発売日: 2016年10月
ジャンル: アダルト・コンテンポラリー、フォーク、ヒーリング、スピリチュアル
概要
『Liv On』は、Olivia Newton-John がBeth Nielsen Chapman、Amy Skyとともに2016年に発表したアルバムで、
彼女の晩年の音楽活動の中でも最も“癒し”と“寄り添い”に特化した作品である。
テーマは明確で、
喪失、悲しみ、癒し、希望、そして“生き続ける”こと（Liv On）。
メンバー3人はいずれも大切な人を失った経験を持ち、
その痛みをどのように受け止め、どのように前へ進んでいくかという物語を
音楽を通して優しく共有している。
そのため本作は“弔いの歌”でありながら、同時に“再生の歌”でもある。
サウンドはアコースティック中心で、ギター、ピアノ、ストリングスが控えめに広がり、
Olivia の成熟した声はBeth、Amy の温かいハーモニーと溶け合うように響く。
3人の声の相性が驚くほど良く、まさに“寄り添う声のアンサンブル”がアルバムの核となっている。
激しい展開はなく、アルバム全体は祈るような静けさに包まれ、
悲しみを抱える人が“呼吸を整えられる場所”を作り出している。
全曲レビュー
1. My Heart Goes Out to You
悲しみの中にいる人へ“心があなたのもとへ向かっている”と優しく呼びかけるオープニング。
3人の声が柔らかく重なり、深い安心感をもたらす。
2. Live On
タイトルとなった“Liv On（生き続ける）”の精神を象徴する楽曲。
喪失を受け止めながら、それでも未来へ進む力を静かに示す。
Olivia の声が特に穏やかで、慈愛に満ちている。
3. Stone in My Pocket
心の中に残る重石を象徴した曲。
フォーク寄りのアレンジで、Beth の歌声が中心だが、Olivia のハーモニーが温度を加える。
4. Sandbox Love
幼い頃の純粋な愛や思い出をテーマにした温かいナンバー。
“砂場のような愛”という比喩が優しい。
5. Forever Blue
深い喪失感を描くバラード。
Olivia の声の陰影が大人の痛みを静かに表現している。
6. Willing to Learn
悲しみを拒否するのではなく“学びとして受け止める”という視点を持った楽曲。
柔らかいギターのアルペジオが美しい。
7. You Are Not Alone
タイトル通り“あなたはひとりじゃない”という慰めの歌。
Olivia の声が最も前に出ており、本作のハイライトのひとつ。
8. I Think I Love You
恋愛ではなく、喪失と再生を経た“愛の再認識”を歌う優しい楽曲。
コーラスが暖かく包み込む。
9. Grace and Gratitude (New Version)
2006年作の再録。
祈りと感謝をテーマにした彼女の代表的スピリチュアル曲が、3人のハーモニーによってより深い光を帯びている。
10. There’s Still My Joy
アルバムの核心。
絶望の中でも“喜びは消えない”という希望を静かに伝える名曲で、
Olivia、Beth、Amy の声が涙のように溶け合う。
総評
『Liv On』は、Olivia Newton-John の晩年の作品群の中でも群を抜いて精神的深度の高いアルバムである。
喪失や悲しみという重いテーマを扱いながら、
音楽は決して暗く沈み込まない。
むしろ、痛みを抱える人が“そっと立ち上がれる光”を丁寧に灯すような作品である。
Olivia の声は年齢を重ねてさらに柔らかく、深く、温かい。
声量ではなく“温度”で寄り添う歌唱が、アルバム全体に穏やかな祈りの気配を与えている。
Beth、Amy とのハーモニーは、まるでひとつの生命体のように溶け合い、
“声の抱擁”とも言える美しさを生み出す。
本作は、ただの音楽作品ではなく、
悲しみの時間を生きるための伴走音楽であり、
人生の後半でOlivia Newton-John が辿り着いた
“癒しのアーティスト”としての姿がもっとも純粋に表れたアルバムでもある。
おすすめアルバム（5枚）
- Grace and Gratitude / Olivia Newton-John
スピリチュアルな世界観と“癒し”の核心を共有する姉妹作。 - Gaia: One Woman’s Journey / Olivia Newton-John
心の旅と精神的再生の源流にある重要作。 - Stronger Than Before / Olivia Newton-John
女性の強さと癒しをテーマにした前作的ポジション。 - Susan Boyle / Hope
ヒーリング要素と祈りのテーマが共通する。 - Amy Sky / Cool Rain
コラボメンバー自身のヒーリング的作品として関連性が高い。
制作の裏側（任意セクション）
『Liv On』の制作は、3人それぞれの喪失体験を共有するセッションから始まった。
痛みをただ悲しむのではなく、“音楽によって救いを届けたい”という共通意識が強く、
その姿勢はアレンジや歌詞の随所に表れている。
録音はアコースティック中心で、余計な装飾を極力排除。
声のハーモニーがもっとも美しく響くように、
楽器は“声の背景”として機能するよう配置され、
プロダクション全体が“呼吸する音楽”となるよう設計された。
アルバム全体は、まるで一冊の心のセラピー本のような構造で、
リスナーが自分自身の痛みと向き合い、
再び前へ向かう力をそっと取り戻せるように作られている。
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