発売日: 2011年1月25日
ジャンル: インディーフォーク / ポップ / アートロック
Iron & Wineの4作目のスタジオアルバムであるKiss Each Other Cleanは、サム・ビームがその音楽的ビジョンをさらに広げ、これまで以上にポップで洗練されたサウンドを追求した作品である。本作では、彼の初期のアコースティックフォークスタイルからさらに進化し、1970年代のポップやソウル、アートロックの影響を大胆に取り入れている。
アルバム全体を通じて、管楽器やシンセサイザー、ボーカルハーモニーなどの豊かなアレンジが施され、明るいメロディと複雑な歌詞が対比を成している。サム・ビームの叙情的な歌詞と美しいメロディは健在でありながら、新たな音楽的挑戦が光る一枚だ。
トラック解説
1. Walking Far from Home
アルバムのオープニングを飾る壮大なトラック。エコーのかかったボーカルとアンビエントなサウンドが印象的で、ビームの旅と発見のテーマを象徴する詩的な歌詞が心に響く。
2. Me and Lazarus
ジャジーなリズムと軽快なホーンセクションが特徴の楽曲。復活の物語をもとに、社会や個人の再生をテーマにした歌詞がユニークだ。
3. Tree by the River
アルバムの中でも特に親しみやすいポップソング。甘酸っぱい思い出とノスタルジアを描いた歌詞と、優しいメロディが耳に残る。
4. Monkeys Uptown
グルーヴィーで実験的なトラック。繰り返されるビートとシンセサウンドが、ビームの独特な歌詞の世界観を際立たせている。
5. Half Moon
美しいボーカルハーモニーが際立つ楽曲。愛と自然をテーマにした詩的な歌詞が、柔らかなメロディと調和している。
6. Rabbit Will Run
アルバムの中で最も実験的なトラックの一つ。ジャズとアフロビートの影響を感じさせるリズムと、象徴的な歌詞が聴き手を引き込む。
7. Godless Brother in Love
静かで穏やかなフォークバラード。アコースティックギターとビームの優しいボーカルが、深い感情を引き出す。
8. Big Burned Hand
ファンキーなホーンセクションとエネルギッシュなリズムが目立つトラック。スピリチュアルなテーマを大胆に取り入れた歌詞が興味深い。
9. Glad Man Singing
明るいポップメロディと複雑なアレンジが特徴的。幸福感と不安のコントラストが歌詞に反映されている。
10. Your Fake Name Is Good Enough for Me
アルバムを締めくくる壮大なトラック。複数のパートに分かれた楽曲構成がドラマチックで、希望と変化をテーマにした歌詞が深い余韻を残す。
アルバムの背景: さらなる進化と挑戦
Kiss Each Other Cleanは、Iron & Wineがアコースティックフォークの枠を超え、よりポップで大胆な音楽性を追求したアルバムである。これまでの作品では控えめだったエレクトリックサウンドやホーンセクションが積極的に取り入れられ、サウンドスケープが一層豊かになった。
また、歌詞の面でも、宗教や再生、記憶といったテーマが巧みに織り交ぜられ、リスナーに深い印象を与える。初期のローファイな親密さとは異なるが、ビームの詩的な視点と感情豊かな表現は変わらず、彼の音楽的な進化を見事に示している。
アルバム総評
Kiss Each Other Cleanは、Iron & Wineが新たな音楽的領域を開拓し、フォークからアートポップへの進化を果たした意欲作である。多彩な楽器とアレンジによる洗練されたサウンドが、彼のソングライティングの深みと複雑さを引き立てている。
初期の作品に親しみを感じていたリスナーにとっては驚きがあるかもしれないが、このアルバムは彼の音楽的な幅広さを証明するものとなっている。ポップやアートロックに興味のあるリスナーにとっても、新たな発見が得られる一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
The Shepherd’s Dog by Iron & Wine
多彩なアレンジと実験的なサウンドが、本作と共通する前作。
Illinois by Sufjan Stevens
複雑なアレンジと多彩な楽器使いが印象的な作品で、Iron & Wineの本作と響き合う。
Sea Change by Beck
感情豊かな歌詞と洗練されたサウンドが共通するアルバム。
For Emma, Forever Ago by Bon Iver
内省的なフォークの美しさを追求した作品で、Iron & Wineファンにもおすすめ。
Father of the Bride by Vampire Weekend
多様なジャンルを融合させた洗練されたサウンドが、本作のポップな面と重なる。
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