
発売日: 2022年5月27日
ジャンル: ポップ、オルタナティブポップ
失われた無邪気さと現実の狭間——Tate McRaeの本格デビューアルバム
カナダ出身のシンガーソングライター Tate McRae にとって、I Used to Think I Could Fly は、彼女のキャリアの新たなフェーズを象徴する本格的なデビューアルバムだ。
デビューEP Too Young to Be Sad(2021年)で若いリスナーの心を掴み、TikTokを中心に大きな話題となった彼女は、本作でより洗練されたプロダクションと、多面的な感情表現を取り入れた楽曲 を展開。ポップとオルタナティブの要素を巧みに融合させながら、10代ならではの自己疑問、恋愛の苦悩、失望、そして成長といったテーマを深く掘り下げている。
アルバムタイトル I Used to Think I Could Fly は、かつては何でもできると思っていたが、現実と向き合ううちにその幻想が壊れていく という成長の痛みを象徴しており、アルバム全体を貫くコンセプトとして反映されている。
全曲レビュー
1. ?
アルバムのイントロダクション。ピアノとエモーショナルな独白のようなボーカル で幕を開け、Tate のパーソナルなストーリーへの導入となる。
2. Don’t Come Back
エレクトロポップの要素を取り入れたエネルギッシュな楽曲。失恋後の立ち直りをテーマにし、力強いビートとキャッチーなメロディが特徴的。
3. I’m So Gone
アップテンポなトラックで、自己発見と前向きな変化を歌う。McRae のヴォーカルにエフェクトがかかり、モダンなポップサウンドに仕上がっている。
4. What Would You Do?
シンプルなピアノとビートが際立つ楽曲で、報われない恋愛のもどかしさを描く。繊細ながらも鋭いリリックが特徴的。
5. Chaotic
アルバムの中でも特に内省的なバラードで、成長の痛みや自己疑問を率直に表現 した歌詞が胸を打つ。McRae のシンプルで感情的な歌い方が、リスナーの共感を誘う。
6. Hate Myself
メロウなメロディとエレクトロニックなビートが交差する楽曲。タイトル通り、自己嫌悪と恋愛のもつれを描いた エモーショナルな歌詞が特徴的。
7. She’s All I Wanna Be
本作のリードシングルで、ポップロック的なアプローチを取り入れたアップテンポな楽曲。元恋人が新しい相手を見つけることへの嫉妬と自己不信をテーマにした、切なくもキャッチーなナンバー。
8. Boy X
ミニマルなピアノと静かなボーカルが際立つ楽曲。10代の恋愛のもろさと儚さを描き、McRae のシンガーソングライターとしての繊細な一面が感じられる。
9. You’re So Cool
シンセサイザーを多用したモダンなポップトラック。タイトルとは裏腹に、表面上は完璧に見える相手の裏側を暴く皮肉な歌詞が印象的。
10. Feel Like S
ジャジーなコード進行が印象的な楽曲。R&Bの要素を取り入れつつ、落ち込んだときの自己憐憫と向き合う心情を歌う。
11. Go Away
シンプルなピアノとビートを組み合わせた切ないバラード。別れた相手に対する未練と感情の整理ができない苦悩 を率直に描いた楽曲。
12. I Still Say Goodnight
アルバムの締めくくりにふさわしい、静かで感動的なバラード。未練と愛の名残を歌い、アルバム全体のテーマである「過去との決別と成長」 を象徴するような楽曲。
総評
I Used to Think I Could Fly は、Tate McRae がソングライターとして、そしてポップアーティストとして本格的に開花した作品 であり、彼女の持つエモーショナルなボーカルと洗練されたプロダクションが存分に発揮されたデビューアルバムとなった。
本作では、ポップ、R&B、オルタナティブポップ、ポップロックの要素を巧みに組み合わせながら、10代から20代へと移行する中での成長の痛みや恋愛の複雑さを描いている。
特に、「You Broke Me First」のようなミニマルでエモーショナルな楽曲のスタイルを発展させつつ、「She’s All I Wanna Be」ではよりダンサブルでパワフルなポップソングにも挑戦しており、彼女の音楽的な幅広さを示している。
おすすめのリスナー:
- Billie Eilish や Olivia Rodrigo のようなエモーショナルなポップが好きな人
- 失恋や成長の痛みをテーマにした楽曲に共感できる人
- ミニマルなピアノバラードやオルタナティブポップを好む人
おすすめアルバム
1. Olivia Rodrigo – SOUR (2021)
10代の恋愛や感情の揺れをリアルに描いた作品で、Tate McRae の楽曲と共通する要素が多い。
2. Billie Eilish – Happier Than Ever (2021)
内省的な楽曲と洗練されたプロダクションが特徴のアルバム。
3. Gracie Abrams – Good Riddance (2023)
シンガーソングライターとしての繊細な表現が光る作品で、McRae の楽曲とも相性が良い。
4. Madison Beer – Life Support (2021)
ポップとエレクトロニックなサウンドが融合したアルバムで、McRae の音楽と似た雰囲気を持つ。
5. Sasha Sloan – Only Child (2020)
エモーショナルな歌詞とシンプルなメロディが特徴で、Tate McRae の作品と共通点が多い。
Tate McRae のデビューアルバム I Used to Think I Could Fly は、彼女のアーティストとしての成熟を示し、エモーショナルな歌詞と多彩なサウンドが魅力の作品 となっている。今後のさらなる進化が期待されるアルバムだ。
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