1. 歌詞の概要
「Loud Music」は、ミッシェル・ブランチが2011年にリリースしたシングルであり、当初はアルバム『West Coast Time』に収録される予定だったが、結果的にそのアルバムは正式にリリースされず、この曲は彼女の“未完の変化”を象徴する楽曲として特異な存在感を放っている。
この曲の核にあるのは、文字通りの「大音量の音楽」だが、それは単なる音響の話ではない。恋人との関係や情熱、あるいは記憶と時間の中で鳴り響き続ける“心の中のノイズ”としての「音楽」がモチーフとなっている。ロックンロールが象徴する自由さや若さ、そして衝動。それらが恋愛というテーマと交差し、ノスタルジックでありながらも躍動的な空気感を生み出している。
冒頭の歌詞で引用されるLed ZeppelinやJimi Hendrixの名前は、ただの音楽的引用にとどまらず、「自分が何に熱狂していたのか」「どんな愛に酔っていたのか」を回想するための扉のような役割を果たしている。つまりこの楽曲は、恋の記憶を“轟音”というイメージで反芻する、きわめて個人的で情熱的なナンバーなのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Loud Music」は、ミッシェル・ブランチが2000年代のアコースティック・ポップのイメージから脱却しようとした時期に生まれた作品である。彼女は2003年の『Hotel Paper』以降、様々な変遷を経て、カントリー・ユニット「The Wreckers」やソロ活動を通じて音楽的幅を広げていた。
しかし2011年、再びポップ・ロックに回帰するかのようにこの「Loud Music」を発表する。サウンドは、往年のロックンロールへのオマージュと、現代的なポップ感覚の融合といった印象で、ギターを前面に出したパワフルなアレンジが特徴である。
この楽曲は、かつて彼女の音楽に惹かれたファンにとっても、どこか懐かしく、それでいて新鮮に響いた。予定されていたアルバム『West Coast Time』の方向性を示すリードシングルだったが、同アルバムはリリース延期を経て頓挫し、本作は宙ぶらりんのまま、時代の片隅に置かれてしまった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Turn it up, it’s my song
音を上げて、これは私の歌なのI can’t sing but I’ll sing along
上手く歌えないけど、一緒に歌うよI can feel it in my bones
骨の奥まで響いてくるA little rock, a little roll
ロックもあって、ロールもあってIt’s loud music
それは“ラウド”な音楽Some Led Zeppelin and some more
レッド・ツェッペリンをちょっと、それからもっとHendrix on the radio
ラジオからはジミ・ヘンドリックスが流れてるA little loud, a little raw
少しラウドで、少し荒々しいCome on baby, play me something I want
ねえ、私の聴きたいものをかけてよ
引用元:Genius Lyrics – Michelle Branch / Loud Music
4. 歌詞の考察
この曲の最大の魅力は、「音楽」それ自体が感情のメタファーとして機能している点にある。レッド・ツェッペリンやジミ・ヘンドリックス、あるいはロックンロールの衝動性。それらはすべて、“あなたとの関係”を再生させる触媒として歌詞に登場する。
冒頭の「I can’t sing but I’ll sing along(上手く歌えないけど、一緒に歌うよ)」という一節には、自己表現へのためらいと、それでも何かに共鳴したいという欲求が同時に現れている。それはまさに、恋愛における「不器用な情熱」のようでもある。
この曲は、過去への郷愁や未練を「ノイズ」に置き換えることで、決してセンチメンタルにはならない。それどころか、「騒がしいままでもいい」と自分の感情を肯定しているようにも聴こえる。それは、ポップスにおける“感情の整頓”とは異なる、ロック的な“そのままの自分”の肯定である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Are You Gonna Be My Girl” by Jet
ロックンロールの衝動と恋愛の高揚感が詰まったガレージ風ナンバー。 - “Suddenly I See” by KT Tunstall
女性の自己覚醒と音楽への愛が重なる、ギター駆動のパワーポップ。 - “One Way or Another” by Blondie
しつこくて情熱的な恋を追いかける女性像をラウドに描いた名曲。 - “Soak Up the Sun” by Sheryl Crow
軽快なギターと共に、過去を引きずらない明るさを感じさせるポップロック。 -
“A Thousand Miles” by Vanessa Carlton
情熱と切なさが同居するメロディーで、心の旅路を描いたピアノ・ポップ。
6. 特筆すべき事項:幻のアルバムが残したもの
「Loud Music」は、発表当時予定されていたアルバム『West Coast Time』の一部としてリリースされたが、結局アルバムは完成しながらも未リリースとなり、ファンの間では“幻の名作”として語られることとなる。ミッシェル・ブランチにとって、この時期は商業的期待とアーティストとしての自我が複雑に絡み合った過渡期であり、「Loud Music」はその心情が端的に反映された一曲だった。
彼女はその後、音楽活動を一時休止したり、レーベルとの契約問題に悩まされたりすることとなるが、この楽曲には、そうした混乱の中でもなお、音楽へのピュアな情熱が確かに息づいている。
「大音量の音楽」とは、外界の喧騒だけでなく、内面の叫びでもある。この曲を聴くたびに、私たちは“感情のボリューム”を上げる勇気を少しもらえるのかもしれない。ミッシェル・ブランチはこの楽曲で、時代に飲み込まれずに“自分のリズム”で生きることの美しさを静かに語っている。
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