アルバムレビュー：Rockmaker by The Dandy Warhols

発売日: 2024年3月15日
ジャンル: オルタナティブ・ロック、グラム・ロック、ポストパンク、サイケデリック・ロック

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
制作の裏側（Behind the Scenes）
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概要

『Rockmaker』は、The Dandy Warholsが2024年に発表した11作目のスタジオ・アルバムであり、“ロックの虚構と再構築”を主題に据えた、コンセプチュアルかつ退廃的なリバイバル作品である。

バンド結成30周年を目前に控えた本作では、かつてのグラム・ロック、ポストパンク、そして90年代オルタナティブ・ロックのエッセンスを大胆に引用しつつ、時代錯誤的ともいえる装飾性と、現代的なアイロニーが共存するサウンドが展開されている。

タイトル『Rockmaker（ロックを作る者）』は、“リアルではないロック像”をあえて人工的に構築するというメタ的な試みを暗示しており、ショウビズ、政治、人工知能、名声といった現代的テーマを、バンド独特の諧謔と装飾美で包み込んでいる。

ゲストにはBlack Rebel Motorcycle Clubのピーター・ヘイズや、デヴィッド・J（Bauhaus/Love and Rockets）といったポストパンク系レジェンドが名を連ね、退廃と幻想、批評性が濃密に交錯する“異形のロック・サーガ”として成立している。

全曲レビュー

1. Danzig with Myself

ビリー・アイドルの「Dancing with Myself」をもじったタイトルが示すように、自己愛とメタ・パロディが交差するオープニング。
グラム風のリフとチープなドラムマシンが、あえての“ニセモノ感”を漂わせる。

2. Teutonic Wine

“チュートンのワイン”という象徴的タイトルが示すように、ドイツ的退廃と酩酊感がテーマ。
クラウトロック調のミニマル・ビートと濃厚なシンセが特徴で、脳内を揺らすような音像が展開する。

3. Summer of Hate

サイケとパンクの中間を行く攻撃的トラック。
2000年代以降の文化の反復と崩壊を批評するような歌詞が強烈。

4. The Summer of the Dandy Warhols

前曲との対になるタイトルを持ち、こちらは煌びやかで自嘲的なグラム・ポップ。
自身のバンド名を冠しながらも、虚構の夏を冷笑するようなメタ性が光る。

5. I’d Like to Help You with Your Problem

Peter Holmströmによるギターが轟くノイズ・ポップ。
“君の問題を手伝いたい”というタイトルとは裏腹に、突き放すような感情がこもる。

6. Alcohol and Cocainemarijuananicotine

タイトルがすべてを物語る中毒性のアンセム。
シンセ・ファンクとダーティーなリリックが融合し、快楽と破壊が等価に描かれる。

7. The Cross

BauhausのDavid Jが参加。
ポストパンク風のビートと重たいベースラインが印象的で、宗教的象徴と世俗の交差が描かれるダーク・チューン。

8. Real People

バンドのキャリア全体を回顧するような、メロウかつ浮遊感のあるサウンド。
“リアルな人間”とは何かを問いつつ、現実そのものが虚構である可能性を提示する。

9. Electric Pleasure

最もダンサブルなトラックで、70sディスコやエロティック・グラムの引用が顕著。
ロボットのようなボーカル処理が、快楽と冷たさの境界を揺らす。

10. Love Thyself

自己愛とナルシシズムをテーマにした静謐なバラード。
しかしその愛は救済ではなく、“自分しか信じられない”という切実な絶望が滲む。

11. I Will Never Stop Loving You

本作の締めくくりとして、まるでフェイクな愛の宣言のような感情過多なラストトラック。
ストリングスとシンセの洪水のなかで、愛も名声も“演出”の一部であることを冷ややかに示唆する。

総評

『Rockmaker』は、The Dandy Warholsが30年のキャリアの中で到達した“反ロック的ロック”の結晶であり、虚構を演じきることで本質に近づこうとする異端のロック・アルバムである。

それは決して懐古ではなく、過去の様式美を“今この瞬間”の道具として使いこなす術に長けたバンドだけが作れるアートフォームだ。
リフや衣装、音像までもがデフォルメされたこの作品において、聴き手は“ロックとは何か”という問いにぶつかるだろう。

そしてこの問いは、2020年代の音楽文化全体にも投げかけられている。
生の感情が希薄化し、AIと人間が混在する時代に、果たしてロックとは誰のための表現なのか？

『Rockmaker』は、その問いに対して明確な答えを与えるのではなく、“演じること”を通して応答する鏡のような作品なのだ。

制作の裏側（Behind the Scenes）

本作は、PortlandのOdditoriumスタジオにて長期にわたり断続的に録音され、アナログ機材とデジタル編集を併用した“ハイブリッド・レコーディング”が採用された。

バンドは本作の制作に際し、衣装、アートワーク、リリック、メディア戦略までも含めた“ロックの人工的構築物”を意識して設計。
David JやPeter Hayesの起用も、音楽的引用にとどまらず、“登場人物としての象徴性”を持たせたキャスティングであった。

つまり、『Rockmaker』は楽曲の集合体というよりも、“現代におけるロックの演劇”そのものとして構成されているのだ。