発売日: 1991年6月17日（オリジナル：オーストラリア）、1991年4月（UKリミックス版）
ジャンル: ダンス・ポップ、ハイNRG、ニュー・ジャック・スウィング、ユーロポップ
概要
『Love and Kisses』は、オーストラリア出身のシンガー／テレビタレント、Dannii Minogue（ダニー・ミノーグ）によるデビュー・アルバムであり、
1991年のポップミュージック・シーンにおけるティーン・ダンスポップの代表的作品として位置づけられる。
ダニーは、すでに世界的成功を収めていた姉Kylie Minogueの影響を受けつつも、
本作ではより都会的でダンサブルな方向性を明確に打ち出し、
クラブ・カルチャーやニュー・ジャック・スウィング、UKソウルの流れを大胆に取り込んだスタイルで自身の個性を確立した。
オーストラリアでは『Dannii』というタイトルで1990年に先行リリースされたが、
1991年にはUK向けにリミックス／追加トラックを加えて『Love and Kisses』として再構築され、
ヨーロッパ市場での本格デビューを飾った。
結果的に全英チャートでTop10入りを果たし、
**“姉とは異なるフィールドで勝負するポップ・ディーヴァの誕生”**として話題を呼んだ。
全曲レビュー（UK盤収録内容に準拠）
1. Love and Kisses
アルバムの象徴にして代表曲。甘くセクシーなウィスパーボイスと、跳ねるようなハイNRGビートが特徴。
「愛とキスを届けたい」という少女的なテーマを、グルーヴィに昇華した90年代らしいポップアンセム。
2. Success
自己肯定感と野心をテーマにしたアッパーなクラブ・トラック。
サビの“Success has made a failure of our home”という皮肉めいたラインが印象的。
3. So Hard to Forget
中低域が印象的なダンス・ナンバー。別れた恋人の記憶をダンスフロアで消し去るような、エスケープ的な構成が魅力。
4. Party Jam
タイトル通りのパーティー・チューン。ビート重視で、ヴォーカルよりもリズムの推進力が際立つ一曲。
5. Attitude
ニュー・ジャック・スウィング色が強いナンバー。
「態度がすべて」と言わんばかりの強気なスタンスが、ダニーのキャラクターを際立たせる。
6. Work
労働と恋の比喩を重ねたセクシーなクラブ・チューン。
“I’ll make you work for my love”というリリックが印象的。
7. Jump to the Beat
USのR&Bシンガー Stacy Lattisawの80年代ヒットのカバー。
ダンス・ポップ仕様にリメイクされ、キャッチーでライトな仕上がりに。
8. Call to Your Heart
80sバラードの余韻を残すメロウ・トラック。エレピとストリングスが切なさを演出する。
9. Baby Love
再びカバー曲。Regina BelleやMother’s Finestとは異なる、ダンサブルなUKソウルとして再構成されている。
10. True Lovers
モータウン的コード感にハウス・ビートが重なる、ソウルフルなポップ・ナンバー。
ロマンスへの理想を甘酸っぱく表現。
総評
『Love and Kisses』は、90年代初頭の**“ポップとクラブカルチャーの接近”を象徴するアルバムであり、
同時にDannii Minogueが“カイリーの妹”という肩書きを超え、自身のキャリアをスタートさせた記念碑**でもある。
その音楽性は、ユーロポップ、ハイNRG、ニュー・ジャック・スウィングといったジャンルの潮流に寄り添いつつも、
ティーン・アイドル的な無邪気さと、クラブシーンへのアプローチを兼ね備えている点がユニーク。
特にヨーロッパのゲイ・クラブシーンにおいて、本作は早くから支持され、
ダニー＝クラブの女王というイメージの原点ともなった。
プロダクションは当時のトレンドに忠実である反面、現在の耳には少しチープにも聞こえるが、
それこそが**90年代前半の“手ざわりのあるデジタル感”**の魅力ともいえるだろう。
おすすめアルバム（5枚）
- Kylie Minogue『Rhythm of Love』
姉カイリーによる同時代のダンス・ポップ作。姉妹比較が楽しい。 - Sonia『Everybody Knows』
ストック・エイトキン・ウォーターマン系のガーリー・ポップ。ダニーと音作りが近似。 - Cathy Dennis『Move to This』
R&B寄りのUKポップ。90年代初頭の女性ソロとして方向性が重なる。 - Martika『Martika』
バブルガム・ポップとアーバン・エッジを併せ持つ先駆的な存在。音の質感が共通。 - Mel & Kim『F.L.M.』
女性デュオだが、ハイNRGとポップの橋渡し的存在としてチャンネルが近い。
後続作品とのつながり
『Love and Kisses』はDannii Minogueのポップキャリアの起点として位置づけられるが、
その後彼女はよりクラブミュージック／ハウス寄りの方向へ進化していき、
『Girl』（1997）や『Neon Nights』（2003）では、ダンス・ポップアイコンとしての評価を確立するに至る。
つまり、このデビュー作は**“変身前のダニー”を記録した最初のポートレート**であり、
その中にすでに、後年の洗練された彼女の萌芽が確かに存在している。
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