発売日: 2001年8月27日
ジャンル: ポップ、R&B、ダンス・ポップ
概要
『Kingsize』は、Fiveが2001年にリリースした3作目のスタジオ・アルバムであり、彼らのキャリアにおける一つの終着点でありながら、最も大胆かつ成熟した作品でもある。
前作『Invincible』の成功を経て、Fiveは“単なるボーイバンド”からの脱却を目指していた。
『Kingsize』にはその意志が色濃く反映されており、音楽的にはよりR&Bやアーバン・ポップに接近し、ヴォーカルの深みやサウンドの質感が格段に進化している。
しかしながら、アルバムの完成を待たずしてメンバーのショーンが脱退、さらに本作のプロモーション期間中にグループは解散を発表。
そのため、商業的には前作に及ばなかったが、内容的には最も洗練されており、再評価の声も多い。
タイトルの『Kingsize』には、“最大級の自信とスケール”という意味が込められており、Fiveの音楽的野心が結晶化した作品である。
全曲レビュー
Let’s Dance
オープニングを飾るにふさわしい、疾走感あふれるダンス・チューン。
ディスコ・ファンクの要素と2000年代的なエレクトロ・ポップが融合し、彼らの成熟したパーティー感覚を示している。
シンプルながら中毒性のあるフックが光る。
Lay All Your Lovin’ on Me
タイトルはABBA風だが、中身はR&B色の濃い情熱的なナンバー。
ラップパートとメロウなコーラスのコントラストが印象的で、大人の恋愛をテーマにした歌詞が新鮮だ。
Rock the Party
5iveらしい煽り系トラックの進化形。
サンプリングの巧みさと、ドラムの重量感が相まって、ライヴでの盛り上がりを意識した構成となっている。
「Let’s rock the party all night long」というフレーズが象徴的。
Closer to Me
本作のバラード・ハイライトであり、後に解散のタイミングでシングルカットされたことも象徴的。
友情と別れ、そして感謝の気持ちを込めた歌詞がファンの心を打つ。
優しいストリングスとピアノに支えられた、感情豊かなヴォーカルが際立っている。
Hear Me Now
メンバーの内面的な葛藤を描いたパーソナルな曲。
「声を聞いてくれ」という切実な叫びが、ファンに向けた最後のメッセージのようにも思える。
グループの終焉を予感させるようなトーンが漂う。
Let’s Get It On
タイトルはマーヴィン・ゲイを想起させるが、こちらはアップテンポなポップ・ナンバー。
恋の駆け引きを軽やかに描いた楽曲で、サビの盛り上がりが心地よい。
Feel the Love
ゴスペル的な要素が盛り込まれた意欲作。
コーラス・ワークの厚みとリズム・セクションの重層性が、Fiveの進化を物語っている。
「愛を感じろ」というストレートなメッセージが時代を超えて響く。
We’re Going All Night (You Make Me High)
クラブ・アンセム的な側面を持つパーティー・チューン。
2000年代初頭のUKポップが持つ洗練されたプロダクションが印象的。
Take Your Chances on Me
ラヴソングながら、どこか切ない余韻を残すミディアムテンポの楽曲。
恋愛だけでなく、未来への一歩を踏み出す勇気の歌にも聞こえる。
Something in the Air
浮遊感のあるトラックで、アルバム全体の中では異色の存在。
夢と現実の狭間を描いたような、メタファーに富んだ歌詞が特徴的。
Breakdown
エッジの効いたエレクトロ・サウンドと、感情をむき出しにしたヴォーカルが交錯するダークな一曲。
恋愛の崩壊と再生を描いた内容で、音楽的にもリリカルにも挑戦的である。
総評
『Kingsize』は、Fiveのキャリアにおいて最も完成度の高いアルバムであり、同時に彼らの“終章”でもある。
音楽的には、ヒップホップとポップの融合から始まったFiveのサウンドが、R&B、ゴスペル、エレクトロへと広がり、非常に豊かな音楽的地平を見せている。
全体を通じて、“自分たちのアイデンティティをどう保つか”という内省が通奏低音として流れており、それが『Closer to Me』や『Hear Me Now』といった曲に昇華されている。
また、歌詞には「成長」「別れ」「感謝」「再出発」といったテーマが繰り返し現れ、まるでグループの幕引きを彼ら自身が意識していたかのような印象を与える。
この作品がリリースされたのち、Fiveは活動を停止し、以降は再結成やベスト盤での再評価が進んだが、『Kingsize』はその真価が十分に理解されていない“隠れた名盤”ともいえる。
彼らの変化と成熟、そして終わりを、美しいかたちで記録した記念碑的アルバムである。
おすすめアルバム(5枚)
- A1『Make It Good』
Fiveと同時期に活動したUKボーイバンドによる、成熟したサウンドへの挑戦作。 - O-Town『O2』
ボーイバンドでありながらR&Bとエレクトロ要素を取り入れたアルバムで、同時代的な響きが共通。 - Take That『The Circus』
再結成後に成熟したポップ路線で復活したTake Thatの一作。『Kingsize』の“終章感”と共鳴する。 - Blue『Guilty』
R&B色の濃いUKボーイバンドの代表作で、Fiveのラストアルバムとの比較が面白い。 - Justin Timberlake『Justified』
ボーイバンド出身者によるソロ作だが、Fiveの『Kingsize』が示唆した可能性の“その先”を描いた作品。
10. ビジュアルとアートワーク
『Kingsize』のジャケットは、黒を基調とした背景にスーツ姿のメンバーが並ぶ洗練されたビジュアルで、初期のカジュアルでヤンチャなイメージとは対照的である。
この変化は、音楽的成熟とともに“自分たちの表現者としての位置づけ”を再定義しようとした姿勢を反映している。
また、プロモーションではモノトーンや照明を活かした映像が多用され、2000年代初頭の都会的なクールさを印象付けた。
MTV時代の終焉と共に、よりアーティスティックなビジュアルへの移行を象徴するアルバムでもあった。
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