発売日: 2011年10月3日
ジャンル: ポップ、エレクトロポップ、ダンス・ポップ、ユーロダンス
概要
『Megalomania』は、デンマークのポップ・グループAquaが2011年に発表した3枚目のスタジオ・アルバムであり、2000年の『Aquarius』以来11年ぶりとなる復帰作である。
かつて「Barbie Girl」で世界中に衝撃を与えたAquaは、2000年代後半に活動を再開し、本作で“21世紀型のAqua”として再定義を図った。
アルバムタイトルの「Megalomania(誇大妄想)」には、皮肉と自己言及が込められており、90年代のカラフルでマンガ的なポップスから、より都会的で洗練されたサウンドへと大きく舵を切ったことが、この作品の最大の特徴である。
特にエレクトロポップやクラブミュージックの影響を強く受けた楽曲が多く、Aquaらしいユーモアは保ちつつも、サウンドはより“アダルト”に、そして“クール”に変化している。
この方向性の変化は、ファンの間でも賛否が分かれたが、バンドとしての成長と時代への対応を試みた野心的な一作といえる。
全曲レビュー
1. Playmate to Jesus
宗教的イメージとポップスター像を重ねた、挑戦的かつ荘厳なオープニング。ダークでシンセ中心のアレンジが印象的。
2. Dirty Little Pop Song
タイトル通り、自虐とアイロニーが詰まったエレクトロ・ポップ。ポップカルチャーへの風刺が効いている。
3. Kill Myself
衝撃的なタイトルとは裏腹に、比喩的でドラマチックな構成のラブソング。Aquaにしては珍しい重厚なエモーションが展開される。
4. Like a Robot
シンセウェイヴ調のビートに乗せて、人間と機械の境界をテーマにしたエレクトロ・チューン。冷たさの中にある感情がユニーク。
5. Viva Las Vegas
Aqua流ラスベガス讃歌。きらびやかなシンセと中毒性のあるコーラスで、アルバム中もっともパーティー感のある一曲。
6. No Party Patrol
ティーンエイジャーの夜遊びをテーマにしたダンサブルなナンバー。クラブ仕様のビートと軽やかなボーカルが特徴。
7. Come n’ Get It
Aquaの中でも最も現代的なクラブ・トラックのひとつ。ミニマルでグルーヴ重視の構成が新鮮。
8. Sucker for a Superstar
「スターに憧れる大衆心理」を歌った、アイドル文化への風刺ソング。中毒性あるメロディが光る。
9. Be My Saviour Tonight
本作でもっとも叙情的なバラード。内省的なトーンで、再出発したバンドの“心の声”が感じられる。
10. How R U Doin?
アルバムのリードシングル。シンプルなサビとクラブ仕様のアレンジが特徴で、2010年代らしいエレクトロ・ポップの完成形。
11. If the World Didn’t Suck (We Would All Fall Off)
アルバムを締めくくるユーモア満載の皮肉ソング。Aquaらしいウィットが最も炸裂する一曲であり、現実へのシニカルな眼差しが秀逸。
総評
『Megalomania』は、Aquaが“過去の自分たち”と決別し、より成熟した音楽性を模索した意欲作である。
90年代の“カートゥーン・ポップ”から脱却し、2010年代のクラブ・カルチャーやシンセウェイヴ、エレクトロ・ポップといった潮流を自分たちのスタイルに取り込もうとした結果、本作には明確な進化と実験精神が感じられる。
その一方で、初期のキャッチーさや突き抜けたポップ・ユーモアを期待するリスナーにはややとっつきにくい側面もあり、“アイデンティティの再構築”という意味では転換期的な作品ともいえる。
歌詞には自己言及的なユーモア、メディア批判、現代社会への皮肉が多く見られ、音楽面だけでなくメッセージ性においてもAquaの“知的ポップ”としての一面がより明確になっている。
『Megalomania』は、Aquaが“懐メロ”にならずに現代を生き延びようとした、静かで過激な試みの記録であり、再評価に値する野心作である。
おすすめアルバム(5枚)
- Robyn『Body Talk』
北欧発の洗練されたエレクトロ・ポップ。Aquaと共通するダンス志向と感情の強度を持つ。 - La Roux『La Roux』
80sエレクトロの再解釈と現代性の融合。Aquaのサウンド進化と重なる文脈。 - Kylie Minogue『X』
ポップアイコンによる“再構築”期のアルバム。Aquaの変化とよく似たプロセスを経た作品。 - Ladyhawke『Anxiety』
シンセ+ギターポップ+80sムードのサウンドで、Aquaの“クール寄りポップ”とも共振する。 -
Goldfrapp『Head First』
ノスタルジーと未来的エレクトロポップの融合。Aquaのモダン化した美学と相性が良い。
後続作品とのつながり
『Megalomania』は現在に至るまでAquaの最後のスタジオ・アルバムとなっており、事実上の“終章”ともいえる。
ただし、その音楽性はメンバー各自のソロ活動や、北欧ポップシーンへの影響を通じて今も息づいており、“懐かしさ”を超えて“変わり続けるAqua”の存在を静かに証明している。
本作を聴き返すことは、ポップというジャンルの進化と耐久性をあらためて問い直す行為でもある。Aquaはここで、ポップであることを“演じる”のではなく、“語る”フェーズに入ったのだ。
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