
発売日: 1972年3月3日
ジャンル: ソウル、ファンク、R&B
Stevie Wonderの“自立”——創造性が解き放たれた革命的アルバム
1972年にリリースされた Stevie Wonder の14枚目のスタジオ・アルバム Music of My Mind は、彼のキャリアにおいて画期的な作品であり、アーティスティックな自由を獲得した最初のアルバム として知られる。
本作は、Wonder が21歳のときにリリースされたもので、彼が Motown との従来の契約を更新せず、新たに完全なクリエイティブ・コントロールを持つ契約を結んだ 直後の作品である。この変化により、彼は自身で作詞・作曲・プロデュースを手がけ、演奏のほとんどを 自ら担当 することになった。
Music of My Mind では、シンセサイザーを積極的に取り入れた新しいサウンド を探求しつつ、ソウルやファンク、R&Bを融合した革新的な楽曲が展開されている。本作は、彼の70年代の黄金期(Talking Book、Innervisions、Songs in the Key of Life へと続く時代)への第一歩を示すアルバムである。
全曲レビュー
1. Love Having You Around
アルバムのオープニングを飾るファンクナンバー。リズミカルなベースラインとクラビネットが特徴的で、Wonder のエネルギッシュなボーカルが炸裂する。シンセサイザーの多用が、彼の新たなサウンド探求を象徴している。
2. Superwoman (Where Were You When I Needed You)
本作のハイライトのひとつで、2部構成の壮大な楽曲。最初の部分は美しいメロディを持つバラードで、後半はテンポアップし、ジャズやファンクの要素が加わる。彼の元妻 Syreeta Wright との関係を反映した歌詞も注目ポイント。
3. I Love Every Little Thing About You
シンプルながらもキャッチーなラブソング。軽快なリズムとメロディが心地よく、Wonder の甘い歌声が映える楽曲。
4. Sweet Little Girl
グルーヴィーなファンクナンバーで、クラビネットとベースラインが印象的。Wonder の遊び心が詰まった一曲。
5. Happier Than the Morning Sun
ジャズやブルースの要素を持つ楽曲で、Wonder のソウルフルなボーカルが際立つ。ミニマルなアレンジが、彼のボーカルの魅力を引き立てている。
6. Girl Blue
幻想的なシンセサウンドが特徴のミディアムバラード。メロディが美しく、感情的なボーカルとともに、心に深く響く楽曲。
7. Seems So Long
しっとりとしたピアノバラード。シンプルながらも感情が込められた歌詞が印象的で、Wonder の成熟したソングライティングが感じられる。
8. Keep on Running
アルバムの中で最もアップテンポな楽曲のひとつ。エレクトロニックなサウンドとダンサブルなリズムが融合し、Wonder の新しい方向性を示唆している。
9. Evil
アルバムの締めくくりにふさわしいダークなバラード。社会的なテーマを扱いながらも、エモーショナルなピアノとボーカルが際立つ楽曲。
総評
Music of My Mind は、Stevie Wonder の音楽的進化と新たな時代の幕開けを告げる作品 であり、彼の70年代の黄金期を形成する重要なアルバムである。
このアルバムの最も注目すべき点は、シンセサイザーを積極的に使用し、ほぼ全ての楽器を自ら演奏したこと であり、当時のソウル/ファンクのアルバムとしては画期的だった。さらに、個人的なテーマを深く掘り下げた歌詞 も、本作を特別なものにしている。
特に「Superwoman (Where Were You When I Needed You)」や「Love Having You Around」などの楽曲は、後の Talking Book や Innervisions へと続くサウンドの礎を築いている。
おすすめのリスナー:
- Stevie Wonder の70年代の進化の過程を知りたい人
- ソウル/ファンクの実験的な作品を探している人
- シンセサイザーとクラビネットを活かしたサウンドが好きな人
おすすめアルバム
1. Stevie Wonder – Talking Book (1972)
本作と同年にリリースされた、より洗練されたソウル/ファンクアルバム。
2. Marvin Gaye – What’s Going On (1971)
社会的メッセージを込めたソウルの名盤で、本作のテーマとも共鳴する部分が多い。
3. Curtis Mayfield – Super Fly (1972)
同じ年にリリースされたファンクの名盤で、シンセを取り入れた新しいサウンドが共通点。
4. Herbie Hancock – Head Hunters (1973)
ジャズとシンセを融合させたアルバムで、Stevie Wonder のシンセサウンドに影響を与えた可能性がある。
5. Prince – Dirty Mind (1980)
Stevie Wonder の影響を受けながら、シンセとファンクを融合させた作品。
Music of My Mind は、Stevie Wonder が自身の音楽的アイデンティティを確立し、70年代の黄金時代へと突入する起点となったアルバム である。彼の自由な創造性が生んだこの作品は、今なお革新的な魅力を放っている。
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