目:Fishin’ in the Dark
ラストの「Fishin’ in the Dark」は、John Kay 作の6分近いナンバー。
アルバムを締めくくるにふさわしい、じわじわと高まる構成の一曲である。
冒頭は、Chamberlinによるストリングス系の音色と、静かなギター/鍵盤が織りなす幻想的なサウンドからスタートする。
そこにKayのボーカルが低く入り、徐々にリズムが強くなり、終盤に向けてバンド全体がうねりを増していく。
ホーン・セクションも控えめに加わり、“70年代Steppenwolfのサウンド・デザイン”を総括するような音像になっている。
“暗闇で釣りをする”というイメージは、不確かな時代の中で、何かを探り当てようとする行為のメタファーのようにも読める。
そこに“まだ完全には終わっていないSteppenwolf”の姿が重なるのだ。
静かだが印象的なクロージングで、アルバム全体にゆるやかな余韻を残して幕を閉じる。
4. 総評
『Slow Flux』は、Steppenwolf のディスコグラフィの中で、非常に独特な位置にあるアルバムである。
ひとつには、“再結成後の第1作”という区切り。
もうひとつには、“Goldy McJohn 在籍期の最終作”という終わり。
さらに、“Epic/Mums 期3作の中で最も完成度が高い”と後年評価されるようになった作品でもある。
サウンド面の特徴としてまず挙げられるのは、ミックスとアレンジの“70年代化”である。
初期作にあった荒削りなラウドさはやや影を潜め、その代わりにタイトで整理されたハード・ロック・サウンドが前面に出ている。
ドラムとベースはコンプレッションを感じさせる締まった音で録られ、ギターは中域の効いたクランチ・トーン、オルガンは分厚いパッドと短いフィルに徹する場面が増えている。
そこにホーン・セクションが加わることで、「Straight Shootin’ Woman」を筆頭に、ファンキーでポップなロック・チューンが生まれている。
“バイカー・サイケ”だった60年代末のSteppenwolfが、ミドル70年代のFMロックへと自然に進化した姿がここにはある。
一方、歌詞のテーマは決して軽くない。
「Gang War Blues」「Children of Night」「Justice Don’t Be Slow」と続く前半は、暴力、ヒッピー文化の死、司法制度への不信といった社会テーマで固められている。
『Monster』のように一枚丸ごと政治コンセプトに振り切るのではなく、“各曲がそれぞれ社会の一断面を切り取る”形に変化しているのが興味深い。
中盤以降は、「Straight Shootin’ Woman」に象徴される関係性の変化、「Smokey Factory Blues」におけるブルーカラーの鬱屈、「Morning Blue」の静かな憂鬱といった、より個人的・日常的なテーマへとスケールが縮む。
Steppenwolf の社会意識は、ここで“マクロな政治”から“ミクロな生活”へと降りてきているとも言えるだろう。
商業的には、アルバムはBillboard 200で47位、シングル「Straight Shootin’ Woman」は全米29位を記録し、“再結成としてはまずまずの結果”にとどまった。
しかし後年、Epic期3作をまとめたボックスが登場すると、複数の評論家が“3枚の中で最も曲の質が安定している”“まとまりのあるアルバムだ”と『Slow Flux』を高く評価するようになる。
興味深いのは、“これはSteppenwolfらしくない”という評価と、“Epic期の最高傑作”という評価が、同じアルバムに対して共存している点だ。
一部の批評では、本作収録曲のいくつかがもともとJohn Kayのソロ用に書かれていたため、“Kayのソロ・アルバムに近い趣があり、古いSteppenwolfらしさが薄い”とも指摘されている。
他方で、“それこそが70年代型の成熟であり、Kayのソングライターとしての成長が最もバランスよく出た作品”と見る声もあるのだ。
バンド内部の状況も、作品のニュアンスに影を落としている。
Goldy McJohn は本作を最後にバンドを去り、その要因として“演奏のクオリティ低下や行動の不安定さ”が挙げられている。
一方で、新加入のBobby Cochran は、ギターだけでなくソングライティングでも存在感を示し、「Get into the Wind」でSteppenwolf流のアウトロー・ロックを新世代仕様で描き出した。
つまり『Slow Flux』は、オリジナル期と新体制の境界線に立つアルバムなのだ。
“クラシックSteppenwolf”の最後の火花と、“ミッド70sロック・バンドとしてのSteppenwolf”の始まりが、同じ作品の中で同居している。
今日の耳で聴くと、『Slow Flux』は“隠れたレイドバック期の名盤”のように響く。
初期の爆発力や『Monster』の政治的野心に比べれば、確かに地味かもしれない。
だが、曲ごとの完成度、アルバム全体の流れ、そして社会的テーマと個人的感情のバランスという観点から見ると、非常によくできたロック・アルバムであることが分かる。
Steppenwolf をベスト盤と60年代代表曲だけで捉えているリスナーにとって、『Slow Flux』は“その先”を知るための重要な一枚だろう。
カウンターカルチャー後の幻滅と、それでもなお続く日常――その中で、Steppenwolfがどのようなロックを鳴らし続けたのか。
その答えのひとつが、このアルバムの中に静かに息づいているのだ。
5. おすすめアルバム(5枚)
- Hour of the Wolf / Steppenwolf(1975)
『Slow Flux』に続くEpic期2作目。
Goldy McJohn 脱退後の編成で、よりAOR寄り/メロディアスな方向へ踏み出した一枚。
両作を続けて聴くと、Epic期Steppenwolfの変化が立体的に見えてくる。 - Skullduggery / Steppenwolf(1976)
Epic期3部作のラスト。
タイトル曲や「Life Is a Gamble」など、ファンの間で評価の高い楽曲を収録しつつ、バンドはこの後ふたたび解散へ向かう。
『Slow Flux』の完成度と比較しながら聴くと、バンドのエネルギーの変化がよく分かる。 - Steppenwolf 7 / Steppenwolf(1970)
「Who Needs Ya」「Renegade」「Snowblind Friend」などを収録した中期の名盤。
ブルース・ロック寄りのサウンドと、個人的・社会的テーマのバランスが良く、『Slow Flux』との比較でSteppenwolfの“70年代モードへの移行”を捉えやすい。 - Monster / Steppenwolf(1969)
ベトナム戦争やアメリカ史を扱った、最も政治色の濃いコンセプト・アルバム。
ここでのマクロな政治批判が、『Slow Flux』では都市暴力や工場労働といった、より身近なテーマへとスケールダウンしているのが分かる。 - L.A. Woman / The Doors(1971)
同じロサンゼルス圏のバンドによる、ブルース/ハード・ロック寄りの名盤。
長尺曲とブルース・ロックを軸にしつつ、都市の闇や幻滅を描く点で、『Slow Flux』と通じる部分が多い。
70年代初頭の“ウェストコーストの暗い側面”を、別の角度から補完してくれる作品である。
8. ファンや評論家の反応
『Slow Flux』は、リリース当時から今日に至るまで、“やや評価の難しいアルバム”として扱われてきた。
まず当時のチャート推移を見ると、アルバムはBillboard 200で47位、シングル「Straight Shootin’ Woman」は29位を記録し、数字だけ見れば“中堅バンドの健闘”といったところである。
ただ、Steppenwolf はすでに「Born to Be Wild」「Magic Carpet Ride」といった大ヒットのイメージが強く、70年代中盤の市場の中では“往年のバンドによるカムバック作”と見なされることが多かった。
評論面では、当時から“ソリッドでよく出来たロック・アルバムだが、突出した何かはない”というニュアンスの評価が少なくなかった。
ユーゴスラビアの音楽誌 Džuboks が混合評価(mixed)を与えていたことからも、その“悪くはないが傑作とも言い切れない”という印象はうかがえる。
一方、21世紀に入ってからの再評価は、かなりポジティブなものが多い。
Epic期3作をまとめた『The Epic Years 1974–1976』のレビューでは、“Slow Flux は3枚の中で最もタイトにまとまった作品”“このボックスの中でもっとも出来が良いアルバム”と語られることが多く、特に「Gang War Blues」「Children of Night」「Straight Shootin’ Woman」がハイライトとして挙げられている。
また、ハード・ロック/クラシック・ロック系メディアの一部では、“初期Dunhill期ほどのヘヴィさはないが、70年代中盤のFMロックとしては質の高い一枚”“ファンクやポップの要素を取り入れた中期Steppenwolfのベスト・サンプル”と評されることも多い。
ファンの間では、“Steppenwolfをベスト盤でしか知らない人にすすめたい一枚”という声が目立つ。
特に、オリジナルLPや初期CDが長らく入手困難だったこともあり、“幻のアルバム”として語られてきたが、ボックスセットやデジタル配信の整備によってようやく聴きやすくなった。
その結果、“思っていた以上に曲が良い”“もっと評価されるべきアルバムだ”という再評価がSNSや掲示板などで広がっている。
同時に、“これはSteppenwolfというよりJohn Kayのソロ・アルバムに近い”という意見も根強い。
一部のレビューでは、“Slow Flux は少し奇妙な作品で、そのタイトルどおり“ゆるやかな変化”を示している。Steppenwolfらしいラフさよりも、Kayのソングライターとしての方向性が強く出ている”と指摘されている。
この“バンド感の希薄さ”は、裏を返せば“ソングライティング重視のアルバム”とも言える。
実際、現代的な耳で聴き直すと、『Slow Flux』は“アルバム単位で聴かれることを前提に作られた、質の高いロック作品”として浮かび上がってくる。
結果として、『Slow Flux』はSteppenwolfの代表作と呼ばれることは少ないが、“知る人ぞ知る佳作”という位置から、じわじわと評価を高めている最中のアルバムだと言えるだろう。
60年代ヒット期とは別の角度からバンドを理解したいリスナーにとって、今こそ耳を傾ける価値のある一枚なのだ。
参考文献
- Wikipedia “Slow Flux”(基本情報、トラックリスト、パーソネル、チャート情報)
- Steppenwolf 公式サイト “Slow Flux – CD”(再結成作としての位置づけ、代表曲の紹介)
- PopRockBands “Slow Flux/Hour of the Wolf/Skullduggery”(各曲の主題、Epic期3作の評価)
- ClassicBands.com “Steppenwolf”(Mums期契約、チャート情報、Goldy McJohn脱退の経緯)
- Echoes and Dust / Now Spinning / Ever-Metal / Metal Planet Music 各レビュー(Epic Yearsボックスにおける『Slow Flux』の位置づけと再評価)



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