発売日: 2012年11月12日
ジャンル: ポップ、アダルト・コンテンポラリー、ホリデー・ポップ
概要
『Light Up the World』は、Stepsが2011年に再結成を果たした後、
10年以上ぶりに発表したスタジオ・アルバムであり、初の“ホリデー・アルバム”でもある。
かつてユーロポップの王道をひた走っていた彼らにとって、
この作品は“懐かしさ”だけでなく“今の自分たち”を提示する意義深いリリースだった。
ダンスビートを排した構成や控えめなプロダクションは、
かつての賑やかさとは一線を画し、穏やかで温もりある音楽性を志向している。
多くの収録曲がホリデーシーズン向けのカバーで構成されており、
新曲としては表題曲「Light Up the World」のみが含まれる。
その選択は商業的冒険を避けたようにも映るが、グループの絆や声の重なり、成熟を丁寧に示した一作として再評価されつつある。
全曲レビュー
History Is Made at Night
1950年代のブロードウェイ的ムード漂う、ジャジーでしっとりとしたカバー。
ハーモニーを前面に出したアレンジで、夜の静寂と恋の予感を織り交ぜた一曲。
グループ全員が抑えた演技で歌唱しており、表現の幅が増している。
Overjoyed
Stevie Wonderの名バラードをリスペクトしたアレンジで再現。
ピアノとストリングスを基調とし、情感豊かなリードヴォーカルが際立つ。
音数を抑えた構成が声の表情を丁寧に浮かび上がらせている。
It May Be Winter Outside
バリー・ホワイトのクラシックソウル曲を甘く切ないポップバージョンに。
サビの多重コーラスが暖かく、ホリデー感と懐かしさが見事に溶け合う。
季節感を大切にした選曲の妙が光る。
When She Loved Me
Pixar映画『トイ・ストーリー2』で知られるサラ・マクラクランの名曲のカバー。
Steps史上最も繊細で感傷的なパフォーマンスの一つ。
“彼女に愛されていた頃”という普遍的なテーマを、多層的な声で包み込む。
Christmas (Baby Please Come Home)
原曲の力強さに比べて、柔らかく丁寧なアレンジが特徴。
祝祭の喜びというよりも、静かな祈りのような響きが全体を包んでいる。
Stepsらしい明るさは控えめだが、逆に成熟した雰囲気を醸し出す。
Please Come Home for Christmas
ブルース調の哀愁ある楽曲を、よりポップに再構築。
グループ全体で紡がれるコーラスが、孤独なクリスマスに寄り添う温もりとなって響く。
Light Up the World
唯一のオリジナル曲にしてアルバムの中心。
しっとりとしたバラードだが、メロディには希望と再生への願いが込められており、再結成後のStepsの在り方を象徴する。
静かに、しかし確かに心を照らす一曲。
One Less Bell to Answer
バート・バカラックの名曲をカバー。
淡々としたメロディの中に日常の悲しみを滲ませる歌唱が光る。
Stepsが見せた“哀しみのリアリズム”がここにある。
Have Yourself a Merry Little Christmas
王道中の王道を、Stepsらしいコーラスと控えめな楽器編成でしっとりと歌い上げた。
誰もが知る楽曲を、個性ではなく誠実さでカバーした姿勢に深みを感じる。
In the Bleak Midwinter
伝統的なイギリスのクリスマス・キャロルをシンプルに再解釈。
アルバムのラストにふさわしい静謐さで、まるで雪の中に佇むような感覚を与えてくれる。
総評
『Light Up the World』は、「再結成」という言葉にふさわしい音楽的誠実さに満ちたアルバムである。
決して派手ではないが、その分だけ丁寧で、繊細で、
そしてなによりも「音楽を続ける」ことそのものへの愛が感じられる。
再始動において、かつてのヒット曲をリミックスする道もあった中で、
Stepsが選んだのは**“時間と共に変化した自分たちの声”と向き合うという真摯な選択だった**。
本作は、往年のファンにとっては懐かしさと安らぎを与え、
新たなリスナーにとっては、アイドルグループの“その後”を示す静かなドキュメントとなる。
タイトル曲「Light Up the World」に象徴されるように、
このアルバムは賑やかさではなく、ひとりひとりの心をやわらかく照らす光なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
- Il Divo『Christmas Collection』
クラシカルかつドラマティックなホリデーソング集。 - Westlife『The Love Album』
男性ポップグループによるバラード中心のカバー集として通じるものがある。 - Michael Bublé『Christmas』
現代的で洗練されたホリデー・ポップの王道作。 - Sarah McLachlan『Wintersong』
同様に静かな冬のアルバムとして親和性が高い。 - Boyz II Men『Let It Snow』
R&B寄りの暖かさを感じさせるホリデーアルバム。
8. ファンや評論家の反応
リリース当初は、「ダンスのないSteps」への戸惑いから、評価は分かれた。
しかしその後のライブやTV出演で本作の楽曲が披露されるにつれ、
メンバーのヴォーカル力と解釈の深さが再評価され、アルバム全体の評価も上昇していった。
特に「When She Loved Me」や「Light Up the World」は、
ファンの間で“涙腺ソング”として語り継がれている。
この作品は、派手なリリースではなかったかもしれない。
だが、“再結成の祝祭”を超えた、アーティストとしての再出発の意思表示でもあったのだ。
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