Mr. Farmer by The Seeds(1967)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Mr. Farmer」は、アメリカのガレージロック・バンド The Seeds(ザ・シーズ)が1967年にリリースしたシングルであり、同年発表の2ndアルバム『A Web of Sound』にも収録された楽曲である。この曲は一聴すると“農夫への賛歌”のようにも聞こえるが、実際にはカウンターカルチャー、自己解放、そして薬物文化をほのめかすダブルミーニングに満ちた作品として知られている。

歌詞は、都市生活を捨てて田舎に引きこもり、畑を耕しながら平和な生活を送るミスター・ファーマーという人物を描写している。しかし、その“畑”が何を育てているのかは明示されておらず、当時流行していたマリファナ栽培の隠喩であるという解釈が広く受け入れられている。そうしたテーマのため、当時一部のラジオ局では放送禁止となったこともある。

表面上はのどかな田園風景とスローライフの賛美でありながら、その裏には現代社会からの逃避と精神的な自由の追求、さらには幻覚的な意識の拡張への志向が含まれているという、1960年代後半のサイケデリック・ロックのエッセンスを凝縮した一曲である。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Mr. Farmer」が発表された1967年は、いわゆる“サマー・オブ・ラブ”の前年であり、アメリカではヒッピー文化、フラワームーブメント、ドラッグカルチャーが急速に広まりつつあった時期である。The Seedsのフロントマン、スカイ・サクソン(Sky Saxon)は、ロサンゼルスのアンダーグラウンド・シーンでスピリチュアルかつラディカルな存在として知られ、東洋思想や自然回帰にも傾倒していた

そうした文脈の中で「Mr. Farmer」は、単なるシンプルなポップソングではなく、社会に背を向けて新たな生き方を模索する若者たちへのメッセージと受け止められた。歌詞中に明確な政治的スローガンは存在しないものの、語り手が“都市を捨てて田舎での生活を選ぶ”という行動は、資本主義や戦争、抑圧からの逃避と再生を意味する。

The Seedsは、この曲によってさらにサイケデリック色を強めながらも、直線的でミニマルなガレージサウンドにこだわり続けた点で、同時代のThe ByrdsやLove、13th Floor Elevatorsなどとは異なるユニークなポジションを築いていた。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Mr. Farmer, let me watch your children grow
ファーマーさん、あなたの子どもたちが育つのを見せてくれないか

この「子どもたち」という表現は、表向きは農作物を意味しているように見えるが、比喩として“草”=大麻を指しているとする説が有力である。
また、純粋に“新しい価値観を持つ若者世代”の象徴として読むことも可能だ。

He stays away from the city life
彼は都会の暮らしを避けている

このフレーズにおいては、現代社会や資本主義に背を向ける選択が語られている。これは、当時広がりつつあった“バック・トゥ・ザ・ランド”運動と呼応する思想でもある。

He plants his seeds and he waits for them to grow
種をまいて、育つのを静かに待っている

ここでは、“育つこと”への忍耐と信念が描かれているが、その種が何を象徴しているかによって解釈は大きく分かれる。理想郷の芽か、幻覚の種か、はたまた社会変革の象徴か。

※引用元:Genius – Mr. Farmer

4. 歌詞の考察

「Mr. Farmer」は、The Seedsが提示した都市からの逃避、自然回帰、精神的自由というテーマを、寓話的に表現した楽曲である。その語り口は決して直接的ではなく、むしろ無邪気なまでにのどかな農夫像を描きつつ、その裏側にサイケデリック・カルチャーの影を漂わせるという、二重構造的な魅力を持っている。

語り手が農夫の生活に惹かれる理由は明確には語られないが、そこには都市における消費的・機械的な日常に対する倦怠があり、“何かを育て、見守り、変化を受け入れる”という本源的な生き方への希求が滲んでいる。
また、“育てること”へのこだわりは、単に植物に限らず、“思想”や“共同体”、“オルタナティブな価値観”のメタファーとも解釈される。

当時としてはあまりに露骨な隠喩であったため、放送禁止処分を受けた事実は、むしろこの楽曲の反体制的な象徴性を強化する結果となった。そしてそれは、後のサイケ・ポップやサイケ・フォークにおける“密やかな表現文化”の先駆けともなった。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Rainy Day Mushroom Pillow by Strawberry Alarm Clock
    サイケデリックと自然主義の融合。幻覚と夢の狭間を描いたポップチューン。

  • Nature Boy by Love
    自然回帰とスピリチュアリズムをテーマにしたロサンゼルス・サイケの名曲。
  • Homegrown by Neil Young
    マリファナを含めた自給自足的生活の美学を描いた作品。

  • Get Together by The Youngbloods
    都市の喧騒から離れ、人間同士の精神的なつながりを求めるアンセム。

  • Eight Miles High by The Byrds
    内的意識と飛行(=トリップ)を重ね合わせたサイケデリック・ロックの傑作。

6. 土に還る自由――“Mr. Farmer”が語るサイケデリアの寓話

「Mr. Farmer」は、表向きはのどかで無害な農夫の物語に見えるが、その内側には1960年代カウンターカルチャーの根幹にある精神的自由、自然との共生、薬物的啓示といった多層的なテーマが隠されている。

それは「音楽で何かを変えようとする」時代の、ひとつの寓話である。都市に疲れ、戦争に反発し、家族や学校という枠から外れた若者たちが、土に種をまき、自分の手で世界を作ろうとしたその瞬間――The Seedsの「Mr. Farmer」は、まさにその夢の断片を音楽として結晶化させたのである。

育つのは植物か、思想か、意識か――それを決めるのは聴き手自身の“解釈”という自由なのだ。
「Mr. Farmer」は、そうした自由への招待状として、今もなお私たちに静かに語りかけてくる。

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