アルバムレビュー:Nothing Wrong by Red Lorry Yellow Lorry

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※本記事は生成AIを活用して作成されています。

cover

発売日: 1988年4月
ジャンル: ポストパンク、オルタナティヴ・ロック、ダークウェイヴ

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概要

『Nothing Wrong』は、Red Lorry Yellow Lorryが1988年に発表した3作目のスタジオ・アルバムであり、彼らのキャリアにおける音楽的転換点を明確に刻んだ作品である。
1985年のデビュー作『Talk About the Weather』、1986年の『Paint Your Wagon』で構築されたミニマルで硬質なポストパンクの美学を一歩引き、よりメロディアスで構成的なサウンドにシフトした本作は、単なるスタイル変更ではなく、“内なる激情を外に放つ”ための音楽的解放でもあった。

タイトルの『Nothing Wrong(問題なんてない)』という言葉は、そのまま受け取れば皮肉や不安の否認としても読めるが、実際の内容はむしろ問題を抑圧することの苦しみや、社会的順応の裏にあるひび割れを鋭くあぶり出している。
サウンドは以前より開かれた印象を持ち、ギターの旋律性、ヴォーカルの表情の幅、そして曲構成の起伏が明確に強調されている。

この変化は、当時の音楽シーンにおいてゴシック・ロックが大衆化し始める一方、ポストパンクの進化形としてよりエモーショナルかつ詩的な方向性を模索する動きとシンクロしている。
Red Lorry Yellow Lorryにとっても、それは沈黙のなかで生まれた声を音楽に変えるための過程だったのだ。

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全曲レビュー

1. Healing Time

アルバムの幕開けを飾る、穏やかだが重厚なトラック。
“癒しの時間”というタイトルはこれまでのバンドの硬派なイメージと対照的だが、実際には“過去の傷を癒すことの困難さ”を描いている。
ミッドテンポのビートとエモーショナルなギターワークが印象的。

2. Generation

明確なビートとリフが際立つダンサブルなナンバー。
“世代”という大きなテーマを扱いながら、直接的な主張よりも“感情の置き場のなさ”をメインに描いている。
シンプルな反復の中に焦燥感が滲む。

3. Open Up

かつての閉鎖的音像とは異なり、“心を開け”と繰り返されるリリックが象徴的。
ギターのアルペジオが開放感を演出し、ヴォーカルも比較的感情を露わにする。
感情の表出をためらいながらも、音は前へと進む。

4. You Are Everything

本作中最もメロディアスで、“愛”を直接テーマにした異色のラブソング。
ただし、その愛は依存と不安にまみれたものであり、リリックには“すべてを相手に投影してしまう危うさ”が潜む。
耽美さと不安定さが共存するバラッド。

5. Nothing Wrong

アルバムタイトル曲。
静かなイントロから徐々に高まるテンションと、冷たく繰り返される「There’s nothing wrong」というフレーズが、逆説的に強烈な違和感を与える。
構成美が際立つ、隠れた名曲。

6. Hands Off Me

エッジの効いたギターと鋭いリズムで畳みかける一曲。
拒絶の意思、境界線の主張をテーマにしており、「俺に触れるな」という叫びは、内面的なパーソナル・スペースの確保でもある。
演奏は攻撃的だが、感情はむしろ繊細。

7. Say You’re Sorry

謝罪を求めるのではなく、“言葉としての謝罪”の空虚さを描いたシニカルな曲。
ヴォーカルの語り口が演劇的で、楽曲全体が“疑似対話”のように構成されている。
Red Lorry Yellow Lorryのリリックの深さを感じる。

8. Never Know

“永遠に分からない”というタイトルが象徴するように、コミュニケーションの断絶や認識の限界がテーマ。
サウンドはより音響的に洗練され、ドローン的なギターとディレイが空間性を生んでいる。
喪失と沈黙の美学が凝縮された一曲。

9. Hard-Away

不穏なベースラインが主導するダーク・トラック。
“Hard”と“Far Away”を掛け合わせたような造語的タイトルは、“逃避と痛み”の共存を象徴している。
ヴォーカルは低く抑えられ、沈黙のなかに凄みを感じさせる。

10. Temptation

アルバムの締めにふさわしい、感情と抑制がぶつかり合うナンバー。
“誘惑”とは性的な意味に限らず、自我や理性の崩壊を招くあらゆる衝動として描かれる。
サウンドは荒涼としていながらも、どこか美しい。

総評

『Nothing Wrong』は、Red Lorry Yellow Lorryがそれまでの無機質なポストパンクの鋼鉄的構造から一歩踏み出し、感情と音楽の接点を模索し始めたアルバムである。
過剰な感情表現には踏み込まず、それでもなお“言葉にならない感情”をサウンドの隙間から滲ませてくるその構成は、非常に洗練されている。

ゴシック・ロックの文脈に収まりきらないこのアルバムは、ポストパンクが自己模索の果てに辿り着いたひとつの回答とも言える。
Red Lorry Yellow Lorryは、叫びではなく“囁きと余白”で世界に抵抗した。
そしてその囁きこそが、今なお鋭く耳に残り続ける。

おすすめアルバム(5枚)

  • Lowlife / Diminuendo
     ダークでメロディアス、耽美的ポストパンクの極み。
  • Sad Lovers & Giants / Feeding the Flame
     情感と距離感のバランスが絶妙な、詩的ダークウェイヴ。
  • The Lucy Show / …undone
     繊細さとリズム感を両立させた80年代後期の名作。
  • The Comsat Angels / Sleep No More
     静かな重さと透明感をあわせ持つ深淵の音像。
  • The Sound / Heads and Hearts
     メロディと不安が共存する、中期ポストパンクの重要作。

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