
1. 歌詞の概要
「MmmHmm」は、ロサンゼルス出身のプロデューサーFlying Lotus(フライング・ロータス)が2010年に発表したアルバム『Cosmogramma』に収録された楽曲であり、盟友Thundercat(サンダーキャット)がベースとヴォーカルで参加している作品である。本曲は歌詞らしい歌詞をほとんど持たず、むしろ声を楽器の一部として扱うスタイルが採られている。「MmmHmm」というタイトル自体が言葉というよりも擬音に近く、意味を伝えるものではなく“響き”によって感覚を刺激する。従って、歌詞というよりは声のフレーズやハーモニーが全体の音響空間の一部として機能しており、リスナーは物語を追うのではなく、音に身を委ねることで楽曲を体感することになる。
2. 歌詞のバックグラウンド
2010年にリリースされた『Cosmogramma』は、Flying Lotusがビートシーンを超えて世界的な評価を得るきっかけとなったアルバムである。本作では彼のルーツであるジャズやヒップホップに加え、IDMやアンビエント、クラシック的要素までも取り込み、「宇宙的な交響詩」とも呼ばれる壮大なサウンドが展開された。その中で「MmmHmm」は、Thundercatとのコラボレーションにより、アルバムの中でも特にジャズ的で有機的な響きを持つトラックとなっている。
Thundercatは超絶技巧のベーシストでありながら、ファルセットの歌声を自在に操るシンガーでもある。彼がFlying Lotusと組んだことは大きな意味を持ち、この「MmmHmm」を皮切りに両者は以降も数多くのコラボレーションを重ねていくこととなった。この曲は、その後のロータス作品やサンダーキャットのソロ活動における方向性をも示唆する“重要な出会いの象徴”ともいえる。
「MmmHmm」という擬音的なタイトルは、曖昧で抽象的な世界観を体現している。具体的なメッセージではなく、音楽そのものが意味を持ち、聴き手の内面に自由な解釈を与える仕掛けなのだ。
3. 歌詞の抜粋と和訳
「MmmHmm」はほぼインストゥルメンタルに近く、Thundercatの声は言葉というよりもスキャットやハーモニーとして楽曲に溶け込んでいる。そのため明確なリリックは存在しない。タイトルである「MmmHmm」自体が最も“歌詞”に近い表現であり、声そのものが音楽的要素として扱われている。
(参照元: Genius)
4. 歌詞の考察
「MmmHmm」における声の役割は、従来のポップ・ソングにおける歌詞とは大きく異なる。ここでのヴォーカルは、言葉を伝えるためではなく、音の一部として感情や空気感を醸し出すために存在している。Thundercatのファルセットはまるで風や水のように漂い、ベースラインと絡み合いながら音の流れに身を委ねるような効果を生んでいる。
Flying Lotusのトラックは複雑に入り組んだリズムと浮遊感のある音響で構成されており、その中にThundercatの声が加わることで、曲全体がより有機的で人間的な質感を帯びている。つまり、「MmmHmm」は機械的な電子音と人間の声・演奏の融合を象徴する作品であり、それが『Cosmogramma』というアルバムの宇宙的なテーマとも呼応しているのだ。
また、「言葉にならない感覚」を音楽で表現するという点において、この楽曲は極めて重要である。人はしばしば強い感情を抱いたとき、言葉よりも呻き声や擬音に近い発声をする。「MmmHmm」というフレーズもまさにそうした感覚を体現しており、言葉を超えた共感や感情の共有を可能にしているといえる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Do the Astral Plane by Flying Lotus
同じく『Cosmogramma』収録曲で、ダンス性と実験性が融合した代表作。 - Them Changes by Thundercat
ソウルフルなベースと歌声が光るサンダーキャットの代表曲。 - Zirkl by Four Tet
ジャズ的な浮遊感とエレクトロニカ的実験が融合したトラック。 - Tides by Nujabes feat. Uyama Hiroto
ジャズとエレクトロの融合における名曲。 - Open by Rhye
ファルセットを駆使し、言葉以上に空気感を伝える親密な楽曲。
6. 現在における評価と影響
「MmmHmm」は、Flying LotusとThundercatの関係を象徴する楽曲として非常に重要な意味を持っている。両者のコラボレーションはこの後も続き、Thundercatはロータスの作品に欠かせない存在となり、また自らのソロ活動でも大きな成功を収めるようになる。その出発点ともいえる「MmmHmm」は、2010年代のビートシーンにおける「ジャズとエレクトロニカの融合」という潮流を決定づけた。
また、この曲は歌詞の少なさや抽象性ゆえに、言語を超えて普遍的に受け止められるという特質を持っている。リリースから十数年が経った今も、チルで実験的な音楽を愛するリスナーにとって欠かせない一曲であり、Flying LotusとThundercat両者のキャリアにおけるターニングポイントとして語り継がれているのである。



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