発売日: 2017年10月13日
ジャンル: アートポップ、エレクトロポップ、ニューウェーブ
Masseductionは、St. Vincent(アニー・クラーク)の5作目のスタジオアルバムであり、エッジの効いたポップサウンドと彼女独自のシニカルな視点が融合した、アーティストとしての成熟が光る作品である。前作Strange MercyやセルフタイトルのSt. Vincentで見せた実験性をさらに深め、エレクトロポップやニューウェーブの要素を取り入れ、よりパーソナルで挑戦的な内容が詰まっている。プロデューサーにはJack Antonoffが参加し、彼女のシンセやギターを基盤としたサウンドに磨きをかけ、アルバム全体にキャッチーでありながらも鋭いアプローチをもたらしている。
Masseductionは、愛や欲望、権力といったテーマが大胆に描かれ、St. Vincentの歌詞はこれまで以上に私的で鋭く、感情があふれている。「Los Ageless」や「New York」など、彼女の代表曲ともいえる楽曲が収録されており、どのトラックも感情的であると同時に、洗練されたポップセンスに満ちている。
トラックごとの解説
1. Hang on Me
シンセが鳴り響くミッドテンポの楽曲で、愛と依存をテーマにした切実なメッセージが込められている。スローテンポで静かなビートが彼女の繊細なボーカルを引き立てる。
2. Pills
アップテンポでキャッチーな一曲で、現代社会における薬物依存を皮肉った歌詞が印象的。中毒性のあるメロディとリズムが心地よく、リスナーを引き込む。
3. Masseduction
アルバムタイトル曲で、エレクトロニックなビートと歪んだギターリフが融合したダークで力強いサウンドが特徴。欲望と権力をテーマにした挑発的な一曲。
4. Sugarboy
エネルギッシュで軽快なリズムが特徴的なトラックで、セクシャリティとアイデンティティについて歌われている。サイケデリックなサウンドが新鮮で、中毒性のあるメロディが耳に残る。
5. Los Ageless
シングルとしても話題になった楽曲で、ロサンゼルスの文化と若さへの執着をテーマにした歌詞が皮肉たっぷりに描かれている。キャッチーなサビがクセになる。
6. Happy Birthday, Johnny
ピアノを基調とした静かなバラードで、St. Vincentの友人との複雑な関係が描かれている。感情的で切ないトーンが際立ち、彼女の内面に迫る。
7. Savior
フェティシズムや権力構造に言及した大胆な歌詞が特徴。エレクトロとファンクが融合したサウンドがセクシーで妖艶な雰囲気を醸し出している。
8. New York
シンプルなメロディと切ない歌詞が印象的なピアノバラードで、失われた愛への未練を描写している。St. Vincentのボーカルが感情的で、アルバムのハイライトの一つ。
9. Fear the Future
不安と希望が交錯する、アップテンポでエネルギッシュな楽曲。エレクトロサウンドが前面に出ており、St. Vincentの強いメッセージが印象的。
10. Young Lover
重厚なビートが特徴のトラックで、愛と欲望に関する痛みを描写している。エレクトロとロックが融合したサウンドが独特で、彼女の情熱的なボーカルが際立つ。
11. Dancing with a Ghost
短いインストゥルメンタルトラックで、アンビエントなサウンドが幻想的な雰囲気を演出。次のトラックへの導入として機能している。
12. Slow Disco
シンセとストリングスが美しく絡み合うスローバラードで、離れ行く愛をテーマにした切ない歌詞が心に響く。シンプルでありながらも壮大な一曲。
13. Smoking Section
アルバムを締めくくる暗くメランコリックなトラックで、孤独と自己破壊的な欲望について歌われている。St. Vincentの内面が深く表現された感動的なフィナーレ。
アルバム総評
Masseductionは、St. Vincentがアーティストとしてさらに進化し、ポップミュージックに新たな深みをもたらした意欲的な作品である。ポップでキャッチーなメロディに加え、個人的かつ鋭いメッセージが込められた歌詞がリスナーを圧倒する。エレクトロポップとアートロックの要素が見事に融合し、MasseductionはSt. Vincentの音楽的多様性と創造力を示すアルバムとして特に重要な一枚である。感情的なバラードからエネルギッシュなポップナンバーまで幅広いサウンドが楽しめ、彼女の才能が詰まった傑作である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Melodrama by Lorde
パーソナルな歌詞とエレクトロポップが特徴で、Masseductionのエモーショナルな面と共通する。
Art Angels by Grimes
ポップとエクスペリメンタルの要素が融合し、St. Vincentの大胆なアートポップサウンドと共鳴する。
Honey by Robyn
エレクトロポップと感情豊かな歌詞が特徴で、愛と孤独がテーマの一つとなっている。Masseductionファンにも響く内容。
The Future’s Void by EMA
インダストリアルとエレクトロが融合し、現代社会への批判が込められた作品で、St. Vincentのダークでシニカルな視点に近い。
How Big, How Blue, How Beautiful by Florence + the Machine
エモーショナルで壮大なサウンドが楽しめるアルバムで、St. Vincentの感情豊かなサウンドが好きなリスナーにおすすめ。
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