ロサンゼルスの陽光のもとで結成され、1960年代のサイケデリック・ムーブメントを象徴する存在となったバンド、Love。
その中心人物であるアーサー・リーの卓越した音楽センスとカリスマ性、そしてブライアン・マクリーンをはじめとする才能豊かなメンバーが織りなすサウンドは、色彩的で幻想的なロックを創出し、多くのアーティストに影響を与え続けている。
彼らはフォークやジャズ、R&Bのエッセンスを取り込みながら、1960年代中期から後期のロサンゼルスで花開いたカウンターカルチャーを背景に、自由で先鋭的な音楽世界を形成した。
今回は、その結成から名盤『Forever Changes』を含む各アルバムの魅力、そして同時代や後世のシーンへの影響など、Loveの音楽を深く紐解いていく。
Loveの結成と背景
Loveは1965年頃、ロサンゼルス出身のアーサー・リーが中心となって結成された。
最初はリー自身が率いるThe Grass Rootsという名義だったが、同名バンドとの混同を避けるために改名し、やがてLoveというシンプルで象徴的なバンド名に落ち着く。
ヒッピー・ムーブメントやビート文化が台頭し、若者が自由な自己表現を求めて集う当時のロサンゼルスは、アーティストにとっての創造的温床であり、Loveもその流れを受けて意欲的に活動を始めたのだった。
当初はアーサー・リーのボーカルに加え、ギタリストのジョニー・エコールスやブライアン・マクリーンが加わり、エレクトラ・レコードと契約。
ロサンゼルスのサンセット・ストリップを中心にライブを重ね、スモール・クラブから徐々に評判を高めていく。
彼らのサイケデリックかつフォーキーなサウンドは、ザ・ドアーズやバッファロー・スプリングフィールドなど、同時期に活躍したロサンゼルス近辺のバンドとも呼応し合う形で注目を浴びていったのだ。
多面的な音楽性とサイケデリックの融合
Loveの楽曲を聴くと、サイケデリック・ロックという言葉だけでは片付けられないほど多様な要素が詰まっていることに気づく。
アーサー・リーの感性が生み出す独創的なコード進行や旋律に、フォーク調のギターやジャズ色のあるホーン・アレンジ、さらにはR&B由来のグルーヴ感が加わり、独自の音世界が形成されているのだ。
特に、ブライアン・マクリーンが書く繊細なメロディは、アーサー・リーのサイケデリックで攻撃的な側面と絶妙にコントラストを成し、バンドのサウンドを豊かに彩った。
その音楽性は時に儚く、時に自由奔放であり、聴き手を予測不能な迷宮へと誘う魅力がある。
代表曲の魅力
Loveは数々の名曲を残しているが、やはり最も有名なのは『Forever Changes』に収録された諸楽曲である。
ブライアン・マクリーンが書いた「Alone Again Or」は、フォーク色の強い穏やかなメロディラインと、ホーンや弦楽器の優美なアレンジが溶け合い、どこかラテン風のリズムさえ感じさせる独特の世界観を生み出した。
一方、アーサー・リーの筆による「You Set the Scene」や「A House Is Not a Motel」などは、ロサンゼルスの陽気とは裏腹な幻惑的かつ切なさをはらんだ作風が胸を打つ。
きらびやかなホーンやアコースティックギター、時に歪んだ電気ギターが入り乱れながらも、バンドの一体感が崩れないのは、高い演奏力と豊かな構成力の賜物といえるだろう。
アルバムごとの進化
アルバム『Love』（1966年）
エレクトラ・レコードとの契約後、1966年に発表されたデビューアルバム『Love』は、ガレージロックやフォークロック、そしてブルージーな感覚を混在させた初期の勢いが感じられる作品である。
中にはバート・バカラックの名曲「My Little Red Book」のカバーも収録され、Loveの荒削りなエネルギーが詰まっている。
当時のサンセット・ストリップの活気や、若いバンドならではの情熱と実験精神が強く反映されていることから、多くのロックファンが注目し始めるきっかけとなった。
アルバム『Da Capo』（1966年）
同年に続けてリリースされた『Da Capo』では、1曲目の「Stephanie Knows Who」からスリリングなサイケデリック・サウンドが炸裂する。
後半には「Revelation」という約19分にも及ぶ長尺ジャムが収められており、ジャズやラテン、ブルースを縦横無尽に取り込む試みが印象的だ。
ブライアン・マクリーンの「She Comes in Colors」など、ポップでメロディアスな楽曲との対比も鮮やかで、Loveというバンドの多面的な才能を存分に感じることができる。
アルバム『Forever Changes』（1967年）
Loveの代名詞といえば、やはり1967年の『Forever Changes』であろう。
当時は制作費も十分に確保され、ストリングスやホーンセクションが大胆に導入され、スタジオ技術を駆使した繊細なサイケデリック・ポップが完成した。
アーサー・リーは自身の身の回りの出来事から社会情勢、そして個人的な内面風景を歌詞に落とし込み、そこにカリフォルニアの陽気と不穏さが絡み合うような摩訶不思議な世界を描き出している。
このアルバムはロック史において“究極のサイケデリック・アルバム”とも評されることが多く、発売当初は商業的に大きな成功を収めたわけではなかったが、徐々にカルト的な人気が高まっていった。
やがて時代を超えて再評価されると共に、ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』やビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』に並ぶ名盤として語られるようになる。
アルバム『Four Sail』（1969年）以降
『Forever Changes』の後、バンドの内部事情や音楽性の方向性の違いもあり、メンバーの脱退や入れ替わりが相次ぐ。
1969年に発表された『Four Sail』では、サイケデリック要素がやや影を潜め、よりロック的なダイナミズムが強調されたサウンドへと変化していく。
アーサー・リーのボーカルは一層ソウルフルになり、ギターリフやリズムの骨太さが増しているが、それでも曲の節々には幻想的な香りが漂い、Loveらしさは健在である。
さらに1970年の『Out Here』や『False Start』、そして1974年に出された『Reel to Real』などを経るうちに、シーンの潮流が大きく変化し、Loveは徐々に表舞台から姿を消していく。
ただし、アーサー・リー個人としては再結成の試みやソロ活動を続けるなど、“Loveの精神”を絶やすことなく模索し続けたのである。
影響を受けたアーティストと時代背景
Loveのメンバーはそれぞれがビートルズやストーンズ、R&B、ジャズ、さらにはクラシック音楽など、幅広いジャンルからの影響を受けていた。
アーサー・リーは幼少期からソウルやブルースに親しみ、独特のグルーヴ感を自然に身につけていた一方、ロサンゼルスの芸術的な空気に触れながらサイケデリック・カルチャーへと傾倒していった。
その結果、彼の世界観は単なるロックの範疇を超え、より実験的かつ繊細な美意識へと昇華されていく。
また、バンドの友人関係やライブハウスでの交流からは、ザ・ドアーズやバッファロー・スプリングフィールドといった同時代のバンドへの影響や刺激も多かったとされる。
特にザ・ドアーズのジム・モリソンは、アーサー・リーのカリスマ性に強く心を動かされた一人であり、逆にモリソンから学ぶことも多かったという逸話が残っている。
Loveが与えたインパクトと再評価
Loveはストリングスやホーンを取り入れた独特のサイケデリック・ポップを牽引した存在であり、後のポスト・パンクやネオ・サイケデリックのムーブメントに直接・間接に影響を与えたとも言われている。
1970年代後半から1980年代にかけて、パンクやニューウェーブが台頭する中で、当時埋もれていたLoveの作品群が熱心なコレクターやミュージシャンによって掘り起こされ、その芸術性が再評価されたのだ。
特にイギリスのロック・シーンでは、Loveの『Forever Changes』を絶賛するアーティストが相次ぎ、エコー&ザ・バニーメンやストーン・ローゼズなどもLoveの精神をリスペクトしている旨をしばしば公言している。
こうした動きが広がっていくことで、Loveのアルバム再発やCD化、アーサー・リーの再結成ライブなどが行われ、ファンのみならず若い世代の音楽リスナーにとっても重要なバンドとして認識されるようになった。
バンドを取り巻くエピソードや逸話
Loveに関するエピソードの中で、特に有名なのはアーサー・リーの“孤高”と呼べるような姿勢である。
彼はその奔放な発言や奇行によって時折トラブルを招きながらも、音楽に対しては徹底した美学を貫き、バンドメンバーとの関係が揺れ動いても自身の創造性を曲げなかった。
それが結果的にバンドの方向性を複雑化させた側面もあるが、その一方で唯一無二の音楽性を守り続けたとも言えるだろう。
また、ロサンゼルスの住居を拠点に、幾度となく行われたセッションやパーティでは、他のアーティストが出入りしながらインスピレーションを交換し合っていたとも言われている。
そこには当時のドラッグカルチャーやヒッピー文化の匂いが濃厚に立ち込め、Loveのサウンドにもその自由奔放な空気が色濃く溶け込んでいるのだ。
まとめ
Loveは1960年代後半のロサンゼルスで、フォークやR&B、ジャズ、そしてサイケデリック・ロックの要素を融合しながら唯一無二の音楽を生み出したバンドである。
アーサー・リーというカリスマ的な存在が放つ創造力と、ブライアン・マクリーンをはじめメンバーそれぞれの才能が結晶した『Forever Changes』は、今やロック史に刻まれる大名盤として多くの音楽ファンに敬愛されている。
彼らの音楽を深掘りすると、カリフォルニアの明るさと、その裏にある混沌や憂鬱といった二面性が織り込まれた独特の空気感が浮かんでくる。
リスナーはそこに時代を超えた美しさや、自由でありながらもどこか儚いメッセージを見出すのかもしれない。
決して大きな商業的成功を収めたわけではないが、その影響力と芸術性は後世のロックバンドやミュージシャンに連綿と受け継がれ、さらに新しい解釈が加わりながら生き続けている。
Loveは、1960年代カウンターカルチャーの体現者であると同時に、現在のリスナーにとっても新鮮なインスピレーションを与えてくれる存在なのだ。
彼らの音楽を紐解けば、そこにはサイケデリック・ロックの枠を超えた普遍的な魅力が広がっている。
美しくも儚い旋律、幻想的なアレンジ、そしてアーサー・リーの並外れた個性によって生まれたサウンド――この世界に一度足を踏み入れると、二度と抜け出せなくなるような深い魔力を帯びているのである。
それこそが、Loveというバンドがいまだに愛され続ける、時代を超える理由ではないだろうか。
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